レポート

WISWB 2019参加、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)訪問 レポート

出張者:渡辺美代子(副理事)
    柴田敬子(国際部企画調整・国際戦略グループ 主査)
    荒木喜明(経営企画部ダイバーシティ推進室 主任調査員)
出張先:エジプト・カイロおよびアレキサンドリア
旅程:2019年3月9日(土)~17日(日)

サマリー:
写真1WISWB参加者の集合写真
  • 3rd International Conference of Women in Science without Borders(WISWB)へ出席し、情報収集を行うと共に、参加者とのネットワーキングを行った。
  • 本会議前のワークショップ1日目(3/10)では、柴田主査および荒木主任調査員が登壇し、それぞれ、国際協力に向けたJSTの国際戦略とプログラムおよび女性研究者の活躍推進に向けたJSTの取り組み状況について発表した。
  • 本会議1日目(3/12)のオープニング・プレナリーセッションでは、渡辺副理事がキーノートスピーカー(3人)の一人として登壇。Gender Equality 2.0の概念が、科学におけるジェンダー平等推進のための問題解決やSDGs達成に繋がっていくことなどを具体的な例やデータを示しながら発表した。
  • エジプト日本科学技術大学(E-JUST)を訪問し、情報交換・意見交換をすると共に、研究施設の見学等を実施した。(※E-JUST訪問概要についてはこちらを参照。

WISWBは、女性科学者の地位向上に世界が努力しているにも拘わらず、科学界における女性の貢献が未だ過小評価されている状況を踏まえ、年輩若輩を問わず科学界の女性の地位向上とSDGs達成のための科学研究の価値や影響力を高めるために、国境を越えた科学界の女性のための新たな取り組み/情報交換網/活動として組織されたもので、2017年3月に第1回目をカイロで開催、昨年3月には第2回目をヨハネスブルクで開催、今回が第3回目の国際会議となり、再びカイロでの開催となった。

写真2British University in Egypt (BUE)

開催会場であるThe British University in Egypt (BUE)にエジプト国内および近隣の中東諸国を中心に世界各国から研究者、企業人、学生など多くの男女が参加、科学と科学者の役割やSDGs達成のための世界的な課題に対して科学者が果たすべき責任に焦点を当てながら、国際協力を強化するための”科学外交”を中心的テーマとして会議が進められた。会議は、若手および中堅研究者向けに同様のテーマで一般社会や政策立案者との科学コミュニケーションの重要性などを紹介する能力開発プログラム的な位置付けとしての本会議前ワークショップ(3/10-11)から始まり、プレナリーセッションと5つのトラック(I: 生物学・医学・薬学、Ⅱ: 物質・工学・エネルギー、Ⅲ: 農学・食品技術・獣医学、Ⅳ: 環境学、Ⅴ: 近年の進歩)から成るパラレルセションで構成された本会議(3/12-14)へ続くという流れで開催された。(なお、出張者はアレキサンドリアのE-JUST訪問のため3/14のセッションには出席せず。)


WISWB主要セッション概要:

本会議前ワークショップ3/10(日) – 3/11(月)
3/10(日)午前中にカイロに到着後、午後のセッションからワークショップに出席。 セッション:“Sustainable Development – Gender Issues – State of Scientists”では、柴田主査と荒木主任調査員が登壇した。

