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平成17年度採択課題の研究終了にあたって

「先進的統合センシング技術」研究領域
研究総括 板生 清

 本研究領域は、自然災害や人為的作用等社会の安全・安心を脅かす危険や脅威を早期かつ的確に検知し、その情報を迅速に伝達する統合センシング技術を創出することを目指す研究を対象とするものである。具体的には、センサデバイス、情報処理、ネットワーク技術の各分野及びそれらを統合した技術開発により、自然災害や人為的作用等による、危険物・有害物質や、ビル・橋などの人工物・建造物の劣化・異常、人間のバイタルサインの異変等の危険や脅威を早期かつ的確に検知し、その情報を迅速に伝達する統合センシング技術を創出することを目指している。昨年度までに平成17年度採択のうち2課題が終了し、更に今年度は残りの4課題である、「社会の安全・安心に貢献するユビキタス集積化マイクロセンサの開発」(石田チーム)、「安全と利便性を両立した空間見守りシステム」(車谷チーム)、「安心・安全のための移動体センシング技術」(佐藤チーム)、「事故予防のための日常行動センシングおよび計算論の基盤技術」(西田チーム)の研究が終了した。当領域では、「安全・安心な社会を実現する為の統合センシング技術」を創出することを目的とするため、学術的な研究のみならず、現実的な安全・安心システムを描いて着実かつ段階的にシステム化を進めていくような社会実装に関する研究も含めて、双方をバランスよく進めることが必要である。成果目標達成のために、中間評価、サイトビジット等を始めとして、活発な議論が多く実施された。その結果、4課題とも両面において高いレベルの研究成果が創出された。

(1)「社会の安全・安心に貢献するユビキタス集積化マイクロセンサの開発」では、電源や電池寿命から解放された完全無線型マイクロ集積センサ・ノードの世界初の実現を目指し、無線電源回路機能の集積化技術及びオンチップアンテナ技術を構築した。更には、それらの無線回路技術とスマートセンサをマイクロチップ上に統合化し、完全無線動作が可能なワンチップのマイクロセンサ・ノードを実現し、応用評価に関するフィールド実験も実施した。同課題からは、未来の理想的スマートマイクロチップの可能性を持った世界初の技術を数多く生み出し、これらの研究成果により大学内に新たな異分野融合研究所(豊橋技術科学大学、EIIRIS)が設立され、技術の更なる向上と幅広い活用、人材育成の礎を築いた。

(2)「安全と利便性を両立した空間見守りシステム」においては、屋内空間における自律型測位システム、生体運動見守りシステムの2つのシステムの確立のみならず、1)平常時には利便性を提供し、非常時には非常時用情報を自動的に配信する「屋内自律型ナビゲーション」、2)遠隔地の家族や医療関係者がユーザの運動状態を見守れる「遠隔生体見守りサービス」といった、2つの具体的なサービス実現に向けた実証実験を実施する等、実用化に向けた研究成果を生み出した。

(3)「安心・安全のための移動体センシング技術」では、国内の巨大産業をなす生活、交通、物流分野において、人や車両など移動体のふるまいを予測・制御することが安心安全の確保のために必要不可欠であることに着目し、「過疎地域における高齢者の安心な日常生活確保のための住居での常時見守りシステム」、「交通事故を未然に防ぐための高度運転支援システム」、「高齢者の安全な移動確保と環境負荷低減を目的としたオンデマンドバスの自動運用システム」の実現に向けた技術開発を実現した。同課題からは、「オンデマンド交通サービスの実用化研究」が、「A-STEP」事業に採択され(H22〜26)、「高齢者の自立を支援し安全安心社会を実現する自動運転システム」、「高齢者社会参加統合サービスパッケージの構築」の2課題が「産学イノベーション加速事業」(S−イノベ)に採択される等、実用化に向けて次のステップに進んでおり、システム実現に向けて着実な成果が出ている。

(4)「事故予防のための日常行動センシングおよび計算論の基盤技術」では、ユビキタスセンシングを用いた人間行動センシング技術、事故事例収集のためのインターネットセンシング技術、人間行動のモデル化技術を開発し、更には、3つの要素技術統合による安心・安全な社会システムの構築に関して優れた成果を出した。それにより「傷害予防工学」という傷害予防のための方法論の体系化を実現し、この研究を軸に、現在多くの学校、病院との連携が活発に実施されている。更に、子供の視点に立ったものづくりやサービスを対象とするキッズデザイン産業の広がりが見られる中で、傷害サーベイランス技術に基づいた児童参加型の安全教育プログラムを開発、小学校でその有効性を検証し、2010年度キッズデザイン賞を受賞する等、子どものための安心安全社会の実現に向けて社会への大きなインパクトを創出した。

 研究の終了にあたって、研究成果を研究終了報告書として取りまとめた。ご高覧頂き今後の研究・実用化の進展に向けてアドバイスを頂ければ幸いである。

 最後に課題の選定評価にとどまらず、シンポジウム、サイトビジット、領域会議等で適切な助言指導を頂いた領域アドバイザーの青山友紀特別招聘教授、梅津光生教授、尾形仁士相談役、金出武雄教授、岸野文郎教授、徳田英幸教授、保立和夫教授、前田章准教授、前田龍太郎研究センター長、故高木幹雄教授、故谷江和雄教授、故森泉豊榮名誉教授の諸先生方に深く感謝致します。