シンポジウム
「女性研究者と共に創る未来」
パネルディスカッション第二部
「海外で研究する優秀な研究者との連携を考える」
JST主催 終了

  • 【パネリスト】
    • ・浅川 智恵子(IBMワトソン研究所 IBMフェロー)
    • ・塩田 佳代子(イェール大学 感染症疫学 博士課程2 年)
    • ・清水 智子(慶應義塾大学理工学部・准教授)
    • ・鳥居 啓子(ワシントン大学 ハワードヒューズ医学研究所(HHMI) 教授)
  • 【ファシリテーター】
    • 渡辺 美代子(科学技術振興機構副理事/ダイバーシティ推進室長)

海外に渡ったきっかけ

渡辺:なぜ米国に行って研究するようになったのか、そのきっかけをお話しいただけますか。
鳥居:博士号を取った当時はJSPSの特別研究員以外には日本にはポスドクとしてのポジションは殆どなく、職がなかったから、また、植物科学の分野を大きく変えるような大きな成果を国際植物学会で発表して海外から多くのオファーをいただいたので、渡米しました。
清水:子供のころから科学者になりたかったのですが、大学学部在学中に先生に相談したところ、米国の大学で博士号を取ることを薦められたからです。
塩田:小学生の頃から将来は国際機関で働きたいという夢を抱き、そのためには海外に行くのが近道かなと思い、留学しました。また、日本ではあまり風通しがよくない研究室に所属していたので、もう少しダイバーシティがある環境を求めたことも理由です。
浅川: 1985年からずっとIBMの東京基礎研究所で、自分たちで研究開発したものを世の中に出していくことができる環境にいたのですが、現実世界のアクセシビリティはコンピューターサイエンスのあらゆる分野が必要になるので、一つの企業の中だけでこれを実現するのは無理だと感じました。米国では障がい者を支援する技術の研究をしているHCI(Human Computer Interaction)の学生がたくさんいるので、これから現実世界の研究をリードしていくためには米国の大学に行かなければいけないと考えたからです。

海外での研究のやりやすさ

渡辺:海外と日本のファンディングはどのあたりが違うのでしょうか。
鳥居:米国では、女性やマイノリティの昇進過程に合わせた様々な施策やファンディングがありますが、人に投資する、つまり若い研究者が一流の研究者になる過程で投資するというところが特徴です。NIH(National Institutes of Health)ではK99 Award事業という男女を問わずポスドクからテニュアトラックに上がるあたりの研究者に多額のフェローシップを与える医学系のグラントがあり、テニュアトラックのポジションを取ったら、ROOという大きなグラントに転換するシステムがあります。HHMI(Howard Hughes Medical Institute)では、昨年、女性もしくはマイノリティだけを対象にした8年間のフェローシップを創設しましたが、これはポスドクとして4年間サポートし、その間にテニュアを取得した場合は、さらに4年間、1人当たり延べ1.5億円程度投資するというものです。さらに、HHMIのネットワークを活用し、女性やマイノリティをメンターがサポートする仕組みも創りました。
清水:米国には人を雇うためにお金を使うことができるファンディングがたくさんあります。私が所属していたローレンス・バークレー国立研究所では、私は大学院生でありながら雇われの身(Graduate Researcher Assistant)で、私のボスが取ってきた研究費を私の学費および生活費として5年間で総額約3,000万円を支給してくれました。給料をもらっていたので、自分は働いているという意識があり、責任をもって研究をするようになりました。いっぽう、日本では若手研究者が獲得できる金額はせいぜい1回100~200万円程度ですので、決して人が雇えるような額ではありません。日本のファンディングシステムにおいても学生やポスドクを雇う資金がもっと潤沢にあれば、人材育成に貢献できるのではないかと考えます。
塩田:米国では博士号を持っていなくても自分で勝手に応募してよい50万円・100万円規模の研究費のグラントがたくさんあって、教授とは全く離れたところで個人の研究プロジェクトをスタートすることができます。
浅川:米国ではGoogleやMicrosoftなどのコンピューターサイエンス関連の企業からのgift(寄付)が周囲に非常に多くあるので、ファンディングのメカニズムは非常に強いところがあると感じています。人に投資するという意味では、個人がいろいろな機会を持てる、例えば、女子学生や企業の女性技術者が年2回集まる”Grace Hopper Celebration”という女子のコンファレンスでは、企業の女性が女子学生に会い、女子学生はネットワークを張って自分の次のキャリアを見つけます。個人で応募して、それに対して奨学金なども出ますし、ポスドクなど若手のFaculty女性(コンピューターサイエンス系が中心)が応募して、選ばれると、ワークショップをして経験豊富な女性プロフェッサーとネットワークを繋いで今後のキャリアを向上させる“Rising Stars”という活動もあり、次のステップに繋げるある意味アグレッシブな機会が米国にはとても多いと感じています。
渡辺:米国ではネットワークをうまく使っているようですが、米国の素晴らしい話とは別に、日本とどのように連携したらよいのか、日本の力になるにはこうすればよいのではないかというお考えを伺えますか。
鳥居:米国で准教授になってからキャリアの節目節目でJSTに支えていただきました。米国ではラボのスタートアップの⾦額などはすべて「上層部」とのネゴシエーションで決まりますが、日本人、とりわけ女性にとってネゴシエーションは難しく、私も(給料交渉を)かなり低い額で⼿を打ってしまった経験があります。そういう時にJSTからの資⾦でポスドクを雇うことができて次に繋げることができましたし、テニュア取得直後に「さきがけ」に採用されて、その研究費で共焦点レーザー蛍光顕微鏡を購入できたことが、キャリアの大きな転機になりました。科研費は⽇本にいないと取れませんが、JSTの「さきがけ」や「CREST」は必ずしも⽇本にいる必要はなく、フレキシブルな投資なので、(それは)後に(研究者に)帰ってきてもらうには⾮常に有⽤なのではないかと思います。

