この研究チームでは、従来にない高速処理性能と人脳に近い柔軟な判断力を備えた情報処理システムを実現させるために、量子計算の原理を応用したシリコン高速プロセッサ(フラクタル量子プロセッサ)と右脳的瞬時認識のできる共鳴型知的エージェントに電子クラスタによる大容量機能メモリを装備し、量子ナノ細線デバイスを用いたプログラマブル結線によって極限的高密度集積を狙うシステムが構想されている。これまでに個々の研究テーマについていずれも独創的な成果が得られた上、今後それらの幾つかが相互協力した研究開発を行い、実際的なシステムを実現させる方向づけも始まっている。 |
本研究チームは、フラクタル量子プロセッサ(東大)、共鳴型知的エージェント(東大)、電子クラスターメモリ(東大生研)、電子場デバイス(産総研)の4つのグループから成り立っている。フラクタル量子プロセッサ、共鳴型知的エージェントの発想、研究は国内外を通じて他に例が無く、極めて独創的であり、且つ前者は他の並列計算システムと比較しても性能、ハードウエアの点で優れていて重要度は高く、後者も確度の高いパターン認識技術として国際的に注目されている。単電子トランジスタを始め電子クラスタメモリー関連の研究成果も国際学界で注目されており、Si 量子細線を用いた電子場デバイスの研究もユニークな成果である。
現時点では各グループの目標達成に全力を傾注すべきであるが、本事業による研究期間が5年間であることに鑑み、研究成果がチームとしてまとまるように各グループの研究計画を立てることが必要で、とくに電子場デバイスグループの研究活動は他のグループとの連繋を重視して行われることを要請したい。 |
特筆すべき研究成果としては | |
・ | フラクタル量子プロセッサの提案により量子コンピュータと同等の演算効率をSi LSIを使用して実現する可能性を示し、且つ他の物理現象を用いた量子コンピュータの量子ビット数を増すことが困難と予測される事に対する一つの解決策を与え、Si LSIを使用してそれを実証しようとしていること、 | ・ | 共鳴型知的エージェントによる高い確度を有するパターン技術を開発し、その実用性を確かめるとともに新しい直観的認識を対象とする認識科学への道を拓いていること、 | ・ | 単電子トランジスタの室温動作や共鳴型特性の実現、フラッシュメモリーの多値化 | ・ | Si 量子細線及びそれにサイドゲートを付加する事による特性制御等が挙げられ、優れた研究成果が生み出されている。 |
今後フラクタル量子プロセッサとパターン認識を行う共鳴型知的エージェントについては試作機によるデモンストレーションによりその重要性が社会的に認知されることが見込まれる。単電子トランジスタによる共鳴特性が実用されれば単電子トランジスタを実際のシステムに応用した最初の例として大きな技術的インパクトを与えることが予測される。 |
本研究チームでは、「量子スケールデバイス」を、 | |
a. | 量子力学的効果を用いたデバイス、 |
b. | 量子力学系と相似な動作で情報処理をするデバイス、 |
c. | 量子力学系を利用したものに比肩する情報処理性能を有するデバイス、 |
等として概念的に明確にし、これらのデバイスを情報処理の新しいアルゴリズムまで含む高度のシステムに集積する事を「量子スケールデバイスのシステムインテグレーション」と規定することが現在までの研究成果に基づいて明示された。
今後現在までの研究を益々発展させ、研究代表者のリーダーシップのもとにチームとして纏まった研究成果を挙げられることを期待する。 |