Project

プロジェクトの紹介
グループD

核データベースの作成からその応用まで、きめ細かくコーディネート

大津秀暁博士たちはグループAが加速器実験を行っている理化学研究所で、多種粒子測定装置(SAMURAIスペクトロメーター)での酸素28合成といった不安定核の作成などに関わってきました。また、原子炉廃棄物の状態を調べるために、セシウムやストロンチウムを陽子にぶつけて、その反応確率を調べてきました。それらのデータはJENDLの放射性同位元素(RI)の核データとして蓄積されています。

TOMOEプロジェクトでは、計算値と評価済みデータを比較し、齟齬がある場合は必要に応じて実験測定を行っています。また、応用分野のリーダー役として、三体核力を考慮した核データの適切な評価に努め、その利用を図っています。

「現在のJENDL-5は世界的に高く評価されていますが、さらにJENDL-6 Featured by TOMOEプロジェクトが構築され、これさえあれば原子核のすべてがわかる、ということになればいいなと思っています」(大津博士)。

理化学研究所の多種粒子測定装置SAMURAI/TOMOEプロジェクトでは、計算値と評価済みデータを比較し、齟齬があると実験測定を行っている。

TOMOEプロジェクトは原子核のさまざまな性質を明らかにして、原子核を精密に記述する基礎科学を確立する。そこで得られた核データは原子・分子の物理学の世界だけではなく、エネルギー工学、医学、生命科学から天体物理学に至る多様な研究に応用され、多様な分野の発展をもたらすと予想されている。

三体核力を考慮した新たな核データベースづくり

岩本修博士たちのグループは、原子核の反応データをデータベースにまとめたJENDL-5を構築した立役者です。世界中の実験データを収集・評価し、実験の空白地帯は理論的に詰め、約10年の歳月をかけて作り上げました。中性子に関する反応だけで800核種に上ります。

核データは長年、原子炉の設計など原子力工学の分野で使われてきましたが、最近では核医学の分野はもちろんのこと、電子デバイスの書き込み符号に宇宙線などの環境放射線によって誤りが生じる問題など、電子工学分野でも盛んに用いられています。量子コンピュータの開発では、誤り訂正が最重要課題の一つになっています。

応用範囲が広がると、核反応のデータもさらに広範囲のものが求められるようになります。原子力以外の分野で使われるデータについてはまだ十分とはいえませんが、実験で全てをカバーしていくのは難しいでしょう。「理論を基本的なところから積み上げて予測精度を上げていくことができれば、データの信頼性が向上し、カバーできる範囲も広がっていきます。それを基に、どのような次世代核データベースがつくれるか」と、岩本博士は模索しています。

核データの生産と利用 核データは実験値と理論を組み合わせて「評価」という過程を経て生産される。ここの実験値の間には差異がみられる場合が多く(左図)、ある利用分野で必要とされるすべてのデータをカバーできるわけではないので、理論の力を借りてすき間を埋める。ここで、その時点で最も確からしい1本の線を引くことを「核データの評価」という(中図)。こうして得られた核データは特定の分野のアプリケーション等で使うことができるように加工されて、利用に供される。

放射性同位元素(RI)の核データを検証し、RI製造技術を確立

菊永英寿博士たちのグループは、加速器で加速した電子を物質に入れ、そこから出てくるアルファ粒子(ヘリウムの原子核)のような荷電粒子、あるいは電荷を持たない中性子、あるいは制動放射線(光)を標的に当てて、RIをつくっています。このとき、核反応が起こる確率は、核データの反応断面積の値によります。この値が2倍違えば収量も2倍違ってきます。核医学などで使う商用的なRI製造事業を計画するときは、核データの予測値を使うので、データが正しくないと事業計画に支障が出ます。そのためデータの検証は不可欠で、菊永博士たちは反応断面積の測定がいちばん難しい「光入射」の方法を試みています。

このプロジェクトでも、理論計算に基づいた新しい値が示されれば、それを実験値と比べて検証します。また、実際にRIを製造して、放射線診断薬・治療薬の開発を進める小川美香子博士たちのグループに引き渡してもいきます。

「RIを新しくつくるとき、過去にあまり例のない反応を使うときや、昔のデータで信頼性が低いときには、実験をしてデータを取り直します。信頼できる正確な核データがあれば、いろいろ計画を立てられます」。菊永博士は究極のデータを目指しています。

東北大学の大強度電子線形加速器/大規模RI製造の研究開発を行っている。(©Hidetoshi Kikunaga)

新しい核種を使った放射線診断薬・治療薬の開発

近年、核医学の発展は目覚ましく、生体機能を映像化する陽電子放出断層撮影(PET)や単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)などのイメージング診断が多くの病院で使われるようになりました。PETによるがんの診断では、がん細胞に取り込まれやすいブドウ糖と陽電子を放出する放射性フッ素(フッ素18)を組み合わせた放射性薬剤が一般的に使われています。

小川美香子博士たちのグループでは、放射性物質を使った診断薬の開発だけでなく、放射性治療薬の開発に力を入れています。がん細胞というと、細胞の集合体をイメージしますが、そこにはがん細胞だけでなく、免疫細胞なども混じっています。ベータ線やエックス線などの強い放射線を照射すると、免疫細胞まで殺してしまうことになり、また、がん細胞が残っていると再増殖する危険性が高くなります。一方、飛翔距離が短く標的の近く紙一枚で止めることのできるアルファ線や、1個の細胞内にとどめることができるオージェ電子といった体内で飛ぶ距離が短い放射線を出す治療薬をがん細胞に届けることができれば、がん細胞だけを選択的に消失させることができます。

小川博士は「診断と治療の両方できる(Radiotheranostics)放射性同位元素薬剤の開発」がプロジェクトの本命だと考えています。

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