お知らせ


平成11年1月28日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団  
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

「高温超伝導体中の磁束量子の動きを初めてリアルタイムで観察」

 科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「電子波の位相と振幅の微細空間解像」(研究代表者:北沢宏一東京大学教授)で進めている研究の一環として、高温超伝導体中の磁束量子の動きを初めてリアルタイムで観察することに成功した。この研究成果は、(株)日立製作所基礎研究所(所長 宮内克己)の外村彰主管研究長のグループと東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の北沢宏一教授のグループとの共同研究により得られたもので、1月28日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。
 高温超伝導体は、従来の超伝導体に比べ、はるかに高い温度で超伝導が得られるため、実用化に向け、これまでに様々な研究が行われてきた。高温超伝導体では、超伝導状態で流せる電流値に上限があり、実用化にとって、この上限値(臨界電流)をいかに引き上げるかが重要な課題であった。
 超伝導体に電流を流すと、超伝導体の内部にきわめて小さな磁束の糸(磁束量子)が発生し、磁場から力を受けて動き出すが、この磁束量子の動きが臨界電流を決める重要な要素である。従って、臨界電流を引き上げるには、いかにこの力に抗して磁束量子の動きを止める(ピン止め)かがポイントになるが、量子磁束はきわめて小さいため、ピン止めのメカニズム解明が困難であった。
 今回、電子の波動性を利用して微細な現象を観測する装置である350kVホログラフィー電子顕微鏡を用い、試料その他の実験条件を最適化するなどの方法により、磁束量子の動きを観測できる手法を開発した。その結果、高温超伝導体の1つであるビスマス酸化物(Bi-2212)の磁束量子が動き始める様子を初めて観察することができた。
 観察では、ビスマス酸化物においては、25Kを境に磁束量子の動きに違いがあることが見いだされた。25K以下の低温では、磁束量子は全体が一様な方向に低速移動するのに対し、25K以上の高温では、この均一な流れが乱れ、一部のみが流れ出す。この理由として、低温では磁束量子が酸素の格子欠陥に一様に捕捉され、ピン止めされるのに対し、高温では酸素以外の他の格子欠陥がピン止めメカニズムに寄与していることなどが考えられる。
 この研究成果は、臨界電流向上を目指す際の知見として不可欠な磁束量子のピン止めメカニズム解明に手がかりを与え、高温超伝導体の実用化に大いに貢献するものとして期待される。

補足説明

本件問い合わせ先:
(研究内容について)
   外村彰(とのむらあきら)
    (株)日立製作所 基礎研究所
       〒350-0395 埼玉県比企郡鳩山町赤沼
       TEL:0492-96-6111
       FAX:0492-96-6006
       E-mail: tonomura@harl.hitachi.co.jp
(事業について)
   石田秋生(いしだあきお)
    科学技術振興事業団 基礎研究推進部
       〒332-0012 川口市本町4-1-8
       TEL:048-226-5635
       FAX:048-226-1164
       E-mail:ishida@jst.go.jp

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