原子力システム研究開発事業
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平成21年度募集要項

III. 研究開発課題

1.対象とする研究開発分野

 「II.1.対象とする研究開発分野」に示す平成21年度に募集する研究開発課題の具体的内容について次頁以降に記載します。

(注意事項)
1 本提案は、「もんじゅ」のデータ等を用いた研究開発、または、「もんじゅ」に適用可能な技術開発に限定します。
2 研究開発の実施に当たっては、「もんじゅ」の運転状況によって制限が加わる可能性があります。
3 新たな許認可が必要な研究開発など「もんじゅ」の運転に支障を来すような提案は採択されませんので、運転への影響が懸念される応募者は、事前に「II.5.問い合わせ先」へご相談下さい。
4 日本原子力研究開発機構は応募できません。ただし、「もんじゅ」における支援業務等については請け負うことは可能です。

【課題1】「もんじゅ」における高速増殖炉の実用化のための中核的研究開発
(1)目的
 現在、国内で50基以上の軽水炉が稼動しており、原子力立国計画でも謳われているように原子力発電が基幹電源として今後より重要となっている。さらに、資源の持続可能性を満たすために高速増殖炉の実用化が日本にとっては不可欠となっている。高速増殖炉の実用化のためには、持続可能性の他、安全性と信頼性及び核拡散抵抗性のさらなる向上が必要である。「もんじゅ」の設計データや性能試験データは今後の実用炉を目指した開発に貴重なデータとなる。これら「もんじゅ」のデータを有効に活用するとともに国内外で得られた最新知見を反映し、「もんじゅ」の運転ならびに高速増殖炉の実用化のために必要な1 炉心・燃料技術、2 プラントの安全性に関する技術、3 プラント保全技術について各技術開発目標を適切な研究開発マネジメントの下、達成することを目的とする。