  • 柴田主査 JST’s International Strategy and Programs under Japan’s S&T Diplomacy
    写真3登壇する柴田主査
    • 科学と外交の連携の重要性に鑑み、日本政府は初の試みとして2015年に岸輝雄氏を外務大臣科学技術顧問に任命し、各種外交政策への科学的知見に基づく助言・提言体制を構築して積極的な科学技術外交を推進している。
    • JSTでは国際協力を推進するための各種国際プログラムを実施しているが、SATREPSは、JICAと連携して、日本と開発途上国との国際科学技術協力の強化 地球規模課題の解決と科学技術水準の向上につながる新たな知見や技術の獲得とこれらを通じたイノベーションの創出、キャパシティ・ディベロップメントの達成を目的としたプログラムで、現在、環境・エネルギー/生物資源/防災分野において、30カ国で52プロジェクトを支援している。
  • A Professor of Drug Monitoring Unit-King Fahd Medical Center, Saudi Arabia
    • STEM分野へ進む女性比率が低いのは、STEMは理知的な男性のためのものだという間違った印象によるものであるが、アラブ地域における高等教育への女子の進学率は25%と比較的高く、サウジアラビアや湾岸諸国では女性に有利な不均衡さえ存在する。
  • 荒木主任調査員 JST’s Approach for Promoting Active Participation of Female Researchers
    写真4登壇する荒木主任調査員
    • 日本におけるジェンダー平等は未だ不十分な状況で研究者全体に占める女性の割合も未だ16.2%(2018年3月末)と低く、JSTファンディングへの応募と採択の女性比率をみても、例えば、CRESTは、応募5.2%、採択5.4%(2018年度)と低い状況にあることを紹介。
    • JSTでは、女性研究者の採択を増やすには、まずは女性の応募を増やす対策が必要であると考え、女性研究者意見交換やアンケートを実施し、さらにはシンポジウムを開催するなどして、その対策を模索した。その結果、女性枠の設定、審査制度の見直し(女性審査委員を増やす)、少額ファンディングプログラムなどがその対策として浮かび上がってきた。
    • その成果として、JSTでは2019年度からポスドクや博士課程も含む若手研究者向けで、女性が審査委員長を務める比較的少額なファンディングプログラム(ACT-X)を新設することとなったことを紹介。
  • A doctor of Applied Science University, Bahrain/Egypt
    • エジプトの若手研究者は、強力な国家的研究やイノベーションのシステムの成長に必要な知的資本を提供する重要な創造者、革新者として、研究とイノベーションが経済の成長と発展のけん引役である知識集約型経済においてますます重要な役割を果たしている。
    • 発展途上国(例としてエジプト)の大学院生やポスドクのプロファイルや研究経験に関するエビデンス不足に対処するためサーベイを実施した結果、若手研究者の強化に向けた政府によるいくつかの取り組みを行ったにもかかわらず、研究者の頭脳流出につながるような影響があったので、研究文化や環境、インフラのための政策決定者による更なる介入が必要であることがわかった。
  • An environmental health scientist of Council for Scientific and Industrial Research, South Africa
    • 異なる分野、或いは全く関係性のない分野どうしの交流によって問題解決につながる可能性があるとよく言われるが、南アフリカで開催された第2回WISWB 2018の包括的なテーマは“多様性の弾力”で、SDGs関連の分野での応募が求められたが、合計650の応募のうち515件がアフリカ・アラブ地域の27カ国からであった。
    • 会議の結果、オープンソースのマッピングツールであるKumuを使って、応募から地域における共通の目標を特定するためのメタデータのデータベースを構築したが、中間集計では、応募が最も多かった国はナイジェリアの55%、応募者の60%以上が30-45歳の年齢層、主たる執筆者の50%は博士号を持っていることなどがわかり、また、応募数が最も多かったテーマは保健衛生の26%、続いて食料安全保障の17%で、これらはまさにアフリカ・アラブ地域における緊急の学際的課題である。

  • 写真5
    ワークショップで聴講する参加者
  • 写真6
    ワークショップの模様

セッション:“Development Skills for Young Scientists”
  • A Professor of The American University in Cairo, Egypt
    • 科学界で成功するにはインパクトファクターが10以上の論文を一つか二つ発表しなければならないという暗黙のルールがあるようだが、これが若手研究者にとってプレッシャーとなり、研究不正行為が増えている原因の一つかもしれない。しかし、重要なのは科学界で成功するというのは自分自身にとってはどういうことなのかという明確な考え持ってそれに向けて備えることである。
  • A professor of Council for Scientific and Industrial Research, Pretoria, South Africa
    • 科学におけるコミュニケーションは、抽象的な構成概念について正確性と特殊性をもって書く必要があるので、関連する学術分野間どうしでさえ複雑となり、そのため新発見や新技術が開発されるごとに常に進化する特殊な専門用語が必要になる。
    • 英語は科学コミュニケーションの共通の言語となっているが、新しい概念を伝えたり互いの母国語の文法が甚だしく異なるような場合には、共通の基本的な語彙だけでは十分意思疎通ができないこともある。この問題を克服する一つの方法が、微編集(語彙や文法のマイナーチェンジ)や大規模編集(構造的考察)を通じて読み手が文書の内容を理解しやすくなるような適切なPlain Languageの原則を用いることであることを実例を交えながら紹介。

セッション:”Plenary: Science Journalism/Science Communication”
  • A Writer, Novelist and Filmmaker
    • 科学は中立であるにもかかわらず、人間の意識/臨死体験/異世界/生体細胞を実験室で生産すること等の重大課題に関しては、ダーウィンの進化論がそうであったように、科学者間において論争があり、これは科学の限界に関する問題へと広がってきた。”Beyond Life”というプロジェクトでの臨死体験の信憑性の調査の際、この分野に関する科学的主張は必ずしも客観的ではないことがわかったが、科学者間の多くの論争のきっかけは科学的証拠ではなく、むしろ科学者の信念に基づいている。
    • 多くの科学的主張の客観性を立証する目的で、1本15分で30のエピソードから成る “closer to the truth”プロジェクトが製作され、一つの科学的主張や発見について反対意見を持つ科学者とともに検証していくことにしている。

本会議3/12(火) – 3/13(水)

