PROJECT

プロジェクト概要

現在実用化されている計算機は原理的な限界よりもはるかに大量のエネルギーを消費していると見られており、莫大な計算量に伴うエネルギー消費量の増加が深刻な問題となっています。今後さらに計算量が増大することが予想されることから、高速な情報処理と高いエネルギー効率を同時に実現する新機軸となる学理の創出が期待されています。

このような背景の中で、本プロジェクトでは、「いかにして、トレードオフ関係にある高速な情報処理と高いエネルギー効率を同時に達成するか」という課題を設定し、その原理限界と、原理限界達成に向けた方法を明らかにするために、研究総括が先駆者となって発展した「情報熱力学」の成果を通じ、理論と実験の両面で取り組みます。具体的には、古典から量子にわたる実験系で、熱ゆらぎ・量子ゆらぎの観測と制御により情報と熱力学的エネルギーの変換を検証することにより、情報処理に必要なエネルギーの原理限界を明らかにします。それらの知見を統合して統一的な理論を構築し、「情報と熱力学的エネルギーの相互変換の原理限界」の学理の確立を目指します。本研究を通じて、将来的には新しい計算機の概念の構築につながることが期待されます。

【プロジェクト実施期間:2023年10月~
2029年3月】

プロジェクト概要

プロジェクトの背景

19世紀の「マクスウェルのデーモン」のパラドックスの提案以来、情報と熱力学の関係は物理学における長年の論争のテーマでした。現代では、情報エントロピーを考慮に入れることでデーモンと熱力学第二法則は矛盾しないことが示されているだけでなく、非平衡統計力学の理論の進展や熱ゆらぎのレベルで制御を行う実験技術の進歩により、この15年ほどで情報熱力学に新たな光が当たっています。本プロジェクトでは、有限時間の情報処理や、量子多体系における情報熱力学に焦点を当てることで、理論と実験の両面から、情報と熱力学的エネルギーの相互変換の原理限界を明らかにすることを目指します。

研究総括沙川 貴大
(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究総括 沙川 貴大

研究グループ紹介

情報熱力学を軸として、
情報エネルギー変換の理論限界を明らかにする理論研究に取り組むとともに、研究領域全体を統括します。
最適輸送理論を軸として、
主に古典系における有限速度の情報処理の原理限界を理論的に探ります。
量子多体系を舞台として、
量子情報から熱力学的エネルギーへの変換の原理限界を理論的に探ります。
コロイド粒子と分子機械を舞台として、
熱ゆらぎが大きな系における最適な情報処理を実験的に実装することを目指します。
真空中にトラップされたナノ粒子を舞台として、
最適輸送や最適制御の量子・古典のクロスオーバーを実験的に探ります。
極低温の冷却原子を舞台として、
量子多体系における情報エネルギー変換を実験的に実現することを目指します。

関連情報