(2)達成目標
1 炉心・燃料技術に関する研究開発
 「もんじゅ」のデータを基に炉心核設計手法の技術開発、燃料・材料の評価・開発を実施する。
1)炉心核設計手法に関する技術開発
 高速増殖炉プラントの実用化に向けての核設計精度の向上が課題であり、核設計手法の最新化と高度化が求められる。「もんじゅ」炉心の性能試験のデータを利用して、実用炉級の大型MOX炉心の特性評価に適用可能な、最新の解析手法に基づく炉心核設計手法を構築する。
 先ず、最新の核特性解析手法を調査検討し、有望なものを選定する。次に、解析値が持つ不確かさを定量的に評価して設計余裕を検討し、「もんじゅ」データで検証したうえで炉心核設計手法として構築する。さらに、将来的な太径・中空ペレットの採用を想定して評価方法を検討する。加えて、炉心動特性の空間依存性を把握するために、3次元核動特性モデルに基づく解析手法を開発する。
2)燃料・材料の評価手法に関する技術開発
 高燃焼度燃料用被ふく管と中空ペレットの開発は、「もんじゅ」及び実用段階の高速増殖炉の運転サイクルの長期化(高稼働率)、燃料費低減のための高燃焼度化及び高線出力化等に必要である。中空ペレットの熱伝導度を精度良く評価する技術、高燃焼度燃料用の酸化物分散強化型鋼(ODS鋼)などの燃料-被ふく管化学的相互作用(FCCI)挙動基礎過程の解明、高熱伝導粒子分散による熱伝導特性の向上など、「もんじゅ」及び実用炉燃料への反映を目指した燃料技術開発と評価手法の構築を行う。また、「もんじゅ」の照射後燃料のサイトにおける検査及び評価の手法を検討する。
2 プラントの安全性に関する研究開発
 ナトリウムポンプの停止時には1次冷却系及び2次冷却系に低流量の自然循環が生じると予想される。安全上重要なこの低流量時の熱流動特性を精度良く解析するため、「もんじゅ」の性能試験データ等を用いて、3次元伝熱流動解析手法による中間熱交換器(IHX)内部の実効的な熱伝達率の評価、原子炉容器や配管内のナトリウム温度成層化現象の予測手法の開発を行う。また、「もんじゅ」及び実用炉における補修時の被ばく量低減化を効果的に行うために、放射性物質挙動の的確な評価を目的として、ナトリウムからカバーガスに移行する放射性物質を測定する手法及び放射性物質のナトリウム中の移行沈着挙動を評価する手法を構築する。
3 プラント保全技術に関する研究開発
 軽水炉は、検査、評価及び補修が一体となった維持規準を導入し、経年劣化を考慮した保全技術を取り入れることにより原子炉施設の健全性の確認・維持・向上を図っている。これから運転を開始する「もんじゅ」においても、ナトリウム冷却、高温での運転といった高速炉の特徴を考慮した保全技術が必要になる。一方、実用化段階の高速増殖炉は、「もんじゅ」の2倍の60年の寿命で設計されるため、高温での長期間使用による経年劣化や損傷への対応も念頭に置いた保全技術が必要になる。そのような保全技術を確立するためには、機器の劣化・損傷のメカニズムを明らかにし劣化の程度を定量化しその後の進展を予測する手法を開発するとともに、運転中の機器の劣化・損傷を監視するモニタリング技術を開発する必要がある。そこで、高温で運転される高速増殖炉の健全性の確認・維持・向上を図る上で特に重要となる機器配管の高応力部や溶接部で予想されるクリープ疲労損傷や溶接割れ等の経年劣化を対象に、「もんじゅ」や実用化段階の高速増殖炉の運転や維持基準の体系化に必要な1) 劣化診断技術、2) 検査モニタリング技術及び3)補修技術を開発し、4)高速増殖炉の保全評価手法を構築する。
1)劣化診断技術開発
 き裂や減肉などの目視可能な損傷に至る前の機器配管の劣化状態の診断に適用できる検査手法やモニタリング手法の開発を行う。また、高速増殖炉材料の劣化メカニズムの検討を行い、検出した劣化状態を基に損傷に至るまでの予測が可能なシミュレーション技術や評価手法を開発する。
2)検査モニタリング技術開発
 運転中のナトリウム漏えい監視に適用できる信頼性の高い検知技術、高温で運転される高速増殖炉機器配管の温度、歪み、振動等のモニタリング技術や応力集中部や溶接部のき裂、配管減肉の発生、進展を運転中に検知し状態監視に適用できる検査技術を開発する。
3)補修技術開発
 原子炉容器や冷却系配管等のナトリウムを内包する機器配管を対象に、人が接近困難な場所に発生したクリープ疲労き裂や溶接割れ等の損傷を遠隔で補修する技術の開発を行う。併せて、補修後の材料表面の強化やクリープ疲労損傷の再発予防・防止技術の開発を行う。
4)高速増殖炉の保全評価手法の構築
 検査モニタリング、劣化診断及び補修技術に係る技術開発の状況を踏まえ、高温、長寿命化する高速増殖炉の保全を適切に行うために必要な保全評価手法を構築する。

