
科学技術振興機構(JST)は2018年4月14日(土)、「女性研究者と共に創る未来」をテーマにしたシンポジウムを、東京都千代田区の一橋講堂で開催した。参加者は、大学や企業の研究者、組織のダイバーシティ担当、政策決定者等、約150 名。
最初に主催者を代表してJSTの濵口道成理事長が「日本には優秀な女性がたくさんいるのにその力を活かせていない、この状況を何とか変えなくてはいけない」と決意を示した。
来賓の山東昭子参議院議員は「女性研究者にはもっと活躍して欲しいし、そのためには更なる環境整備が必要、我が国の未来は女性科学者が創っていくという気持ちが実現できるよう手助けをしていく」とあいさつされた。続けて文部科学省の佐野太科学技術・学術政策局長は「科学技術イノベーションのためには、女性の能力を最大限に発揮できる環境を整備し、その活躍を促進していくことが不可欠、現行の第5期科学技術基本計画でも女性研究者等が一層活躍できるよう、取り組みを加速化することとしている」などと述べた。
講演は5名。浅川智恵子さんは、AIの開発の際、偏った情報をインプットすると偏ったAIができてしまうことを例に、情報のバイアスを如何に排除していくか、すなわちAIの研究開発にこそダイバーシティが重要であると述べた。
鳥居啓子さんは、女性研究者が実力に比べて過小評価されている(マチルダ効果(※))現実や「無意識の偏見」の存在についての指摘に加え、具体的な対応策として、①選考の際に応募者をイニシャル表示する、②選考委員の男女比を1:1に近づける、女性委員長を増やす、海外から評価者を招聘する等、評価体制の再構築を行う③最終候補者に女性が残ればポストを2つに増やす、保育園や代替要員雇用の充実、大学の取り組みの評価等、大学や応募者のインセンティブをつける の3つを提示した。
※全く同じ履歴書でも男性は「有能で採用に望ましい」と判断される、男性の方がより強い推薦書を得る 等
若山正人さんは、九州大学における教員の女性枠採用の仕組みに加え、その成果として、①2009年~2017年の9年間で48名採用したこと、②その研究者たちが科学研究費補助金やJSTのさきがけ、受賞等、数々の成果を上げていること、③1人あたりの論文数やTop10%ジャーナル論文の割合は、女性枠で採用した研究者が九州大学の男女各平均よりも高いことなどを挙げた。また、同大学で実施している配偶者帯同雇用の制度内容と共に、国内外から優秀な研究者を迎え、その定着を図る施策のひとつとして、同制度の必要性について述べた。
餅友佳里さんは、特許の経済価値という切り口で行った調査・分析結果の報告の中で、①男性のみのチームから生み出された特許よりも男女混合チームから生み出された特許の方が経済価値は平均20%高いこと、②女性の活躍が進むことにより男性のイノベーション力も上がることについてのデータを提示した。これまでこうしたデータが少なかったこともあり、参加者の反響が非常に大きかった。
最後にJSTの渡辺美代子副理事は、2017年12月にJSTが実施したアンケート「研究開発プロジェクトのダイバーシティを進めるために」に関する分析結果を報告するとともに、今後解決すべき課題について、①競争的資金の研究開発に女性研究者の応募を増やすことが必要、②女性はファンディングが男性中心で女性に不利と考え、応募しない傾向、③男性は女性の意識を理解するのが難しい、④男性中心の審査体制と採択実績が女性の応募が少ない要因のひとつ、⑤「女性枠」に男性は反対、女性は賛成の傾向、の5つを提示した。
続いて行われたパネル討論第1部では、「科学とSDGs -これからの科学技術と社会を考える-」をテーマに議論を行った。
男性は義務感で動くが女性は共感しないと動かないとの指摘があり、課題解決に向けたアプローチ方法が違うため男女混合チームが重要であるという認識が示されるとともに、女性の特徴として、明確な目的が示されれば共感しつつ役割を果たす能力に長けていることが指摘された。
一方で、理想的な男女割合については必ずしも50%がよいのかどうかわからないので、様々な試みをすることが必要との意見があった。
また、男女混合チームでは女性は一歩引いて副次的な役割を担いがちであること、特に組織の上下関係の中では互いに遠慮があり、女性はなんとなく遠巻きにされ疎外感を味わうこともあるといった問題点も指摘され、無意識な偏見の存在も含め、その解決のためには何らかの仕掛けが必要であることが提案された。
効果的な男女混合チームを創る方策については「女性がいるのが当然」という雰囲気を醸し出すことが重要との指摘とともに、「本当に優秀な男性は優秀な女性をチームに入れることを恐れない」という意見には、他のパネリストや会場からも賛同する姿が多く見受けられた。
また、大学や企業において上位の職制に行くほど女性比率が低くなっている現状に鑑み、上位者への女性登用が進めば評価や人事の正しさ、ひいては組織の適正化につながるとの指摘もなされた。
パネル討論第2部では、「海外で研究する優秀な研究者との連携を考える」をテーマに議論を行った。
海外に渡ったきっかけは、日本に職がなかったためやむなく、恩師からの提案、国際貢献のため、風通しの良さを求めて等、さまざまであった。
海外での研究のやりやすさとしてはファンディング等研究資金の違いが挙げられた。例えばポスドクからテニュア取得にかけて若手向けの大きな研究費があること、米国ではPhD学生にも取れるファンドがたくさんあることが非常に大きいとの指摘がなされた。また、寄付が多いことや、研究室の教授から学費、生活費の投資があり、給与も出るので責任感が生まれることなど、日本にはない仕組みも紹介された。
ネットワーク作りの重要性については、海外には企業も参加する学生のネットワーク作りの仕組みがあること、メンターがネットワーク作りを推進する仕組みがあることが紹介され、海外にいる女性研究者の横串機能と日本の女性研究者との連携、すなわち女性が女性を育てる仕組み作りが必要であるとの提案がなされた。
また、ダイバーシティを進めるためのインセンティブとして、例えば、チーム構成にダイバーシティがないと研究開発プログラムに採択されない、といった仕掛けが必要であるとの提案もなされた。
続いて、室伏きみ子さんがシンポジウムを振り返り、「女性の活躍促進のためには大学として組織的な支援策が必要、研究者を志す人たちには、失敗にめげない強い心を持って大きな目標に向かってチャレンジしてほしい」とエールを送った。
最後に閉会のあいさつでJSTの真先正人理事は「今後も継続して議論を行う、審査やプロジェクトの運営の体制にうまい仕掛けを盛り込みたい、皆様のご指導をいただきたい」と締めくくった。
土曜日の開催であったにもかかわらず、多くの方にお越しいただきありがとうございました。
会場にてご協力いただきましたアンケート結果(速報)をお知らせいたします。
「テーマ・内容」については、概ね8割以上の方が高評価であった。
特に、特許の経済価値や九州大学における女性枠採用教員の成果に関するデータ等、ダイバーシティの必要性や効果の一例を示す根拠データが示された点について評価の声が多くあった。
「登壇者」については、9割以上の方が高評価であり、特に、浅川智恵子さんの「AIの研究開発にこそダイバーシティが必要であること」、鳥居啓子さんの「評価の問題点や無意識の偏見の存在、及びその解決策」に関する講演への評価の声が多かったが、一方で、外国人や男性も加えるべきとのご意見もいただいた。
全体的な感想として、男性からは「力のある優秀な若手女性が増えたと感じた」、女性からは「女性の活躍する様子がわかり、よいロールモデルになった」など、主催者としてとてもうれしいご意見をいただいた。