低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2022-PP-07

東北地域県間産業連関表の推計と地域間産業依存構造変化の分析

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概要

 日本政府による平成26年策定、令和元年改訂の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」は「人口急減・超高齢化のなかで各地域がそれぞれの特徴を活かし自律的で持続的な社会を創生する」ことを目指した。これは本低炭素社会戦略センターの掲げる「明るく豊かな低炭素社会」の構築の考え方と軌を一にするものである1)。この地域の特徴を活かした経済の活性化と持続可能性の維持のための政策策定を定量的に行うには産業構造の地域性と、さらにサプライチェーンの発達による間接的な波及効果を見るための地域間産業依存構造の定量的な把握が必要である。

 地域間産業連関表はこれに答えるため開発されてきたが、わが国では2005年を最後に作成が停止している。そこで、本提案書ではまず、東北地域6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)に着目し、2015年の県間産業連関表を推計し2005年表と比較することで、地域間、産業間の取引構造の2015年の産業構造と、この間の変化を分析した。ここで、最新の県間産業連関表は2005年にとどまり、また県ごとの産業連関表は2015年データが最新となっている。本提案書では、前者の2005年県間データの構造を延長して後者の2015年県データと整合するよう、RAS2)法を適用し2015年地域間産業連関表を推計した。これにより東北6県の産業構造の特性と2時点の比較、特化係数による各県主要産業の抽出、逆行列係数の分析により産業構造の変化につながる要因を考察、検討した。
 この推計結果から導かれる波及効果や特化係数を見ることで、東北6県の産業の相互依存構造が2005年から2015年間の変化を定量的に把握できる。波及効果推計結果付表1、付表2、付表3より東北地域全体への波及効果は2時点比較で6割まで減少。東北6県全てが減少傾向にあり、特に福島県は2割程まで落ち込んでいる。産業部門別では2時点ともに、自部門を含む場合「乗用車・その他自動車」、「鉄鋼製品」が上位部門で、自部門を除いた場合は一次産業、二次産業への波及効果が見てとれる。波及効果が大きく変化した部門は秋田県電子部品部門への波及が福島県電気・ガス・熱供給で1.309、青森県金属製品部門で0.645と秋田県電子部門への集積が見られた。青森県金属製品で農林水産業、食品業、電子部品産業では、特化係数が秋田県の産業用電気機器で約31倍、その他部門も1.5倍から8.3倍の間で大きく変化し、加工組立産業を中心とするものづくり産業の集積が進んでいる。また、東北域内と東北域外との取引構造は、具体的に付表4、付表5より東北6県域外への移出で宮城県の商業が950,207百万円、飲食料品が475,472百万円、福島県の電力・ガス・熱供給が452,049百万円、東北6県域内の県外移出では、宮城県のその他の公共サービスが1,701,155百万円、福島県のその他の公共サービス1,169,627百万円、青森県のその他の公共サービス1,098,910百万円で大きく変化したことが示された。
 本提案書が目指した地域間産業連関表は、地域バイオマス資源賦存量や交通システムなど地域エネルギーシステムと合わせることで、産業とエネルギー、環境を統合的に評価し「明るく豊かな低炭素社会」の姿をより具体的に描く拡張の方向性があるが、本提案書の段階ではそのなかの東北地方の産業構造の描写にとどまる。進展する素地がある地域産業に関わる技術開発動向、経済社会制度、イノベーション構築の見通しと寄与度を明らかにしてくことが課題である。それでもなお、本提案書の結果は、今後、サプライチェーンの広域化の趨勢のなかで、間接的な影響を念頭に置いたうえでの今後の政策と投資のあり方の議論の基盤を与えるものである。

1) 内閣府、「まち・ひと・しごと創成-地方創成」https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html
2) 行列 A に対して各行の和(列和)及び各列の和(行和)が、それぞれ定められた値になるよう一定の変換を行う手法。
A → RAS(R:行の変換を行う対角行列、S:列の変換を行う対角行列)の変換を一定値に収束するまで繰り返し行う。

提案書全文

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