ERATO 浜地ニューロ分子技術プロジェクト

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プロジェクト概要

本研究の狙い

本プロジェクトの目標は、独創的な「ケミカルバイオロジー分子技術」の創製により、神経系や脳内での情報伝達や細胞間ネットワーク形成を個々のタンパク質分子レベルで精密に解明する事にあります。分子技術の具体例として、標的タンパク質をそれが存在する生細胞環境で狙い通りに修飾を施すことのできる生体系有機化学を新しく開拓し、また特定タンパク質の機能を自在に制御できる独自の化学遺伝学的および光遺伝学的手法を開発します。これらの化学的方法論をモデル細胞だけでなく、培養神経細胞や脳組織、生物個体でも適用できるレベルまで格段に発展させることにより、記憶や神経疾病と直接関連する神経伝達物質受容体やその相互作用タンパク質の選択的なイメージングや動態解析、あるいは機能制御による神経細胞間相互作用ネットワークの分子レベルでの解析などを実現します。これらの分子技術を、既存の遺伝学や生化学的手法と相補的なものとして神経科学の基礎研究分野に展開するだけでなく、神経伝達物質受容体やイオンチャネル、7回膜貫通型受容体(GPCR)を対象とした創薬開発などへの適用をも試み、基礎から応用まで幅広く貢献する分野融合的な神経ケミカルバイオロジーとも呼ぶべき新分野の創成を目指します。

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研究体制

本プロジェクトでは、基盤となるタンパク質化学修飾および機能制御技術の開発から、それを複雑な培養神経や脳組織へ展開し、さらには脳および生物個体の行動レベルでの神経生理学的な現象を、これらの分子技術を活用して解明する方向で研究を展開します。その過程で、それぞれのチームが相互に連携する事によって、結果や問題点、課題のフィードバック、それに応じた分子技術のバージョンアップ、標的とする生理現象の高度化などをすすめ、分野融合的な革新技術の創成を行います。4つの研究グループを立ち上げて分野融合型の新研究分野(神経ケミカルバイオロジー)の創成に挑みます。

研究グループ1:生体有機化学反応開発(グループリーダー:田村)

分子夾雑環境において有効に機能する新しい有機化学反応を開拓し、これに基づいて神経細胞内、さらには脳組織や生体個体内に存在するタンパク質のラベリングやイメージング解析を実現する分子プローブの開発を行います。具体的には、我々が独自に開発を進めてきた以下の2つの基盤技術を脳神経系に適用可能なレベルに発展させることを目標とします。さらに、研究グループ3、4で実施される脳スライスやin vivo試験の結果を分子設計へと反映し、最終的には体内動態や代謝安定性をも考慮した神経化学ツールを開発します。

生体有機化学反応開発グループの研究概要

研究グループ2:タンパク質活性制御技術の開発(グループリーダー:野中)

神経系の受容体分子の機能と行動や記憶といった個体レベルの脳機能との相関を解明するために、狙った受容体の活性を任意のタイミングで人工制御可能な化学遺伝学的および光化学遺伝学的手法を開発する。

タンパク質活性制御技術の開発グループの研究概要

研究グループ3:神経細胞・脳組織での活性制御・可視化(グループリーダー:清中)

田村および浜地グループで開発した可視化および制御技術を脳・神経系で使用できる形へと成熟させます。脳組織においては、神経細胞だけでなく、様々な種類のグリア細胞が存在して中枢機能が維持されます。神経細胞にも複数種類が存在して、それぞれが中枢機能において固有の機能を有しています。そこで、細胞種選択的な標的タンパク質活性制御法の開発およびin vivo薬剤輸送の評価を行います。また、田村グループで同定した新規タンパク質分子に関しては、動物個体(in vivo)で可視化できる方法論も開発します。

神経細胞・脳組織での活性制御・可視化グループの研究概要

研究グループ4:個体レベルでの制御および生理的意義解明 (グループリーダー:掛川)

高次脳機能とタンパク質分子との直接的な相関を動物個体で明らかにすることを目的とします。ヒトの脳では約1,000億個の神経細胞がシナプスを介して結合し、神経回路を構成することによって情報処理を行います。近年、光遺伝学や化学遺伝学技術の開発によって、個々の神経細胞の活動を外的制御することが可能となり、高次脳機能に関与する神経回路の解析が大幅に進みました。しかし、これらの方法では個々の神経細胞の活動状態を制御するのみであり、シナプスレベルでの動的な変化を解明することは困難です。神経回路は静的な構造でなく、神経活動に応じてシナプス結合が可逆的に変化します。このような「シナプス可塑性」こそが、記憶・学習の基盤と考えられており、その異常は様々な精神疾患や発達障害の原因となります。したがって、記憶・学習機構を理解し、精神・神経疾患の病態解明から新たな治療法創出に至るためには、シナプス可塑性を支える動的な分子機構の解明が必須となります。そこで、シナプス可塑性に関与するタンパク質分子の活性制御技術をまず神経回路が保たれた脳切片において検証・確立した後に、動物個体に適用し、神経活動に伴うタンパク質の動態変化と高次脳機能との因果関連を明らかにします。

個体レベルでの制御および生理的意義解明グループの研究概要

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