出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)

インタビュー

地方から世界へ
地道な研究ががん治療を変える

株式会社 KORTUC
代表取締役社長 松田 和之 氏
取締役 ロバート・ケネラー 氏(Prof. Robert Kneller)
技術開発部長 山下 正悟 氏

KORTUC社は、高知大学名誉教授の小川恭弘氏が発明した放射線増感剤『KORTUC』の医薬品としての臨床開発を行なっています。地方大学でコツコツと進められた研究が、いまや世界を市場として見据えるプロジェクトに成長した背景には、ひとりの研究者とひとりの起業家の信念がありました。『KORTUC』が多くのがん患者を救う社会を目指す株式会社KORTUCの代表取締役社長松田和之氏と、この事業に魅力を感じて参加されたプロフェッショナルのおふたりに話をお聞きしました。

画期的な放射線増感剤を開発、実用化を目指す

Q、まずは、会社概要についてご紹介ください。

松田 元高知大学医学部教授兼付属病院放射線部長小川恭弘先生(現高知大学名誉教授、神戸大学客員教授、高知総合リハビリテーョン病院院長)によって発明された、がんの放射線治療の効果を高める放射線増感剤『KORTUC』の臨床開発を行なっている会社です。これまで、放射線増感剤の開発で成功しているものはほとんどないと言っても過言ではありません。現在開発中のもののなかでも、競合製品は数える程度。そういった意味で、新規性が高く、意義の高い事業だと考えています。

Q、『KORTUC』の特徴について詳しく教えてください。

松田 放射線治療は、がんのサイズが大きくなると効果が下がってしまう課題を抱えており、それを解決するために放射線増感剤が用いられます。具体的には、がん組織に増感剤を注入してがん組織内に酸素を増やし、放射線の効果を高めるというものです。これまでの増感剤は副作用のリスクが高いものが多かったのですが、『KORTUC』は消毒液として知られるオキシドール、すなわち過酸化水素水とヒアルロン酸を混合したものなので、安全かつ効果的な増感剤と考えています。国内では既に1,000例を超える臨床実績があり、乳がん患者を中心に高い効果をあげています。また、英国で実施している臨床試験でも安全性と効果が確認されています。

海外から注目されたことで事業化を推進

Q、創業に至る経緯についてお聞かせください。

松田 欧州随一のがん研究センターを持つ英国ロイヤルマースデン病院(The Royal Marsden)の医師から、この治療法を世に出したい、ついては自分たちが臨床試験をやりたい、と小川先生にオファーがあったのが、創業のきっかけです。当時小川先生は高知大学を退官されており、ベンチャービジネスのノウハウもお持ちではありませんでした。そこで、とあるVCを通して私に話があり、資金の調達や英国とのやりとりなどをお手伝いするようになりました。それが2015年ですね。会社自体の創業は2017年になります。

Q、最初に話を聞いたときにはどう思われましたか?

松田 面白い、と思いました。今まで複数のバイオベンチャー企業に携わったことがあるのですが、どちらも注目度が高く、比較的研究開発費に恵まれたものでした。一方、小川先生の発明は、それらと同じくらいの価値があるのに、日の目を浴びていなかった。その理由としては、材料が一般の薬局でも手に入るような安価なオキシドールとヒアルロン酸ですから、薬価が原価の積み上げで決められる日本では、ビジネスとして採算が取れないと国内の製薬会社が二の足を踏んでいた状況だったんです。

Q、そんなときに英国から話があったのですね。

松田 はい。欧米では、コストではなく治療効果に対して価格が定められます。しかも放射線治療のニーズが高く恩恵を被る人は日本市場の比ではありませんから、臨床試験も進めやすい。そのうえ、日本での臨床実績がかなり進んでいて、すでに約700もの治療例があり、実用化が明確にイメージできる状況だったのも魅力でした。これが実用化されれば、がんの治療にパラダイムシフトを起こせるかもしれない、と感じました。