(3)前提条件
 「もんじゅ」及び実用炉の設備、機器、構造、使用条件。
1 「もんじゅ」
電気出力/熱出力: 約280MW/714MW
熱効率: 約39%
炉心高さ/炉心等価直径: 約0.93m/約1.8m
燃焼度(炉心燃料部平均): 約80,000MWd/t
増殖比: 約1.2
運転サイクル期間: 約148日
1次冷却材温度: 約397℃(原子炉容器入口)/ 約529℃(原子炉容器出口)
2次冷却材温度: 約325℃(低温側)/ 約505℃(高温側)
冷却ループ数: 3
原子炉容器高さ/内径: 約17.8m/約7.1m(胴部)
1次冷却系配管内径: 約788mm(原子炉容器→1次冷却系循環ポンプ)
1次冷却材流量: 約15.3×106kg/h(3ループ分)
崩壊熱除去系: 強制循環、2次系補助冷却設備3基
蒸気発生器: ヘリカルコイル貫流式分離型蒸発器3基及びヘリカルコイル貫流式分離型過熱器3基
燃料取扱系: 単回転プラグ、パンタグラフ型固定アーム式
機器・配管構造: 1次冷却系の機器にはガードベッセルを設置、1次冷却系及び2次冷却系の配管は1重構造
構造材料: 原子炉容器、1次冷却系の機器配管及び2次冷却系の機器配管はSUS304
2 実用炉
電気出力/ 熱出力: 1,500MW/3,530MW
熱効率: 42.5%
炉心高さ/ 炉心等価直径: 1.0m/5.4m
燃焼度(炉心燃料部平均): 約150,000MWd/t
増殖比: 1.10〜1.03
運転サイクル期間: 約800日(約26ヶ月)
1次冷却材温度: 395℃(原子炉容器入口)/550℃(原子炉容器出口)
2次冷却材温度: 335℃(低温側)/520℃(高温側)
冷却ループ数: 2
原子炉容器高さ/内径: 21.2m/10.7m
1次冷却系配管内径: 1,238mm(原子炉容器→中間熱交換器)
1次冷却材流量: 65.4×106kg/h(2ループ分)
崩壊熱除去系: 自然循環、DRACS(炉容器内冷却方式)1基及びPRACS(中間熱交換機冷却方式)2基
蒸気発生器: 二重伝熱管直管型蒸気発生器2基
燃料取扱系: 単回転プラグ、マニピュレータ方式
機器・配管構造: 1次冷却系の機器にはガードベッセルを設置、1次冷却系及び2次冷却系の配管は2重構造
構造材料: 原子炉容器はSUS316FR、原子炉容器以外の1次冷却系の機器配管及び2次冷却系の機器配管は高クロム鋼

(4)関連技術情報
1 高速増殖原型炉もんじゅ原子炉設置許可申請書
2 宮川明 他、 高速増殖原型炉もんじゅ性能試験報告書<臨界試験〜起動試験(40%出力)>、 JNC TN2410 2005-002 (2005)
3 高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズII技術検討書、JAEA-Research 2006-042

【課題2】「もんじゅ」における高速増殖炉の実用化のための提案型研究開発
(課題2-1)高速増殖炉の設計評価システムの研究開発
(1)目的
 高速増殖炉は設計経験の蓄積が少ないため、設計上の課題を解決するため数多くの解析を試行錯誤的・網羅的に行うとともに、解析の精度を検証するため様々なモックアップ実験や詳細な数値シミュレーションを行う必要がある。このため高速増殖炉の設計には多くの費用と期間を要する。本研究では、高速増殖炉の設計に要する費用や期間を低減可能な設計評価システムを最新の計算科学技術等を用いて開発するとともに、その性能を評価し、実用化に対する見通しを得る。

(2)技術開発項目例
 最新の計算科学技術等を用いて「高速増殖炉の設計評価システム」(計算機プログラムシステム)を開発するとともに、多目的最適設計解及び高次元設計空間を評価する機能等の基本性能を熱流動・構造に関連した既往基礎実験結果等により検証する。また、開発・検証した設計評価システムにより、「もんじゅ」原子炉容器内の熱流動・構造設計に対する高次元設計空間情報を求め、その妥当性を「もんじゅ」の性能試験データ等から得られるプラントデータ(温度、流量、圧力等のプロセス量)を用いて評価し、「もんじゅ」の現状設計の高次元設計空間における位置を確認するとともに、開発した設計評価システムの実用化に対する見通しを得る。

(3)前提条件
 高速増殖炉の設計評価システムの検証及び「もんじゅ」の高次元設計空間情報等の検討は、下記の機器及び要素技術を対象とする。
 ・設計評価システムの対象機器: 高速増殖炉の原子炉容器
 ・設計評価システムの対象要素技術分野: 熱流動設計、構造設計

