低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2014-PP-14

現行技術による低炭素化のポテンシャルと経済影響評価試算

概要

 本提案書では、家庭の省エネが進み、再生可能エネルギーの導入が進み、産業の製造工程のリサイクルが進展したとき、経済はどのような姿になっていて、低炭素化はどの程度進んでいるかについて、日本経済の応用一般均衡モデルを用いて計算した結果を示した。

 今回の想定による計算では、日本のCO2排出量は基準データ比で30.5%減少するという結果が得られた。30.5%の構成は、17.8%が家庭の省エネ、12.5%が再生可能エネルギー進展、0.3%が鉄鋼リサイクル進展によるものであった1)。また、GDPは横ばいであったが、産業構造変化が示された。
 家庭の省エネについては、LCSによる試算[1]に基づき、各家庭の光熱費とガソリン代がそれぞれ4分の1になると想定した。その結果、電気、ガス、石油製品の需要が減少し、その分家計は他の財を消費することになる。経済波及効果は、電力等のエネルギー関連部門より、サービス産業の方が大きいことから、GDPは微増となる。
 再生可能エネルギー進展については、データの基準年である2005年の火力発電の3分の2が、太陽光発電と風力発電に置き換わると想定している。石炭・石油製品・電力の生産が減少し、建設とサービス業(特に研究部門)の生産が増加する。付加価値率についての想定は変更していないことから、GDPはほぼ横ばいであった。
 鉄鋼のリサイクル進展については、基準年の転炉による粗鋼生産のうち2分の1が電気炉による生産に切り替わると想定している。その結果、リサイクルした鉄を利用することから、鉄鋼の生産(粗鋼需要)が減り、電力の生産が増加する。日本全体でのCO2排出削減量は少ないものの、鉄鋼部門のCO2排出量の3.4%削減となった。
 これら3種の前提を同時に想定した場合、前述の通り、日本のCO2排出量は30.5%減と計算された。GDPはほぼ横ばいであり、産業構造は化石燃料や電力部門の生産が減少し、その分サービス産業や食料品部門の生産が増加した。大幅なCO2削減は、現行の技術の最大導入だけでも大きく進み、構造変化は伴うものの、経済活動水準には変化がないという試算結果となった。
 なお、本試算には、今回の想定に含まれていない「太陽光・風力以外の再生可能エネルギーの進展」や、「鉄リサイクル以外のリサイクル進展」は考慮されていない。これらを考慮することで、より大きなCO2排出削減を見込むことができる可能性がある。一方で、産業構造変化による付加価値率の変化や、雇用への影響、国際競争による影響については考慮しておらず、これらを考慮することでどのように結果に影響が出るかを検討する必要がある。
 さらに、将来の社会経済構造については、今後大きく変化する可能性も多いにあり得る。2030年や2050年にどのような社会となっているかについては、多様な立場にある人々と一緒に議論を行うシナリオプランニング等の手法によって、複数シナリオを構築することを検討している。このように導かれたシナリオに基づいた試算を行うことについても、今後取組んでゆきたい。

提案書全文

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