#2 A-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)

産学連携展開部
研究支援グループ

久永調査役

2010年入職

今村主査

1999年入職

大原係員

2019年入職

大学の研究成果を産業界につなぐ挑戦

 日本は、科学技術の研究開発における世界最高水準の国の一つです。しかし数多くの優れた研究があるにも関わらず、産業界との連携や、産業界への技術移転が十分でないことがかねてから指摘されてきました。この課題を解決するために国や企業はさまざまな手法の模索と挑戦を重ねています。JSTでは、産学連携展開部がそうした役割を担う中心的な部署と言えるでしょう。
 大学等で生まれた基礎研究成果の技術移転の促進をめざしてJSTが設計したプログラムの代表格が、研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」です。優れた研究成果を発掘し、産業界につないで実用化に至るまでの中長期的な研究開発を“シームレス”に推進しています。
 A-STEPには、機能検証フェーズ、産学共同フェーズ、企業主導フェーズという3つのフェーズがあり、そのうちの産学共同フェーズを、研究支援グループの23名が担当しています。「私は研究支援グループ全体を課長級としてまとめ、プログラムを運営しています。具体的には、公募選考、研究委託契約、研究推進と研究成果の発信、終了時の評価、追跡評価などの一連の業務があります」(久永調査役)
 A-STEPは2009年にスタートしました。この制度の立ち上げ時点から携わってきた同グループの今村主査は、「何もないところから、試行錯誤しながら作り上げてきた制度です。何度かバージョンアップを重ね、2015年の制度見直しでほぼ現在の形になりました」と振り返ります。現在は技術分野を4つに分け、各分野に一人ずつ、評価の決定権限を持つプログラムオフィサー(PO)を置いて選考や評価を行っています。またPO補佐として分野ごとに10名前後のアドバイザー(AD)、分野横断的に書類選考をする40名程度の査読委員がいます。選考と評価の結果は、「評価・推進会議」に送られ、担当理事やプログラムディレクター(PD)などが議論し、採択する課題を決めます。
 「大学などの研究成果を産業界に移転し、例えば実際の製品化につなげるなど、成果が社会に出て行くまでにはいくつものステップと、越えなければならないハードルがあります。どの段階にある研究でも受け入れる、というA-STEPの方針は事業立ち上げの時から一貫しています」(今村主査)。

多様なステークホルダーを中立的立場でつなぐ

 研究支援グループの大原係員は、学生時代は研究者を目指していましたが、より広い分野に触れられること、また研究成果を社会実装につなげるための支援ができることに魅力を感じ、2019年にJSTに入職しました。同グループの今村主査がメンター(*)を務めています。「学生時代は基礎研究に取り組んでいましたが、周囲には社会実装まで考えて研究している人はあまりいませんでした。ですが研究そのものが継続されるためには、その成果の社会実装を実現し、社会に利益を還元していくことが必要だと考えるようになりました。そういった意味で配属先は産学連携展開部を志望していたので、希望通りになってうれしかったです」(大原係員)。
 現在、今村主査とともにA-STEPのマネジメントをするほか、A-STEPの支援終了後の追跡調査や、久永調査役とともにイノベーション推進マネージャー(IPM/部門横断で有望な研究者や課題を発掘し、A-STEPにつなぐ役割を担う人材)の事務局運営も担当しています。「さきがけやCRESTから生まれた基礎研究の成果を実用化につなぐため、戦略研究推進部をはじめとする他部署との連携促進にも携わっています」(大原係員)。
 今村主査も大原係員も、この仕事に欠かせない能力として「俯瞰力」を挙げます。「産学連携展開部は国・産業界・学術界すべてに関わるため、ステークホルダーが多いことが特色。そのため立場や流儀の違いを理解して、多様な方々とスムーズに仕事を進めなくてはならないのが大変なところです。立場や分野の境界を越えて、全体を見通し、つなぐ能力が必要です」(大原係員)。
 そのままではつながらない産と学をつなげることができるのがJSTの重要な役割とも言えるでしょう。その大きな理由はJSTの中立性だと今村主査は考えています。「文科省の方針は大前提となりますが、JSTは個々の大学や企業と利害関係のない中立的立場に立っているのが強み。それを活かし、異質なもの同士の合意を形成できるかどうかが重要だと思っています」(今村主査)。

