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「With/Postコロナ時代における科学技術について」

(令和2年7月30日理事長記者説明会 発言要旨)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、いまだにアメリカだけでも一日に5万人もの新規感染者が確認され、世界中でパンデミックが続いています。日本でも都市部や若者を中心に感染が再拡大しつつあり予断を許さない状況ですが、亡くなる人数は欧米をはじめ諸外国に比べれば少ないといえます。

一方、コロナウイルスのまん延が、米中関係など世界の政治情勢に強い影響を与え、不安定化しつつあります。多くの国・地域で分断化の傾向が顕著になり、不確実で先の見えない時代に突入しつつあると感じています。しかし、過去の感染症の歴史が証明してきたように、人類は科学技術という英知を結集して、COVID-19のパンデミックに立ち向かっていく必要があります。現在複数の国でワクチンや治療薬の開発が急速に進められていますが、それら科学技術の果実が政治的に利用されるのではなく、人類全体に享受されるようになることを願っています。

ワクチンや治療薬の開発は容易ではありません。技術的な問題に加え、安全性や生産性、経済性など、さまざまな問題を解決しなければなりません。日本でも国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)を中心にワクチンや治療薬の研究開発を支援しています。困難を乗り越えて、必ずや日本発の果実を生み出してくれると信じています。

他方、今日のコロナウイルスの大流行に対して、科学技術が貢献できることは、ワクチンや治療薬の開発に限定されるものではありません。

例えば、ワクチンが我々の手に届くまでの間、当面続く感染症流行下でも可能な限り社会経済活動や日常生活を送れるようにする技術開発が必要です。空気清浄機などのフィルターでウイルスを不活性化する技術やウイルスが付着しない・不活化する材料・表面加工技術、ウイルスを検出できる環境計測技術といった工学的アプローチのほか、医療現場での検査を自動化するロボット活用技術、ICTを活用した遠隔医療技術などが想定されます。JSTは、こうした研究者のさまざまなアイデアや技術シーズを発掘し、速やかに社会に届ける取り組みを始めます。

COVID-19は研究開発の現場にも多大な影響を及ぼしています。緊急事態宣言の下では多くの大学や研究機関が閉鎖され、今なお時間や場所の制約を受けて研究が行われています。この状況が継続すると、日本の科学技術研究の競争力の著しい低下が懸念されます。JSTは、このような厳しい環境下でも研究を維持・継続できるような「研究体制の強靭化」を図る支援をしていきます。具体的には、AIやロボット技術の活用による研究の自動化など研究のデジタル・トランスフォーメーションを推進する、三密を避ける研究環境を実現するといった柔軟な対応を講ずる必要があります。まずは、現在JSTで推進している研究開発について、研究者の要望を聞いた上でこのような追加的支援を行っていきたいと思います。研究開発現場の状況は、日本以上に感染拡大が深刻な海外でも同様です。世界の科学技術全体の水準低下が懸念される中、日本が貢献する可能性は高まっています。

COVID-19は、論文発表という研究者の活動にも影響を与えています。世界中の研究者が、COVID-19に関連する自分の研究成果を論文にまとめてジャーナルに投稿しています。これまでは投稿した論文が掲載されるまで、査読審査などに相応の時間を要するのが常識でした。しかしCOVID-19に係わる研究成果の喫緊性、重要性を踏まえ、査読者と出版社が協力して査読期間を短縮し、さらに出版前の論文をインターネットで公開し、重要な研究成果を早期に世界で共有できるようになっています。COVID-19は、こうした科学の本来の営み自体に影響を与える一方で、人類の共通課題に対して国際的な連携を推進する土壌を醸成したともいえます。こうした国際連携の輪に日本も加わっていくために、国内のさまざまな研究者が分野や専門性、組織を超えて連携をしていく必要性を感じています。

JSTは、国内外の大学や研究機関、企業や自治体などのステークホルダーと連携しながら、COVID-19という全人類が直面する課題に取り組み、持続可能な社会の実現を目指し、国難ともいえるこの事態において国民に少しでも明るい未来や希望を届けたいと考えています。そのために、今後とも事業運営において透明性、包摂性、公正性を確保しつつ、弾力的な運営やコンプライアンスのより一層の推進、組織としての総合力の発揮など「濵口プラン」の理念をWithコロナ時代においても着実に実現してまいります。

国立研究開発法人科学技術振興機構
理事長  濵口 道成