レポート

サイエンスアゴラ2018出展企画
理系で広がる私の未来 -STEM Girls Ambassadors トークセッション
開催レポート

日時:2018年11月10日(土)10:30~12:00
会場:テレコムセンタービル20階会議室1
主催:内閣府男女共同参画局 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
登壇者:杉本 雛乃 東京大学工学部物理工学科4年 2018ミス・インターナショナル日本代表
ズナイデン 房子 日本マクドナルド株式会社 上席執行役員 CMO
山崎 直子 宇宙飛行士
渡辺 美代子 科学技術振興機構 副理事 ダイバーシティ推進室長
※登壇予定だった玉城 絵美(H2L, Inc., 創業者/早稲田大学 創造理工学研究科 准教授)氏は急な事情により欠席

 2018年11月10日、JSTは内閣府男女共同参画局と共に、サイエンスアゴラ2018において「理系で広がる私の未来-STEM Girls Ambassadors トークセッション」を開催した。小学生から中高生、大学生、また保護者や教員の他ほか、科学技術に関心を持つ一般の参加者を含め、約100名が参加した。

写真1 STEMGirls Ambassadorsと満員の会場

 STEM Girls Ambassadors(理工系女子応援大使)とは、内閣府が推進する、女子生徒が理工系分野の選択を前向きに捉えるための活動の一環として、2018年に活動を開始した女性達である。今回の「理系で広がる私の未来」は、このSTEM Girls Ambassadorsのトークセッションという形で行われた。サイエンスアゴラ出展企画として特に対話を重視し、講演はなく、客席とのコミュニケーションを取りながら終始和やかな雰囲気で進められた。

写真2 トークセッションに客席からも挙手で参加

 まず、Ambassadorsの自己紹介の後、ファシリテーターの内閣府男女共同参画局小林氏からの趣旨説明の中で「理系の職業」として何が思い浮かぶかを挙手でアンケートしたところ、勢い良く多くの手が上がったのは学者(研究者)、医師・薬剤師、IT関係、エンジニア等、やや上がる手が少なかったのがゲーム制作、そしてほとんど手が上がらなかったのが会社員(サラリーマン)や公務員、経営者だった。しかしSTEM Girls Ambassadorsの中にも企業や公的機関所属者もいるように、実際は理系から公的機関や一般企業に行く人も少なくない。理系に対するイメージと現実の理工系女性の姿にこれだけのギャップがあることをまず会場の共通認識としたうえで、事前に募集したSTEM Girls Ambassadorsへの質問を軸にトークセッションが進められた。(以下、敬称略)

