ライフステージが
変わっても
世界をフィールドに
研究を進めたい

第7回 輝く女性研究者賞 ジュンアシダ賞 中野 知香NAKANO Haruka 九州大学 応用力学研究所
海洋プラスチック研究センター 助教
専門分野: 海洋学、環境動態解析、
大気水圏科学

写真:中野 知香 写真:中野 知香

2025年12月15日掲載
*所属・掲載内容は取材当時のものです

インタビュー写真1 インタビュー写真1

#Research大学で学んだ
海洋物理の知識を活かし
海洋プラスチックごみと向き合う

みなさんは、海に流れ込むプラスチックごみがどこへ行くのか考えたことはありますか?近年問題視されている海洋プラスチックごみの動態変化が、私の主な研究テーマです。日本沿岸や東南アジア周辺海域で、海水や堆積物中に含まれるプラスチックの種類と量を測り、どの海にどんな種類のごみがあるかを調査しています。

実際に確認される海洋プラスチックごみの量は、海へ排出されたと推測される量のうち僅か数%分しかありません。では一体どこへ消えたのか?調査を進める中、紫外線や波の影響で破砕を繰り返し、一部は回収困難な5mm以下のマイクロプラスチックとなり、魚やサンゴなどの生物が取り込んでいることがわかったのです。そして食物連鎖を通じて魚などの体内に濃縮され、他の生物やヒトへの健康被害を及ぼす恐れがあるため、世界で研究が加速されています。

海洋プラスチックが時間や環境の影響をどのように受けどこへ集まるかを明らかにするには、海洋調査で得られるデータが欠かせません。船から曳網し、回収した試料からプランクトンなどの不要なものを取り除き、プラスチックらしき粒子を選別します。その後、選別した粒子を分析機器にかけて詳しく解析します。私は大学で学んだ海洋物理の知識を活かし、風や潮の流れなどとプラスチック粒子の分布の関連性に着目し調査を進めています。

加えて、開発途上国でも安価に分析できる検出法の開発と、関連技術の国際標準化にも取り組んでいます。というのも、マイクロプラスチックは研究対象としてまだ新しく、分析する手法が十分に確立されていないから。調査方法が統一できていないこともあり、国や研究者でデータの質にばらつきがあるのです。

動態変化の研究やモニタリング手法の標準化を進めることで、例えば海洋プラスチックを減らす政策立案を行う際に、世界各国が科学的な根拠となる国際基準に沿ったデータを提供可能となります。こうして、自分の研究を通じて国際貢献できることに私はやりがいを感じています。

インタビュー写真2 インタビュー写真2

#Careerサイエンスと社会の
橋渡しができるのは
学外での社会人経験があったから

海に興味があった私は東京海洋大学へ進学し、海洋資源情報解析学研究室に所属しました。そこでは海水がどのように動き、混ざり、変化するかを学ぶ海洋物理を専攻。大学院へ進み学位を取った後は、研究者として生計を立てる自信がなく日本気象協会へ就職し、波浪や船舶運航に関する事業に関わっていましたが、アカデミックな世界に戻る選択肢は心の中に持っていました。

しばらくして、母校が海洋プラスチックごみの研究を始めるにあたり、海洋調査ができる人材を探していると知りました。ある海外論文で「東南アジアはプラスチック排出量が多い」と発表されたことをきっかけに、日本でも研究ニーズが高まっていたのです。ずっと関心があった国際貢献ができること、海洋調査に慣れていたこと、そしてこの分野は研究者が少ないこともあって、努力すれば私にもできるのではと、研究者に戻ることを決意しました。

2018年にポスドクとして東京海洋大学へ戻ってからは、分析化学や高分子化学の論文を読み漁って知見を広げました。またその後、特別研究員として所属した産業技術総合研究所では、国際標準化の推進に力を入れていた部門にいたため、標準化の重要性も学びました。国際規格に準拠した技術を採用している点を担保できることは経済活動において大きなアドバンテージです。この視点に至ったのは、日本気象協会や産総研での実務経験があったから。学外での社会人経験が今の研究活動にも大きく役立っていますし、「国際標準化」は研究と社会を繋げるひとつのキーワードになると実感しています。

