概要
国立大学法人九州大学(総長 梶山千里、以下「九州大学」という)と独立行政法人科学技術振興機構(理事長 沖村憲樹、以下「JST」という)、独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄、以下「原子力機構」という)は、共同で水素活性化酵素である[NiFe]ヒドロゲナーゼ(Ni = ニッケル、Fe = 鉄)の水素活性化状態のモデルとなる化合物の合成と、その構造解析に成功しました。この研究成果は、2007年4月26日 午後2時(米国東部時間)にScienceオンライン版にて公開され、2007年4月27日(米国東部時間)発行のScience誌に掲載されます。
本研究は、JST戦略的創造研究推進事業ナノテクノロジー分野別バーチャルラボの研究領域「環境保全のためのナノ構造制御触媒と新材料の創製」と、文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究460「均一・不均一系触媒化学の概念融合による協奏機能触媒の創成」(協奏機能触媒)の研究の一環として、九州大学の小江誠司(おごうせいじ)教授を中心としたグループが、大阪大学および兵庫県立大学と協同で行ったものです。
■背景
天然の酵素である[NiFe]ヒドロゲナーゼ(注1)は、水中・常温・常圧下で水素分子(H2)を、プロトン(H+)とヒドリドイオン(H-)又は、2プロトン(2H+)と2電子(2e-)へ変換します(注2、3)。このように、水素分子を単に燃やしてエネルギー源として利用するだけではなく、水素分子をヒドリドイオンまたは、電子として自由自在に利用することのできる[NiFe]ヒドロゲナーゼは、水素エネルギー研究開発への応用という観点から注目されています。特に、[NiFe]ヒドロゲナーゼの水素活性化状態(注4)の構造は、人工的な水素活性化触媒の開発のヒントになると考えられています。そのような[NiFe]ヒドロゲナーゼの水素活性化状態の有力な候補として、ニッケルと鉄が、水素で架橋されたNi-H-Fe構造が提唱されてきました。しかし、このような構造を持つ化合物はこれまで知られておらず、[NiFe]ヒドロゲナーゼによる水素活性化のメカニズムは謎に包まれていました。
■内容
九州大学の小江誠司(おごうせいじ)教授を中心とする研究グループは、鉄の代わりに同族元素であるルテニウム(Ru)を用い(注5)、水中・常温・常圧下で、[NiFe]ヒドロゲナーゼの水素活性化状態のモデル化合物(Ni-H-Ru)の合成に成功しました(下図参照)。このことは、モデル化合物が水素分子をヘテロリティックに活性化(水素分子をプロトンとヒドリドイオンに開裂)し、ヒドリドイオン(H-)をニッケル(Ni)とルテニウム(Ru)の間で捕らえたことを意味します。モデル化合物の構造は、水素原子に対して感度の高い中性子構造解析(注6)により明らかにしました。この結果より、[NiFe]ヒドロゲナーゼによる水素活性化においても、本研究と同様のメカニズムで水素分子が活性化されることが強く示唆されます。

■効果
本研究によって[NiFe]ヒドロゲナーゼの水素活性化状態の構造はNi-H-Feであることが強く示唆されました。これにより、[NiFe]ヒドロゲナーゼによる水素活性化のメカニズムの解明が大きく進展すると期待されます。さらに、本研究の成果は、天然の酵素である[NiFe]ヒドロゲナーゼを範とする新しい水素活性化触媒の開発、および水素エネルギー研究開発への応用につながるものと期待されます。
■今後の展開
今後は、本研究で示した水素活性化状態(Ni-H-Ru)から、2電子(2e-)を取り出す系の構築を進めます。最終的には、水中・常温・常圧という温和な条件で、水素分子(H2)をヒドリド(H-)源、および電子(e-)源として自在に使用できる水素活性化触媒の開発にチャレンジします。

■研究領域
ナノテクノロジー分野別バーチャルラボ
研究領域: | 「環境保全のためのナノ構造制御触媒と新材料の創製」(研究総括:御園生 誠) |
研究課題名: | 水中での精密分子変換を実現するナノ遷移金属触媒創製 |
研究実施期間: | 平成14年度~平成19年度 |
■お問い合わせ先
九州大学未来化学創造センター 教授
TEL:092-802-3295 FAX:092-802-3308
E-mail:

独立行政法人科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 特定領域担当
TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
【報道担当】
TEL:092-642-2106 FAX:092-642-2113
TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432
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