本会議のオープニングでは、WISWBの主催者であるWomen in Science Networkの議長を含め、アラブ科学技術財団(ASTF)の理事長や副理事などから、英語とアラビア語での開会の挨拶があった。

写真7本会議オープニングで挨拶する主催者
  • Founding Chair of Women in Science Network, Egypt
    • ユネスコの報告では、大学や研究機関など科学コミュニティにおける女性の割合はわずか28%で、より高度な学術レベルに至っては6%にまで下がり、またリーダーシップポジションに就いたり、ノーベル賞のような権威ある賞を受賞している女性も少ないという現状を踏まえ、Global Young Academyの仲間などと議論を重ねて科学コミュニティの中でより多くの女性が受け入れられて活躍できるような環境を作り出すためにWISWBを立ち上げた。
    • WISWBは科学コミュニティにおける女性のための会議であるだけではなく、SDGsNo.5(Gender Equality) を含むSDGsすべての達成に向けて科学を主なテーマにした新しい取り組みであり、科学をすべての人のためのものとする(マーチン・ルーサー・キングの言葉を真似て、My dream is “let science for all”.)ための取り組みでもある。

オープニングプレナリーセッション:“Science diplomacy and successful international scientific relations”では渡辺副理事が登壇。

  • A doctor of Robert Bosch Stiftung, Germany
    • 優れた科学には優れた資金、教育、インフラ、研究資金提供機関、そして科学への公的支援が必要であり、優れた科学の基盤はどの国においても国家としての優れた科学戦略と政策であるが、これを政治家だけに任せるのではなく、科学者自身もそうした戦略計画の発展と更新に貢献すべきであり、そのためには、科学者には他の分野の科学者や、政治家、企業の代表者およびメディアとの情報交換や交流することが求められる。
  • 渡辺副理事 International Science Strategy of Gender Equality 2.0 for SDGs
    写真8本会議で登壇する渡辺副理事
    • 世界経済フォーラムの「Readiness for the Future of Production Report 2018」によると、日本は経済・産業構造そのものの評価は高い(1位)が、人材の多様性・将来性に対する評価は低い(16位)、また、SDG Index & Dashboards Reportにおける日本の目標達成状況の推移(No.4教育は達成済み、No.5ジェンダー平等は達成までほど遠い、等)を紹介。(因みに、エジプトはNo.1貧困をなくそうが達成済み。)
    • GS10での議論について、従来のジェンダー平等は欧米中心に進められてきたが、世界各地の特徴を活かして(例えば、アジアの視点で)進めることの必要性を共有したことなどを紹介。
    • GS10の成果である東京宣言:BRIDGEについて触れ、その中で多様性の観点を加味して地域性、倫理観、文化、宗教、各個人の能力等を含めたジェンダー平等をGender Equality 2.0と定義したこと、それに関連し、工学分野では男子単独よりも混合チームによる特許のほうがより高い経済的価値を生み出しているというデータや、女子の方が男子よりも高等教育を受ける割合が高いというデータ、障害を能力に変えた浅川智恵子氏、インド地下鉄工事現場監督で”マダムメトロ”と呼ばれる阿部玲子氏などの具体例を紹介。
  • A doctor of Next Einstein Forum, Rwanda/Canada
    • 科学者、特に女性科学者を科学技術と国家の変革とを結びつけるような意思決定権のあるポジションに導くためには、科学者は強力なネットワークを活用して各教育課程における計画投資を各方面に強く呼びかけるべきである。

プレナリーセッション:”Innovation Map”
写真9プレナリーセッションの様子
  • A doctor of Johnson & Johnson, Dubai, UAE
    • 今日の製薬業界の新規売上高の70%がオープンイノベーションモデルによる医薬品を源泉としているため、伝統的な「オールインハウス」ビジネスモデルはもはや新しい革新的な製品を発見するための最も有力な方法ではなくなっている。
    • オープンイノベーションの協働モデルで作業することが、健康問題に対処するための重要な成功要因であることは世界的に受け入れられつつあるが、それは民間、公共を問わず一組織だけではそれらの問題に立ち向かうことができないためだ。

パラレルセション:トラック V ”Recent Advances”
写真10パラレルセションの様子
  • A doctor of Mansoura University, Mansoura, Egypt
    • エジプト北部のマンスーラ(カイロから車で14時間ほど)で完璧な状態で発見された新たな非鳥類型恐竜について紹介。
    • アフリカ後期白亜紀の化石記録は未だその多くが不明のままで、様々な仮説を十分に検証することが難しい。この新たなエジプトの恐竜と他の白亜紀チタノザウルスが系統発生学的に近い関係にあるということによって、北部アフリカとユーラシア大陸の動物群との間に類似性が存在していたことを明確に示し、これまで調査されてこなかった生物地理学的地域を明らかにする最初のエビデンスとなる。