全ての物質の構成要素となる原子核の物性(核物性)の理解は、あらゆる物質の解明に役立ち、医療、環境、農業、工業、歴史学研究など多岐にわたる分野ヘの貢献が期待されています。核物性を創り出すのは原子核を形作る核力です。長い間、2つの核子(陽子および中性子の総称)の間に働く核力のみで原子核が理解できるとされてきましたが、その後の理論研究と、研究総括らによる実験により、核子が3つ同時に作用して生じる三体核力の考慮が必要であることが明らかになりました。しかし、三体核力を含む核物性の解明のための実験手法や理論体系は十分に確立していませんでした。
このような背景のもと本プロジェクトでは、適切な標的とビームを用いて実験条件を制御することで高精度の実験を実現し、その結果を入力として理論を確立させ、三体核力を決定します。さらに、得られた核力を用いた量子多体精密計算法を開発することにより、核物性を記述する量子多体系シミュレーションツールを創出します。ツールの計算精度は冷却原子実験により保証します。
本研究領域を通じて、実測が難しい核物性の情報の予測が可能となり、応用科学分野で簡易に利用可能な新しい核データの創出が期待されます。
「TOMOE」について
本プロジェクトでは、「TOMOE」をプロジェクト通称名としました。
三つの核子が作用しあうことにより引力にも斥力にもなる三体核力というチカラが
原子核から宇宙の成り立ちの理解や応用科学に資する、という総括の思いを込めています。
名前は「三つ巴」の紋に端を発します。
研究総括 関口 仁子
(東京科学大学 理学院 教授)