研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
海洋大気エアロゾル組成の変動と影響予測
2.研究代表者
研究代表者 植松 光夫 東京大学海洋研究所 助教授
3.研究概要
 大気エアロゾルの直接的・間接的冷却効果は、温室効果気体による地球温暖化効果と相殺する可能性が示唆されている。しかし、その化学組成・濃度・粒子数などの時空間的変動が大きく、地球規模での気候への影響評価の見積りには大きな不確定要素を伴う。一方、それら大気からの降下物質は、生物活動に影響を与え、生物起源のエアロゾル発生量や炭素固定量を増減する。地球表面積の約7割を占める海洋において、エアロゾルの主要成分である海塩・鉱物・硫酸塩・硝酸塩・炭素質粒子が対流圏大気組成の決定や気候変化と大きくかかわっている。しかし、海洋上での分布や時間的変動やその変質過程については、その観測の困難さや乏しい測定機会のため、ほとんど知られていない。
 西部北太平洋は自然起源と人為起源のエアロゾルが混在し、その変質過程が顕著に現れる特徴ある重要な海域である。この西部北太平洋での国際戦略的研究を優位に推進できる我が国が中心となり、陸・大気・海洋間を生成・循環・消滅するエアロゾルの物理・化学的特性と生物地球化学的物質循環の変化を把握する。本研究は 観測・分析機器の開発、それらを用いた海洋大気エアロゾル分布とその変動の観測、予測モデルの開発を目的とする。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は(1)無人海洋大気観測艇と自動観測・分析機器の開発、(2)海洋大気エアロゾル組成の観測、(3)予測モデルの改良から成っている。
 海面を自動航走或は定点保持して海上大気質・エアロゾル等を連続観測する無人観測艇が試作され、2回の試験航海が行われ、搭載された自動観測分析装置も順調に作動した。今後、本州東方海域で、他の研究観測船との同時観測が実施される見込みである。
 利尻島から佐渡島、八丈島、父島に至る東経140度線上の4島における自動観測機器によるエアロゾルと前駆気体成分の連続観測が2001年3月から開始された。
 東アジア・西部北太平洋地域気象モデルと物質輸送モデルから成る化学天気予報システムを構築した。人為起源物質と自然起源物質等約20の化学成分の分布と変動についての予測が試みられる見込みである。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 無人観測艇は研究観測船を伴走させた同時観測航海に成功し、現在、日本沿岸海域での試験航海を繰り返している。その間、三宅島の噴煙を横切り、大量の二酸化硫黄ガスやアンモニアガス、同時にこれらから生成される硫酸アンモニウムのエアロゾルを検出した。無人観測艇が、その本来の機能を十分に発揮できるようになれば、従来観測できなかった海洋上のエアロゾルの詳細な時系列観測・海上広域観測が可能となる。
 利尻島から八丈島に至る東経140度線上の4島、及び観測船の自動観測機器によるエアロゾルとガス成分の定点及び移動連続観測によって、有意義なデータが得られつつある。エアロゾルの種類と化学組成については未だ限られたデータしか示されていないが分析技術の開発が進んでいるので、今後、海洋大気のエアロゾルについて、粒径と組成の関係、輸送中の組成変化、組成の季節変化などのデータが得られ、エアロゾルのライフサイクルについての重要な知見が得られることが期待される。
 観測とモデルの結果を解析する事により、輸送される自然起源・人為起源物質の時間的・地理的分布の知見が得られつつある。
4−3.総合的評価
 島嶼観測所の設置、船舶による共同観測、無人観測艇の試験航海などが実施され、またACE-Asiaに参加することによって、海洋大気エアロゾルの組成のデータが蓄積されつつあり、組成変動についてのいくつかの興味深い成果が得られている。
 三宅島火山噴煙中のアンモニアと硫黄の検出、オホーツク海方面でのシベリア森林火災からの放出物質起源と思われるエアロゾルや日本近海上でのpHの低い海霧の発見など予想外の観測資料も取得された。また個別の研究成果は数多くの論文としてまとめられつつある。
 これらの成果を基に、海洋大気エアロゾルの組成変動とその影響予測にどのように迫って行くか、その戦略を具体的に示す必要がある。当初の研究目標を更に明確にし、今後2年間に、その目標に接近・到達するため重点課題に絞って研究を進めることが肝要である。
 無人観測艇の開発は先進的な試みであり、その性能が向上すれば、海洋大気観測手段として将来有望となる。
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