平成15年5月8日 |
埼玉県川口市本町4-1-8 科学技術振興事業団 電話(048)226-5606(総務部広報室) URL http://www.jst.go.jp/ |
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アルツハイマー病とAβ蓄積の間に残る謎アルツハイマー病は、記憶や知的機能が徐々に失われる進行性の痴呆であり、シナプスと呼ばれる神経細胞同士の情報交換の場が失われ病気が進行する。アルツハイマー病に罹った脳には、Aβが線維状に蓄積したシミのような「老人斑」と、タウ蛋白が異常にリン酸化された「神経原線維変化」の2つが痕跡として見出されているが、特にAβ線維の蓄積が発症の主な要因と考えられていた。しかし、大量のAβ線維が蓄積しながら痴呆を全く発症しない例も多数あることから、Aβ線維ではない「可溶性のAβ」に注目がおかれるようになった。この可溶性のAβの中でも、42個のアミノ酸からなるAβ1-42と、40個のAβ1-40の2種類があり、実際に神経毒として働くものの実体は不明であった(補足資料説明図1参照)。 | ||||||||
アミロスフェロイドの発見星研究者らは、三菱化学生命科学研究所で見出したタウ蛋白リン酸化酵素IがAβにより活性化され神経細胞の機能障害を起こすことを明らかにしてきたが、その過程において、Aβの複数ある形の中で、微量に存在し「特定の形」をとるAβが、神経毒として働くのではないかと仮定して研究を進めた。そこで今回、化学合成によって得られた純粋のAβ1-40水溶液をゆっくり回転させたところ、この水溶液が神経毒を持つようになることを見出した。更に、この水溶液から神経毒の成分の分離に成功し、神経毒として働くAβが微少の球形構造を取ることを見出し、この球状体を「アミロスフェロイド」と名付けた(補足資料説明図2参照)。また、可溶性のAβであるAβ1-40とAβ1-42とを比較したところ、より毒性が強いと考えられているAβ1-42が遙かに低濃度かつ短時間でアミロスフェロイドを形成することを発見した。このアミロスフェロイドの毒性は、前述のタウ蛋白リン酸化酵素Iの阻害剤塩化リチウムにより阻止されるため、アミロスフェロイドがタウ蛋白リン酸化酵素Iを活性化し、神経細胞死を起こす可能性が極めて高いことを証明した。 | ||||||||
結論と今後の展望本研究の成果は、アルツハイマー病発症とAβ蓄積の間に残る謎を解き、過去のタウ蛋白リン酸化酵素Iの研究も踏まえ、アミロスフェロイド形成から神経細胞死、そしてアルツハイマー病発症と言う一連の流れを提案するものとなった(補足資料説明図2参照)。今後、生体内でのアミロスフェロイドの形成機構を解明することで、アルツハイマー病発症の機構を解きほぐし、新たな治療法と将来の予防へもつながると期待される。 | ||||||||
【論文名】Spherical aggregates of β-amyloid (amylospheroid) show high neurotoxicity and activate tau protein kinase I/glycogen synthase kinase-3β (邦題)Aβより形成される球状の会合体が強力な毒性を示し、タウ蛋白リン酸化酵素Iを活性化する doi :10.1073/pnas.1237107100 【概要】 科学技術振興事業団 戦略的創造研究推進事業 さきがけタイプ 「タイムシグナルと制御」研究領域 (研究総括:永井 克孝)
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