2022年からは、九州大学応用力学研究所海洋プラスチック研究センターの助教に採用され、単身タイへ渡り、多国籍教員2名と共にサテライト研究拠点を運営。働き方などでカルチャーショックを受けることは多いですが、各国の研究者と交流する機会も増え、世界中にネットワークが広がることへ喜びを感じています。

インタビュー写真3 インタビュー写真3

#Life海外で活躍することや
研究者となることに
“特別”ではなく“当然”と思える
環境があった

私が国際貢献に興味を持ったのは、小学校の総合学習の時間で世界の子供たちの現状について調べたことがきっかけでした。将来は漠然と国連で働きたいと考えるように。本で「専門な技能や知識が必要」と知り、自然科学系の本が好きだったことや祖父母の家が海に近かったこともあり、東京海洋大学へ進みました。

学部にはアジアからの留学生が多く、多様な価値観に触れたことで、海外への憧れは更に強まりました。また研究室では、女性の先輩がリーダーとして活躍しており「私もいずれはリーダーになりたいな」「研究者として活躍するのは当たり前なのかな」と考えるようになったのは自然な流れでした。高校の同級生に博士後期課程へ進学することを伝えると、「すごいね」「かっこいいね」と言われたことも励みになりました。今振り返ると、周りのポジティブな雰囲気や、身近なロールモデルの存在は大きかったと思います。女性が海外で活躍することや研究者・リーダーになることが“特別”ではなく“当然”と感じられる環境で学べたことは、私の大きな財産です。

30代からはタイへ拠点を移し、国際エキスパートとしてマイクロプラスチックモニタリング手法の国際標準化に取り組み、諸外国の専門家と交渉を重ねています。東南アジアを中心に国際共同研究が進み、一人で研究を進めなくてよい環境が整い始め、ライフステージが変わっても研究を続けられるのではと感じています。

私は研究者として中堅に入りつつあり、今後どのように仕事とプライベートを両立させるかを考えるフェーズに。そんな中、大学の後輩とタイで出会って結婚、子どもを授かりました。入籍以前から来年(2026年)のフィンランド留学が決まっていたので、これからどうなることやらと思いつつも「まぁ何とかなるかな」と前向きにとらえ、夫とは都度相談しながら家族の将来を決めていこうと話しています。

フィンランドでは、環境省管轄の研究所において欧州で普及している分析手法を学び、現地研究者とのネットワークを強化させ、タイの海洋プラスチック研究センターをアジアの研究ハブとして発展させることを目指しています。ライフステージは変わりますが、これからも世界をフィールドに研究を進めていきたいです。

Private Photo

プライベート写真1
調査船SEAFDEC2にて
プライベート写真2
大学の後輩がバンコクに遊びに来た
左:調査船SEAFDEC2にて
右:大学の後輩がバンコクに遊びに来た

Life Journey

幼少期
植物図鑑や昆虫図鑑など、愛読書は図鑑と言えるほど自然に関する本を読む
中学生
漠然と将来は国際貢献ができる職業に就きたいと考え始める
大学・大学院生
海洋物理学を専攻。乗船調査などに取り組むことで、リーダーシップが養われる
学外での社会人勤務
日本気象協会に就職。社会と研究のつながりを強く意識するようになる
ポスドク
母校に戻り、先行研究がほぼ無い海洋プラスチックごみの調査を始める
助教
タイの研究所を運営。国際エキスパートとして諸外国の専門家と交渉を行う

Background

2016年
東京海洋大学 博士研究員
2017年
日本気象協会
2018年
東京海洋大学 博士研究員
2021年
産業技術総合研究所 産総研特別研究員
2023年
マレーシア・プトラ大学 Visiting professor
2022年
九州大学応用力学研究所海洋プラスチック研究センター 助教(現職)
写真:中野 知香

Words for the Next Generation

私は大学で理系学部に進みましたが、研究者になると論文を書いたり政策に関連する会議に出て発表したりと、結局のところ文理関係なくやるべきことに迫られます。ですので、少しでも興味があったら、まずはどんなことにも挑戦してみてください。自分には関係ないからとスルーせずに、とりあえずやってみることで何か得るものがあるはずです。
興味があること、好きなこと、やりたいと思ったことへトライし、選んだ道に納得できるよう、その都度努力してみてはいかがでしょうか。

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