研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
大気−陸域相互作用のモデル化と衛星観測手法の開発
2.研究代表者
研究代表者 小池 俊雄 東京大学大学院工学系研究科 教授
3.研究概要
 気候の季節進行や年々変動に大きな影響を与えている陸面−大気相互作用に関して、陸面での水・エネルギーの鉛直輸送を適切に算定するスキームを大気大循環モデルに導入する種々の試みがなされている。ここで問題となるのが、2つのスケールでの陸面の多様性である。一つはグリッドスケール内での陸面の多様性であり、他方は大陸スケールでの多様性である。これら2つのスケールの陸面での多様性が大気−陸面相互作用に与える影響を定量的に理解し、多様性を考慮した普遍的な鉛直輸送スキームを開発するには、多様な大陸上にグリッドスケールの強化観測領域を複数設定し、それぞれの観測領域においてその領域の特徴的な気候条件下で、地表面水文状態、フラックス、大気状態の空間分布を様々な空間スケールで計測して、そのプロセスを把握することが必要である。
 本研究では、2000年代始めに打ち上げられる、多様なセンサを搭載した種々の地球観測衛星を用いた包括的な観測システムの確立を目指す。次にそれぞれの領域での空間平均化手法を取り込んだ鉛直輸送スキームを開発し、それらを異なる気候条件下で相互に比較することによって、包括的で普遍的なスキームを開発し検証する。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は(1)大気−陸面相互作用の鍵となるプロセスの解明、(2)地球観測衛星を用いたグローバルモニタリングシステムの確立、(3)モデルのグローバルな適用の可能性の検証から成っている。
 チベット高原とタイに多様な地表面で構成される集中観測領域を設定し、観測を開始・継続している。これら領域内で、地表面の植生・土壌水分・積雪・地温・降水量など地上観測データを用いて、既存の衛星観測データによる土壌水分・積雪量・降水量などの算定アルゴリズムの開発・検証を行っている。
 チベット高原における永久凍土帯での陸面の不均一性を考慮した水・エネルギーフラックスのモデルを開発した。
 地球観測衛星システムの中核となるべきADEOS−II打ち上げの遅れのため、それに合わせた強化観測を2002〜2003年の本研究最終年度に設定せざるを得なくなったが、その他は当初計画に沿って研究は着実に進んでいる。
 気象学・陸水学の各専門家の相補的協力体制が組織され研究代表者のリーダーシップの下によく機能している。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 (1)については、GAMEで展開された観測網を活用し、更に、チベット高原中部、タイ北部に新たに強化観測網を構築し、観測資料を継続的に取得している。陸面過程の研究は主にチベット高原で進められ、土壌水分・凍土の融解・凍結などの時間的・空間的分布が示されている。土壌水分などの算出には精度は未だ不十分であり、改良を要する。タイにおける研究成果は未だまとめられていない。
 (2)については、衛星搭載用の改良型マイクロ波走査放射計などを用いた、積雪・土壌水分・地温・植生水分量・降水量などの算定アルゴリズムを開発し、各種の地域でそれらの検証を行いつつある。
 (3)については、地表面の非均一性を考慮した陸面−大気の熱・水フラックスを推定するモデルを開発し、チベット高原の永久凍土帯で、GAMEの資料も併用してモデルの妥当性を調べつつある。また、土壌水分と地温のデータ同化システムを開発し、大気大循環モデルに結合させる研究に着手した。
4−3.総合的評価
 極めて複雑で取扱いの困難な陸面の物理過程を気候帯による相異を考慮して立案された研究計画であり、新しい地球観測衛星を用いたグローバルモニタリングシステムの確立に貢献することを目指している。
 本研究は基本的にはGAMEの構想を引き継ぎ、更に発展させたものであり、WCRP(世界気候研究計画)におけるCEOP(地球統合強化観測プロジェクト)立案に指導的役割を果し、その成果は地球水循環に関する研究プロジェクトの一つとして世界的に注目されている。
 地球観測衛星からのリモートセンシングによる陸面状態の物理量算定アルゴリズムの開発が本研究の主課題になるであろう。そのための準備は研究代表者のリーダーシップによって着実に進められているが、ADEOS−II打ち上げが遅延され、それに伴って強化観測期間が最終年度に制約されたのは残念である。現有資料及びその他の新しい地球観測衛星の資料に基づくアルゴリズムの開発・改良に力を注ぐことが望まれる。
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