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用語解説

注1.プロテオーム解析:
 細胞が発現している全てのタンパク質の量的変化について2次元電気泳動等を用いて解析する手法です。同時に、量的変化をきたしたタンパク質を質量解析等で同定し、さまざまな生理現象や病態を解明することに応用が始まっています。遺伝子発現変化のトランスクリプトーム解析などの網羅的手法を合わせてオミックス解析とも呼ばれます。

注2.HMGB:
 High Mobility Group Proteins - Bの略。核内に多量に存在するタンパク質であることが知られていましたが、最近になって急速に機能が明らかになり注目されています。DNA結合ドメイン(HMGBドメイン)を2つ持つと同時に、プラスとマイナスにチャージした領域をC末端に有します。DNAに結合した後、C末端領域をヒストンとDNAの間に挿入することでDNAをヒストンから解きほぐすとされています。DNAのあらゆる機能は一旦ヒストンから離れることで実行可能となるので、HMGBの機能は極めて重要であります。HMGB1とHMGB2は全く同じ分子構造を持ち、細胞内での機能も同等と考えられています。

注3.早老症候群:
 これらの疾患はいずれも脳神経、骨格、内臓、皮膚など、あるいはそのいずれかの老化が幼児期から急速に進行する疾患であります。そのなかの多くの疾患の原因がDNA損傷修復遺伝子の異常です。

注4.アルツハイマー病:
 認知機能低下、記名力低下を主な症状とする痴呆性疾患の一種です。日本では、痴呆性疾患のうちでも脳血管性痴呆とともに、最も多いタイプであります。

注5.パーキンソン病:
 ふるえ、動作緩慢、小刻み歩行を主な症状とする病気で、日本人口10万人当たり約100人の患者がいます。発症年齢のピークは、50歳代後半から60歳代で、発症頻度は男女同数です。

注6.筋萎縮性側索硬化症:
 重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患です。きわめて進行が速く、半数ほどが発症後3年から5年で呼吸筋麻痺により死亡します。有効な治療法は確立されていません。

注7.脊髄小脳変性症:
 運動失調を主要な症状とする神経変性疾患で、推定では10万人に対して5~10人程度と考えられています。遺伝性以外の原因は不明です。

注8.小胞体ストレス:
 タンパク質はRNAからの翻訳直後、細胞内小器官の一つである小胞体の内腔に入り折り畳まれることで正しい立体構造を取るようになります。ところが、正常な折り畳みができない場合も多く、このような異常構造を取るタンパク質が小器官内部に蓄積する(小胞体ストレス)と、小胞体膜から様々なシグナル分子が遊離し小胞体ストレスシグナルを伝えます。その結果、翻訳抑制、シャペロン分子(異常構造を直す分子である)の産生亢進、あるいは細胞死がおきることが分かっています。

注9.軸索輸送:
 神経細胞は極めて長い細胞突起を持っています。この突起を使って他の神経細胞とシナプスを作り、電子部品の回路に相当する神経回路網(ネットワーク)を形成しています。このような長い突起を維持するために、神経突起内部のレールに相当する骨格タンパク質を利用して、様々な物質を順方向あるいは逆方向に輸送することが知られています。最近、アルツハイマー病あるいはハンチントン病の疾患原因タンパク質機能が軸索輸送に関連することが明らかになっています。

注10.ポリグルタミン病:
 遺伝性神経変性疾患の中で、ポリグルタミン鎖をコードするCAGリピートが異常に伸長することによって発症する疾患です。これまでに、球脊髄性筋萎縮痒、ハンチントン病、脊髄小脳変性症1型(SCA1)、SCA2、Machado-Joseph病(SCA3とも呼ばれる)、SCA6、SCA7、SCA17、歯状核赤核、淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の9種類の疾患が報告されています。

注11.RNAポメラーゼII:
 DNAを鋳型としてDNAの塩基配列と相補的なRNAを合成する酵素の一つです。

注12.PQBP1:
 異常ポリグルタミンタンパク質に結合する新規分子です。酵母two-hybrid法を用いてクローニングされました。RNAポメラーゼIIとスプライシング分子U5-15kDに結合し、転写とRNAスプライシングに関与すると考えられています。

注13.線条体:
 大脳基底核である尾状核、被殻の総称です。マウスなどでは尾状核と被殻は一体化しています。共に内部に線のようなスジが肉眼的に観察されるために、この名称がついています。様々な変性疾患で線条体の神経細胞が冒されます。

注14.封入体:
 細胞の中で異常タンパク質(神経変性疾患の原因タンパク質など)が凝集してできた構造物です。

注15.DNA損傷シグナル:
 放射線などが細胞を通過する際に、DNAの2本鎖あるいは1本鎖に切断が生じます。これが放置される、あるいは異常な形で修復されると細胞のガン化につながります。分裂細胞はDNAの損傷を修復するために、細胞周期を止めて、さまざまな修復タンパクの発現を上昇させますが、修復しきれない場合は細胞の自殺機構(アポトーシス)を誘導するシグナル(DNA損傷シグナル)を発し、その結果ガン細胞の発生を防ぎます。神経細胞は分裂しないので他の体細胞とは異なる結果を導く可能性があります。