最終更新:2013年03月01日

齋藤全能性エピゲノムプロジェクト > プロジェクト概要

 

プロジェクト概要

「研究概要」

ヒトの体は、少なく見積もって、約210種類、総数60兆個の細胞が集まって出来ています。これらの細胞群は、それぞれが特別の個性を持っており、その個性が正しく形成・維持され、機能することが、生命活動に不可欠です。細胞の個性を決定づける重要な基本情報の一つが、エピゲノム-DNAのメチル化やヒストンの様々な修飾状態等を含む、クロマチンの後成的修飾のゲノムレベルでの総体-です。エピゲノムは、細胞の分化・増殖・刺激への反応を規定し、また老化・病的状態への変化に関与します。

一方、ヒトを含む多細胞生物を構成する細胞は体細胞と生殖細胞に大別されます。体細胞は、個体の恒常性を維持するために様々な生理機能を果たす一世代限りの細胞であるのに対し、生殖細胞は、新たな個体を構築し、何世代にもわたりゲノム情報を継承するための細胞です。生殖細胞は、そのユニークかつ本質的な機能を発揮するために、その発生過程において、ゲノムワイドなエピゲノム修飾を再プログラム化し、またゲノム情報の組換えを行い、細胞としての全能性・多様性を獲得します。

我々の研究室は、マウスを用いて生殖細胞の形成機構を研究してきました。その成果に基づき、2011年に、ES細胞及びiPS細胞からエピブラスト様細胞を誘導し、さらにエピブラスト様細胞からPGC様細胞を誘導することに成功しました。誘導されたPGC様細胞は、生殖細胞を欠損するマウス新生仔の精巣に移植すると、精子に分化し、それら精子は顕微授精により健常なマウスの産出に寄与しました(Hayashi et al., Cell, 2011)。この成果は、これまで不可能であったPGCsの大量誘導(~106)を可能とし、また培養ディッシュ上で生殖細胞の全発生過程を再現する基盤を築く成果です。

本プロジェクトでは、この成果を発展、霊長類に拡張すべく、下記の5つの研究を協調して推進します。

マウス生殖細胞研究グループ

マウスにおける生殖細胞発生機構の理解をさらに深め、得られた情報に基づき、生殖細胞発生過程の培養系による再現・制御をさらに進展させることを目的とします。具体的には、マウス生殖細胞発生機構の解明、PGCsの増殖機構の解明とその制御、ES 細胞/iPS細胞から精原幹細胞及び卵子を誘導する方法の確立、を目指します。

サル初期発生機構研究グループ

霊長類のモデルとしてカニクイザルを用いて、その着床前/後胚発生及び生殖細胞形成機構を解明し、カニクイザルにおける生殖細胞発生過程の培養系による再現の基盤を形成することを目的とします。本グループの研究は滋賀医科大学のグループの研究と連携して行います。具体的には、カニクイザルゲノム配列データベースの構築、カニクイザル初期胚形成を規定する遺伝子発現解析、カニクイザル始原生殖細胞の遺伝子発現解析、カニクイザル初期胚におけるX染色体の動態解析、カニクイザルES 細胞の特性解析・培養法改善、を目指します。

サル生殖工学研究グループ

カニクイザル初期発生機構・生殖細胞発生機構の解明を促進するため、カニクイザル生殖工学技術を開発・改良します(滋賀医科大学グループ)。具体的には、カニクイザル顕微授精、初期胚培養系の開発・改良、カニクイザルES細胞株の樹立、カニクイザル生殖工学技術の開発、を目指します。

生殖エピゲノム研究グループ

マウス及びカニクイザル始原生殖細胞におけるエピゲノム制御の分子機構と実体を体系的に解明することを目的とします。具体的には、少数細胞(103~104 個)のエピゲノム修飾定量法の開発、PGC様細胞形成過程における転写制御機構の解明、PGC 様細胞形成過程におけるエピゲノム制御機構の解明、カニクイザルPGCsのエピゲノム解析基盤の構築、を目指します。

ヒト生殖細胞発生機構研究グループ

ヒトiPS細胞を用いたヒト生殖系列発生の再構成と評価を行うことを目的とします。本プロジェクトは京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授、高橋和利講師との共同研究として行います。具体的には、iPS細胞の特性解析、iPS細胞への遺伝子発現系の構築、ヒトPGC様細胞誘導法の開発、を目指します。