研究の初期を知るJSTからの出資は大きな意味があった

Q、創業時にご苦労されたことはありますか。

松田 やはり資金ですね。ロイヤルマースデン病院が臨床試験を引き受けてくれると言っても、まずは数千万円の開発コストが掛かります。その資金をどのように集めるか、その点は大変苦労しました。結局、とあるベンチャー・キャピタル(VC)から1億円の出資を得て英国での臨床試験を開始できたことで、その後の資金調達に繋がりました。

Q、JSTから出資を受けられたのもその時期ですか。

松田 そうですね。最初に投資してくれたVCから紹介されたなかにJSTも含まれていたのですが、もともと小川先生が『KORTUC』の研究を始めた当初にJSTの「シーズ発掘試験」から支援を受けていたんです。小川先生の仕事のいちばん最初の段階を知ってくれていたので、出資の話も早かったですね。JSTは『KORTUC』の芽が出るところを支援してくださって、10年経ってその芽から大輪の花が咲きそうになった段階でまた支援してくれた。当社にとって特別な存在と言えると思います。

Q、JSTの出資を受けたことによる波及効果などはありましたか?

松田 JSTという政府系機関から投資を受けられたことで、英国チームからも信頼が高まりました。しかもシーズの段階と、製品化に近いこの段階で支援を受けたことで、私たちの『KORTUC』に対する社会的な信用が大きく高まったと感じています。

志を同じくする仲間が集まり、プロジェクトをさらに加速

Q、山下さんとケネラーさんは創業後に加わったそうですが、『KORTUC』の魅力についてどんなふうに感じていますか?

ケネラー まず、たくさんのがん患者を助けられる可能性が高いという、医学的な魅力を感じました。それから、研究者としては、過酸化水素水をがん組織に注射するという簡単な概念なのにこれだけの効果が得られるという、科学的な魅力が大きかったです。また、大きな可能性を秘めている日本のベンチャー企業に参加したいという私自身の希望に合う会社でもありました。

山下 この事業では、製品開発の部分も非常に重要で、もともと外用で使われている材料を注射剤として開発しないといけません。そこで長年製薬会社に勤めていた自分の経験が活かせることにやりがいを感じています。なにより、『KORTUC』が実用化することで、安価で簡単にがん治療を提供でき、世界の貧しい地域でがんに苦しむ人を救える。それほどの事業に携われることに大きな意義を感じています。

松田 東京大学の名誉教授でもあるケネラーさんや、大手製薬企業で働いていた山下さんがこの会社に魅力を感じて加わってくれたのは、戦力として頼りになるだけではなく、この事業の意義が世の中に伝わるという大きな意味があります。いまはこのメンバーに加えてさらに3人が加わり、計6人で動いていますが、今後は事業の拡大、人員の補充も考えています。『KORTUC』が実用されれば、全世界で年間数百万人という人たちが恩恵に与る可能性があります。自分たちの仕事がそんな大きな価値を生み出せる可能性があることを肌身に感じながら、共にがんばっていきたいですね。

ぶれずにやり続け、自分が中心となる気概を持って働いてほしい

Q、若手研究者やスタートアップを考えている人たちにメッセージをお願いします。

松田 小川先生を見ていてすごいと感じたのは、注目されにくく、情報も届きにくい地方の大学で孤軍奮闘しながら、20年も30年も信じる道を貫いてきたということです。なにかと雑音の多い時代ですが、今光が当たらなくても、ぶれずにやり続けることの価値を知ってほしいと思います。また、大企業と違いベンチャーでは、自分がヒットを打たない限り話が始まらない。そういう気概を持って働けるのは大きな魅力だと思います。

株式会社 KORTUC

〒105–6004 東京都港区虎ノ門4−3−1城山トラストタワー4階

https://kortuc.com/

主な事業内容
放射線増感剤KORTUCの開発・製造および販売事業。

インタビュー一覧に戻る