(4)関連技術情報
1 高速増殖原型炉もんじゅ原子炉設置許可申請書
2 日本原子力研究開発機構、日本原子力発電株式会社、高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究 フェーズII最終報告書、JAEA-Evaluation 2006-002 (2006)
3 大林茂、航空機の多目的最適設計、人工知能学会誌、Vol. 18、No. 5、pp. 495-501(2003)
4 宮川明 他、 高速増殖原型炉もんじゅ性能試験報告書<臨界試験〜起動試験(40%出力)>、 JNC TN2410 2005-002 (2005)
5 土井禎浩 他、原子炉容器上部プレナム温度評価試験(T) 40%出力試験定常時および過渡時温度測定結果、 PNC TN9410 96-117 (1996)

(課題2-2)高速増殖炉における燃料配置最適化手法の研究開発
(1)目的
 高速増殖炉の経済性向上のためには、多くの燃料を燃焼度制限まで効率よく使い、炉心の平均燃焼度を向上させることが重要であり、そのためには炉心内での燃料配置の最適化が重要である。軽水炉では燃料配置最適化の研究が精力的に行われ、計算機による最適化ツールも開発されていることも踏まえ、本研究では、「もんじゅ」を例として、高速増殖炉における燃料配置最適化の手法を開発し、実用炉への適用性を検討することを目的とする。

(2)技術開発項目例
 軽水炉等の既往研究を調査したうえで、高速増殖炉の特性に合致した燃料配置最適化手法について、理論的な検討を行い、「もんじゅ」炉心体系を使ってその有効性を確認する。その結果を踏まえて、燃料配置最適化手法を構築する。なお、有効性の確認については、既存の燃料交換パターンと本研究による最適化の比較による相対的な確認などが想定される。

(3)前提条件
 ・熱出力: 714MW
 ・最高線出力密度: 360W/cm
 ・最大過剰反応度: 0.056Δk/k
 ・反応度停止余裕: 0.01Δk/k以上
 ・炉心燃料最高燃焼度: 64,000MWd/t
 ・ブランケット燃料最高燃焼度: 5,800MWd/t

 本研究は、これらの制限値のなかで燃料配置の最適化の手法を研究するものであり、最高線出力密度などの絶対的な精度の評価や精度の向上を目的とするものではない。


(4)関連技術情報
1 高速増殖原型炉もんじゅ原子炉設置許可申請書
2 山本章夫 他、燃料配置を決定せよ!:実機軽水炉における燃料配置の最適化技術、日本原子力学会誌、 Vol.48、 No.12、pp22-46 (2006)

(課題2-3)高速増殖炉におけるプロセスデータを用いた異常徴候検出手法の研究開発
(1)目的
 高速増殖炉の運転における安全性向上のためには、プラントに発生する異常を可能な限り早期に検出し、異常が進展しないように対策を講じることが重要である。そのためには、プラントのプロセスデータを分析、評価することでプラントの状態を把握し、異常の徴候を検出する必要がある。そこで、本研究では、プロセスデータを用いて、保全活動に適用可能な機器やシステムの異常の徴候を検出する手法を開発する。

(2)技術開発項目例
 プラント各部の中性子束、温度、流量等のプロセスデータを用いて、炉心、ナトリウムポンプ、蒸発器等の異常を徴候段階あるいは早期に検出する手法を開発する。また、開発した手法を「もんじゅ」のプロセスデータを評価した結果に適用し、「もんじゅ」の特性を確認する。さらに、機器やシステムに異常が発生した時の特性を推定し、定常時と異常発生時に推定される特性を比較することで異常診断手法としての妥当性を評価する。

(3)前提条件
 「もんじゅ」の性能試験時におけるプロセスデータ
【例】
 ・炉心: 中性子束信号、原子炉容器出口ナトリウム温度
 ・ナトリムポンプ: 冷却材流量、ポンプ回転数、振動

(4)関連技術情報
1 高速増殖原型炉もんじゅ原子炉設置許可申請書
2 宇田川一幸 他、「もんじゅ」定常ゆらぎ特性の評価、サイクル機構技報、No.9 (2000)
3 宮川明 他、 高速増殖原型炉もんじゅ性能試験報告書<臨界試験〜起動試験(40%出力)>、 JNC TN2410 2005-002 (2005)

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