2018年3月29日(木)15:30-17:00 JST東京本部 B1大会議室
講師:阿部玲子(株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル インド現地法人 取締役社長)
参加者:54名
2018年3月29日(木)、インドの地下鉄工事で400人の男性を束ねる現場監督を務めて“マダム・メトロ”と呼ばれるなど、圧倒的に男性優位の業界で存在感を確立して活躍する女性土木エンジニアの阿部玲子さんをお招きし、以下の講演要旨に沿ってお話しいただきました。
(講演要旨)
1. 自己紹介&コンサルタント業務
2. 建設案件におけるProject Management(インド・メトロを例に取って)
3. 発展途上国での安全・環境対策(産官学による日本の技術の導入)
4. 今、インド・メトロ現場で何が起こっているのか
セミナーが始まるまでの間、正面のスクリーンには安倍政権が推進する「インフラ輸出」や「女性の活躍」などのイメージにぴったり当てはまる人物としてクローズアップされた阿部さんが登場する1分ほどの日本政府の海外向けテレビCMが繰り返し映し出され、阿部さんは講演前からもうすでに参加者の心を掴んでいたような感じがありました。
冒頭の自己紹介は、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で密着取材を受けた際の裏話から始まり、トンネル工学を学び建設会社に入社したものの、日本古来の宗教的信条により、女性が日本のトンネル建設現場に立ち入ることが当時は出来なかったことがきっかけとなり、英語は不得意だったが活躍の場を海外に求める決断をした結果、現在、女性土木エンジニアとしてご自身が海外で活躍するようになったこれまでの道のりについてご披露いただきました。
インド・メトロのProject Managementのお話しでは、トンネルボーリングマシンによる建設方法・手順、一つのメトロ・プロジェクトにおける組織や海外プロジェクトに従事するコンサルタントに求められる資質・能力(リーダーシップ、博士号、語学力、プレゼン力、危機管理能力、体力)についてご説明いただきましたが、インドの土木建設現場にはあらゆる階層のカースト(身分制度ではなく職業における階級制度)がいるため、法律ではすでに禁止されてはいるが、今なおインド社会に根強く残っているカースト制度の存在を認識しておくことの重要性についても触れていただきました。建設現場の凹みに子供用のプールほどの水が溜まっていた際、衛生上問題があるので水を汲みだすよう、阿部さんがその場にいた労働者に指示すると、その労働者が実はポンプやバケツといった道具を持つことを許されていないカーストであったため、自分のヘルメットを使って水を汲みだしていた、それを見たとき、指示のし方を間違えると大きな問題が発生するということを学習したというお話では、異文化社会で仕事をすることの難しさを改めて痛感しました。
さらに、インドのメトロ・プロジェクトでは、様々な文化的背景の差異を克服するため、神戸大学が開発した現場の安全視覚化装置(OSV: On Site Visualization)など、多言語環境でも理解され易い、徹底的かつ合理的な安全対策を導入して現場労働者の教育に取り組む等、建設現場における安全への関心が低いインドで、ヘルメットや安全ジャケット・靴を履いていることが、今ではメトロ・プロジェクトの象徴になっているほど建設現場での労働者の服装を変えて安全管理推進に努めたというお話しには、説得力があり、また、迫力がありました。
講演後のQ&Aで、「女性であるという壁、プラスアルファを持たないと技術者として切られるとう危機感があったが故に 英語を身につけようとか、博士号を取ろうとか、プロジェクトで新しいものを導入しようとか、他の人と異なるプラスアルファを常に模索してきたからこそ今日の自分がある、女性でよかったと“今は”思う」との阿部さんのコメントは非常に印象的でした。
また、「女性であることで、損したこと、得したことは?」との質問に対しては、アーメダバードのメトロ・プロジェクト総括に就任する際、現地メトロ公社総裁から「このように大きな国家プロジェクトで女性がトップに立ったことはない」と大反対され、女性にはできないと決めつけられたときは悔しい思いをしたとのご回答。ただ、その時、彼女はこれまで多くの経験を積んできているので彼女は大丈夫だ、と言って助けてくれたのもデリー、バンガロール・メトロで一緒に仕事をしたインド人の同僚たちで、そのうちの一人のエンジニアが、阿部さんがトップに相応しい人だということを強調したいあまり熱が入って、つい”She looks like a woman, (but)・・・.”と言ったというくだりは、参加者の大きな笑いを誘いました。
阿部さんの話し方は、声が大きく明るく元気で、実にテンポ良くリズミカルで、ついつい「阿部玲子の世界」に引き込まれて、もっともっとお話しを聞きたいと思った参加者も数多くおられたのではないでしょうか。昨年5月のジェンダーサミット10でご登壇いただいた際は、英語でのご講演でしたが、英語でも日本語でもお話しの要所要所に笑いを散りばめられるなど、聞き手を全く飽きさせない、まさに聞き手の心を鷲掴みにするような魅力に溢れたお話をしていただきました。