研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
エネルギーミニマム型高分子形成システム技術の開発
2.研究代表者
研究代表者 馬越 淳 農業生物資源研究所 チーム長
3.研究概要
 生物が作る天然高分子の構造形成メカニズムを解明することによって、常温での高分子形成、自己凝集、液晶形成、ゲル―ゾル転移、金属イオン制御による分子形態の変化、流動配向などの制御技術を駆使して、エネルギーミニマムで高分子を形成するシステム技術の開発に結びつけることを研究目的とする。
 具体的には、カイコの繊維形成や、植物のプロトプラストの高分子構造形成の研究を行い、生体高分子の自己凝集機構、繊維化機構、金属イオンによる分子制御機構などを明らかにする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 絹フィブロイン分子の会合による自己凝集、ゲル―ゾル転移とカリウム、カルシウムイオンの濃度変化、フィブロインのゲル形成、結晶化、フィブロインの分子像の観測による概念形成など、高分子の構造形成の重要な部分を解明することができた。今後はこれらの知見に基づきタンパク質分子の自己組織化による構造形成モデルを提案することが期待される。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 天然タンパク質高分子構造形成については原子間力顕微鏡による観測の結果、フィブロイン分子は剛直な棒状部分を持ち、分子両端間相互作用により繊維状会合体を形成すること、ゲル―ゾル転移はカルシウム、カリウムイオンの濃度変化により引き起こされるという重要な部分の解明が進んだ。
 構造形成のモデルとして液晶相の形成過程を取り上げて研究を行った。ポリペプチド誘導体を合成し、これが水溶液中でコレステリック液晶を形成することが明らかになるなど、水溶性合成高分子による構造形成の可能性が見えてきた。
 木材のプロトプラストは大過剰の二価イオン存在下で、繊維状物質(カロース)を細胞外に生産することが発見された。植物における高分子構造形成の手がかりを得た。
 絹フィブロイン水溶液の中にセルロース結晶を入れると、絹フィブロインの自己凝集が起こり、低エネルギーでフィブロイン分子がセルロース上に配向することを見いだした。
4−3.総合的評価
 絹を手本とし、人工的に高分子を作るという着想は優れている。またカイコの紡糸に関するユニークな知見の蓄積、特に高分子構造形成の重要な部分であるゲル―ゾル転移、フィブロインの構造形成メカニズム等の解明に成功したことは高く評価したい。
 ただ、所定の期間内に、エネルギーミニマム型システム技術の形成まで到達できるか、疑問がないわけではない。カイコの餌としての桑の生産から絹糸の生産まで一貫したシステムとしての展望に欠ける。一度、自由な発想で全体計画を見直し、戦線を整理する必要がないだろうか。
<<資源循環トップ


This page updated on April 1, 2003
Copyright(C)2003 Japan Science and Technology Corporation