研究課題名
安全な酸化剤による革新的な酸化反応活性化制御技術の創出
プロジェクト実施期間
2019年度〜2023年度(OI機構連携型)
幹事機関、領域統括(所属)
大阪大学 井上豪(薬学研究科 教授)
参画機関(大学等、企業等)
アース環境サービス㈱、アース製薬、エースネット㈱、日本電子㈱、マイクロ波化学㈱、㈱マンダム
めざす未来
化学反応の中では最も難しい物の一つにメタンをメタノールに変換する反応があります。この反応が達成、社会実装されることによって、これまで100%輸入に頼っていたメタノールの国内生産が可能になります。また、日本近海に大量に埋蔵しているメタンハイドレートの有効利用法にも繋がる技術となります(図1)。また、この技術を利用することによって、高分子の表面に酸素官能基を導入し、様々な新機能を付与した材料の開発ができ、その可能性は無限大に拡がります(図2)。
研究のポイント
MA-Tは、亜塩素酸イオンを主剤とする除菌・消臭剤のカテゴリー名称の1つです。様々な菌やウイルスを不活化するのに有効な活性種である「二酸化塩素ラジカル」を水中で、かつ、必要な時に必要な量だけ発生させることから「要時生成型亜塩素酸イオン水溶液(Matching Transformation System)」と命名されました(BPB Reports, 2021)。このメカニズム解明を機に、メタンと空気から常温・常圧下でメタノールとギ酸に変換する21世紀のドリーム反応とも言うべき化学反応が見つかり、家畜ふん尿の嫌気性発酵で得られるバイオガスからメタノールやギ酸の製造に世界で初めて成功しています。また、高分子の表面に酸素官能基を導入できることは、それを足がかりに、化学修飾を行えば、様々な機能付与を付与することができます。
ここがすごい
家畜ふん尿より得られるバイオガスから、常温・常圧の光反応でメタノールとギ酸を製造することができます。メタンガスの空気酸化にもかかわらず二酸化炭素を全く排出しないクリーンな化学反応です。一方、様々な種類の高分子の高機能化が研究されている中で、グラフェン膜上に酸化修飾を行い、タンパク質を固定化させる技術の開発に成功しています。クライオ電子顕微鏡でタンパク質を直接観察するには平均で約1か月近く条件検討する必要がありましたが、固定化法で大幅な時間の短縮にも成功しています。
企業への一言
化学プロセスの企業様、高分子材料の開発やバイオデバイスへの応用を検討されておられる企業様をお待ちしております。また、創薬標的タンパク質の構造解析に興味のある企業様もお待ちしております。
図1. メタンからメタノールを作る酸化反応。メタンと空気、二酸化塩素の2相に分かれた溶液に数分間光を当てるだけでメタノールとギ酸が合成できます。北海道興部町の町営の興部北興バイオガスプラントにて社会実装に向けた研究も開始しています。
図3. 化学平衡を活用して亜塩素酸イオンから水性の活性種を必要な時に必要な量のみを発生させるMA-Tのシステム解明に端を発し、活性化の度合いを様々に変える技術を開発するとともに、広範な用途の開発も検討しています。私たちは様々な形の社会実装を通じて、9つのSDGsに貢献できると確信しています。
要時生成型亜塩素酸イオン水溶液(MA-T)のメカニズム。白い球(原料)と赤い球(活性種)の割合は化学平衡のため常に一定に保たれ、系に存在する菌やウイルスの不活化が完了まで赤い球を生成します。反応終了後は、理論的には、何百年でも一定量の赤い球を生成しながらずっと反応する相手を待ち続けることが分かりました。