より応募しやすい、柔軟な制度をめざす

 JSTの事業は、研究開発支援プログラムの運営、国内外の研究分野の動向調査と分析、知的財産の活用支援、情報サービスの提供、次世代人材育成、社会との対話事業など、非常に多彩です。研究開発支援プログラム一つとっても、その中に基礎研究、国際共同研究、産学連携、企業化開発、ベンチャー支援などさまざまなものがあります。
 「こうした事業は、科学技術の発展・動向に対応し、年々改善し、より優れた新しい制度にしていかなくてはなりません。A-STEPも2020年度の公募に向けて、制度面や運用面の改革を進めています」(久永調査役)。
 今回の制度改革で、研究者の負担をより軽減しました。応募条件を緩和し、若手研究者の採択の割合も増やしています。研究課題ごとに研究開発の方向性などについて助言を行う推進ADの設置も新しい試みです。
 「支援の入口となる応募のハードルを下げたい。従来は大学と企業があらかじめパートナーを組んで応募する形式のみでしたが、大学だけでも応募可能にし、その代わり、支援期間終了後、共同で研究開発に取り組むパートナー企業の獲得をお願いするという形式を新設しました。JSTでは他部署で企業と大学のマッチング事業もしているので、大学の研究者にはこういった制度も利用していただきたいと考えています」(今村主査)。

多様な人材の能力を発揮させ、成果を上げる

 久永調査役は、マネージャーとして、メンバーの個性を尊重してなるべく仕事を任せるようにしているといいます。きっかけは、自身がかつて国際部のマネージャーとして戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)を担当していたときのエピソードです。「それまでベテラン職員が担当していた業務を、思い切って20代、30代の若手職員に任せたところ、全員が一丸となって取り組み、成果を出しました。それにより私自身も大きな達成感を得ることができました」。
 現在の研究支援グループでも、開放的で柔軟な環境によってメンバーの強みや特性がより活かされています。「JSTには、いわゆる新卒や中途採用だけでなく、企業の研究開発部門に長く勤めて定年後にJSTに入った方など、多種多様なバックグラウンドを持つ職員が集まっています。年齢や職位に関わらず、自分にはない相手の経験や能力を認め合い、尊敬できる関係を築けるのも良いところです」(久永調査役)。
 久永調査役自身も、電機メーカーや自動車メーカーで半導体技術者として勤務した後、中途採用でJSTに入社した経歴を持ちます。「企業に在籍していた頃は、技術者一筋に徹していましたが、長年の経験や知識を活かしながらも、科学技術に関するより幅広い業務をしてみたいと考えるようになりJSTに転職しました。実際、現在に至るまでに実に多様な業務に携わることができています」。

働きやすい環境を土台に、研究者の信頼を得ながら産学連携を強力に支援

 久永調査役は、A-STEPの制度改革を通じて、JST中長期計画に定められている「基礎研究から実用化支援、知的財産化まで一貫して実施可能な体制の構築」をめざしています。「基礎研究成果を受け取り、産学連携体制の構築から、成果の実用化や企業への技術移転まで支援できる制度と体制を整えていきます」(久永調査役)。
 こうした構想を実現するために、久永調査役は、社内的には働きやすい職場づくりを、社外的には研究者の方々からの信頼を得ることを大切にしています。「JSTは巨額の研究費を管理していますが、これは国民の税金が原資です。また研究者が苦労の末に創出した貴重な研究成果情報をお預かりし、管理しています。ですからJSTの職員一人ひとりが信頼を得ることが極めて重要なのです」。
 それは現場の意識にも反映されています。大原係員は、今村主査から、仕事を単なる “作業”にしてしまわないことを学んでいると語ります。
 「なぜこの仕事をするのか、どのようにやるべきか、何がベストか、という意識を持つようにしています。担当業務の範囲だけでなく、常に広い視野を持って、仕事をするように心がけています。それによって仕事に発展性が出てくると思います。具体的には部署間連携を強化し、有望な基礎研究由来の成果を、社会実装へつなぐ制度設計に携わりたいですね」。
 もちろん新しいA-STEPができてもそれは“完成”ではありません。今後も、研究分野の動向や個別の成果に照らし、調整と改革が続きます。こうしたJSTの着実で息の長い取り組みは、日本の「産」と「学」をより迅速にスムーズに、そして確実につなぐ一助となっています。

(* メンター)
JSTでは新入職員が早く職場に慣れ、自律的に業務に取り組めるように、上司とは別に指導・相談役となる先輩職員が1対1でサポートする「メンター制度」を設けています。

※所属部署および掲載内容は取材当時のものです
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