ネットワーク作りの重要性

渡辺:ネットワークの話に戻りますが、米国に一人で行かれて寂しいこともあったと思いますが、そういう時にネットワークを活用して相談できる人がいれば、ずいぶん力になるのではないでしょうか。
塩田:イェール大学では、女性研究者(先生方)或いは卒業して企業で働いている女性と在校生の女性を繋ぐネットワークがあります。例えば、私が国際機関で働きたいと思えば、その機関で働いている方とつないでもらってアドバイスをもらえるというようなことが活発に行われていますが、そういうことがもう少し日本人研究者のなかでもできていったらいいなと思います。また、東京大学の経済学の分野では若手女性経済学者の会というものがあって、そこで課題の女性研究者(教授)の方と出会いうことができて、アドバイスをもらって海外に行くきっかけになったという話も聞いたことがあります。忙しい先生方には負担になるかもしれませんが、若手としては得るものが多くて非常に重要なことだなと感じています。
浅川:日本IBMでは男女比率を同等にしようということで2003年頃から女性技術者コミュニティというのを立ち上げて、女性が女性をメンターして女性の技術リーダーを増やしていくという活動をしました。当初は女性同士でどうやって活動したらよいのかわからないという状況でしたが、その活動を通してどんどん人脈が広がり、ネットワークが広がって、女性が女性と一緒にいることの心地よさというか、お互いに助け合ってキャリアアップしていくというメカニズムができていって、結果としても女性リーダーが増えて目標どおり男女比が一緒になりました。(最初は非常に大変だと思いますが、)そういう仕組み作りが必要だと思います。また、米国にいる女性と全然繋がっていない(鳥居先生とお会いするのも今日が初めてです)ので、是非JSTがリードして、海外にいる女性研究者の横串機能と日本の女性研究者とのネットワークづくりをしていただきたいと思います。

今、すべきことは何か

渡辺:女性が女性をしっかり育てるということだと思いますが、育てられるほうもそれを望んでいただけるのであれば、是非やるべきですね。もう一つどうしてもお聞きしたいのは、日本の女性研究者比率を上げるにはどうしたらよいかとういうことです。
清水:大学では入試を受けてくれる女子高校生とのイベントが非常に重視されています。以前、東京大学の物性科学研究所の女子学生イベントに参加しましたが、物理が好きでも何学部を受験したらいいのかわからない、周りに誰もいないのでどうしたらいいのかわからない、という女子高生が多かったのです。その時東京大学が行った理由は、現役女子在学生と話す機会を与えるという目的があったからでした。大学入学後は3,4年生が大学院生と話せる機会を作り、博士課程の学生はポスドクレベルの女性研究者と話す機会を作るというように、あまりにも雲の上の存在のような人の話を聞いても実感がわかないので、ちょっとずつ上のレベルへと繋げていくということで女性比率が徐々に上がっていくと思います。そういうことを繰り返すことによって結局、研究者に占める女性の割合が増えてファンディングを出す率も少しずつ上がっていくのではないかと考えます。
渡辺:それでは、ここで会場からご質問があれば受けたいと思います。
参加者:鳥居先生にお伺いしますが、米国の子供向けのテレビ番組を見ていると、「女の子だからって自動車のことがわからないのは変だ」とか「女の子だって理科を頑張ろう」というコメントによく接するのですが、米国ではマスメディアに対して、大学や学会などからそういう働きかをしているのでしょうか。
鳥居:米国ではテレビのコマーシャルなどを見ても、必ずいろいろな人種や性別の子供たちが出てきて、実際よりも多く見せるぐらいダイバーシティを入れようという動きが非常に強いです。例えば、Googleで「科学者」を検索すると、米国では必ず男女が出てきますし、子供のアニメなどでも科学者は必ず女性も出てきます。そこが重要だと思います。
浅川:米国では“排除せず、あらゆる人々を受け入れる”という意識がすごく強いような気がします。目が見えない人も車椅子の人も女性も黒人も中南米系の人も、みんなその辺にいてあまり特別ではないという、それが自然に入ってくるという強さがすごいと思います。
清水:大学では、女性教員であるということだけで委員会に呼ばれる、男女共同参画・女子学生イベントがあると呼ばれる、いろいろなところでお声がけいただくのは大変ありがたいのですが、実は女性研究者のなかでそれは大変だと思っている方がたくさんいます。私たち女性だけが頑張るのではなく、男性にもこの問題を共有していただかないと解決しないので、イベントには同じレベルの男性を常にペアで呼ぶというようなことをすると少しずつ意識が変わっていくのではないかと思います。
鳥居:こういうダイバーシティや男女共同参画のイベントで重要なのは”インセンティブ”がないといけないということです。男女含めて、こういったアウトリーチ活動を教授職に昇進するときの必要事項にするとかして、それがないと大きなCRESTは取れないというような制度にしてしまえば、男性ももっと参加するのではないか、実際にHHMIでも去年からアウトリーチのところを書かないとリニューアル審査できなくなりました。
渡辺: JSTにたくさんの課題を投げかけていただきましが、これから一つ一つできるように検討していきたいと思います。貴重なご意見をいただき本当にありがとうございました。