それぞれの理系に進むに至るきっかけは?
写真3 山崎 直子 氏
杉本「習い事でたまたま出会ったそろばんから算数・数学が好きになった。また、科学館に行った経験も楽しかった記憶として残っている」
ズナイデン「小学生向け科学雑誌の実験が楽しくてそのまま生命と環境に興味を持った」
山崎「幼い頃に兄の影響で見た宇宙戦艦ヤマトから宇宙への憧れを抱いた」
渡辺「高校での重力の実験をきっかけに、全ての現象に規則性があり公式で説明できることへの感動から理系へ進学した」
きっかけは様々ではあるが、感動や憧れなど原体験をそのまま持ち続け、また周囲もその選択に対し特に固定のイメージを持つ事無く応援し、見守る環境があったのが共通点であった。
まだやりたいことが見つかっていないがどうしたらよいか?
ズナイデン「迷ったら俯瞰して広い視野で考えてみる、違う事をしてみる」
山崎「悩んだらとにかく動いて気になったものを見に行ったり調べたりする、話を聞きに行く」
いずれも「視点を変えて行動する」という、悩みや迷いで立ち止まらずにまず動いてみる、Ambassadorsのしなやかな柔軟性を感じさせる回答。
理工系のイメージ 暗い・男臭い
写真4 杉本 雛乃 氏
杉本「確かに男性は多いが研究室中心ではなく、遊びに行けないということも無かった。バランスを取れば平行して他の活動も可能。ミス・インターナショナルのスケジュールと研究活動も両立できた。」
女性であるがために感じた困難はあったか。それに対してどう対応したか
ズナイデン「仕事の完成度を高めることは大変だったがそれを大切にしていた。一方で『女だから部長になれた』と言われ『悔しかったら女になってみれば?』と返したこともあった」
山崎「時にはシビアな悪役にならざるを得なかったが逆に勉強にもなった。宇宙に関わるのはエンジニアだけでなく、海外との調整で法律の専門家、宇宙服で被服分野の方、得たデータを活用する方、様々な分野との接点が広がっている。その分調整の場面も多い」
渡辺「自分の提案に対して反対が多いときは「新しいことができる」と受け止め、全員反対であれば早すぎる、最低でも二人以上賛成があれば仲間がいたら困難でも進めようという方針で頑張っている」
子育てとの両立について
写真5 ズナイデン 房子 氏
渡辺「育児と転勤の狭間で退職を考えた事もあったが家族全員で協力して最適解を探ることでなんとか乗り越えることができた。地域のママ友も大事。違う環境だから助け合えることもある」
ズナイデン「『ジャマイカ戦略』女性は仕事も家庭も完璧にやろうとしがちだが、「じゃーまーいっかー!」と受け止め、6割出来たら自分を褒めてあげる戦略」
山崎「子育ても介護もご近所・ママ友含む周囲にお世話になっている。『大変(Challenging)だけど不可能(Impossible)ではない』と励まされた」
「留学する/英語で国際的な職業」を考えると文系のイメージだが理系の世界で英語とはどのようなものか
写真6 渡辺 美代子(JST副理事)
渡辺「理系研究者は英語で論文を書き発表する。大きな学会は国際学会なので英語で発表することになる。自分も苦手だがなんとか頑張っている。英語が苦手でも内容がよければ聞いてもらえる」
ズナイデン「言葉は伝えるためのツール。めちゃくちゃな英語でも伝われば良い。綺麗な発音が出来ないからといってシャッターを下ろす必要はない」
杉本「ミス・インターナショナルの各国ミス同士の共通言語は英語。中には英語がほとんど話せないミスもいるがその中でも単語と表情・ジェスチャーでなんとかコミュニケーションを取っていくか、完璧な英語を意識する余り全てI don’t know で済ませてしまうかに二分される。結果、期間を終える頃には友達の数が全然違う。また、受験の時は『理系の受験には英語は重要ではない」と思っていたが、実際には英語がとても重要。高校のうちから英語の力を付けておいた方が良い」
将来火星に行きたいので募集時はチャレンジしたいが、目下の進路として就職・博士進学を迷っている。アドバイスをお願いします。
山崎「専門性は大きな強みになる。同時に宇宙開発は多分野横断のチーム作業であり、専門同士を繋げることが出来る人が不足している。専門性+ジェネラリストの力をつけると良い。応援しています」
台湾出身で現在日本企業に就業中だが、日本の会社では電話取りなど暗黙の了解で女性の仕事になっている事があり、困惑している。どうしたらよいか
ズナイデン「暗黙にある仕事の男女分担を全撤廃しようと宣言。勇気を出して声を上げることが大事。」
渡辺「自分は(時代背景もあり)敢えて『気の利かない女』になることで対応したが、仕事に暗黙の男女分担があるというのは本来は正しいことではない。今もそういう相談を受けるが、女性の上役などに相談しながら声に出して、問題提起して切り開いて行って欲しい」
大学の専門そのままの職業に就くことばかりではない中、研究経験は企業でどのように活かされたか
ズナイデン「研究で培われた統計・分析力、ロジックを組み立てる力はマーケティングの上で大きな強み。ひらめきや山勘ではなく数字とロジックに裏打ちされているので打率が高いと感じている」
親の意向ではなく子供自らの意思で最適な進路を選ぶために保護者は何をするべきか
山崎「親は身近に多様な環境や情報を用意しておき、子が何を選ぶかは子を信頼して任せる、ということを意識している」
ズナイデン「子本人がどうありたいかという事をリスペクトする。話し合う」
渡辺「理系に対する偏見を持つ親もいるのが現状だがそうした偏見なく子の選択を信じること」
杉本「親も文理のイメージなく一緒に楽しみながらいろいろな事を経験させてくれた事が良かったと感じている」
理系で得することなどがもっと理解されればリケジョも増えるのでは
ズナイデン「今は数が少ないが、それが逆にメリットと考えている。文系採用に応募したリケジョ、というところからマーケティング部署に配属されるなどチャンスがあった」
出身分野(文理)にかかわらず理系に興味を持つ女性を増やすには何が必要と思うか
山崎「実は理系も他分野との接点は広く多様でいろいろな分野と繋がっていて理系だけで閉じているわけではない。接点を沢山作りたいと考えている」
文理横断が起こすイノベーションについて意見を伺いたい
山崎「高校の早い段階で文理を分け進路を分けるのは負担が多い。数学の論理性は法律など他分野に通じるし自然科学と社会科学も共通した考え方を持っている部分もある。両者の行き来が出来ると良い」
渡辺「専門性を持ちつつ多様な分野の知識を持つことが必要になってきている。今ある社会の課題に対しては一つの専門性だけではなく他分野との融合無くしては対応が出来ないと言われている。専門性を高めた上で融合する力があるという事が理想」
写真7 最後に希望者全員で記念撮影

 学生、社会人、保護者、科学技術関連等、特定の層にとどまらない参加者から幅広い質問が寄せられた。STEM Girls Ambassadorsも親として、社会人として、あるいは子としてなど、それぞれの経験に照らし合わせ、時には笑いを交えながら真摯に応えており、何らかの形で参加者の未来展望が広がるような対話になったのではないか。

 最後には希望者全員で写真撮影を行い、盛況のうちにセッションを終了。アンケートでも「とても良い」が76%、「良い」が23%(有効回答38)と、満足度の高いセッションになった。