レポート

GenderInSITE Workshops on Gender and Innovation: Implications for Sustainable Development参加報告

日時:2017年9月4日(月)-6日(水)
場所:Technology Innovation Agency (TIA) House, Pretoria, South Africa
参加者:渡辺美代子(報告者)

参加者の集合写真(初日午前中)

1.本会議について

  • 本会議は、Gender InSITE(Gender in Science, Innovation, Technology and Engineering)という国際ネットワークグループが主催する会議であった。Gender InSITEの本部はイタリアのTriesteにあり、Co-chairはShirley Malcom (Head, Education and Human Resources, AAAS, and a member, Gender Advisory Board, UN Commission on Science and Technology for Development (UNCSTD)とJennifer Thomson (Professor Emeritus, University of Cape Town; President, Organization for Women in Science for the Developing World (OWSD))の二人。実質的に活動を牽引しているのは、Roseanne Diab (Executive Officer, Academy of Science for South Africa (ASSAf, 南アフリカの学術会議))とAlice Abreu (Director; Professor Emeritus, Federal University of Rio de JaneiroAlice, Brazil)の二人であった。本組織は、TWAS(The World Academy of Sciences for the advancement of science in developing countries), OWSD (Organization for Women in Science for the Developing World), Sida(The Swedish International Development Cooperation Agency)と連携している。
  • 今回の会議の実際の主催はASSAfであり、スポンサーはElsevierであった。

2.参加者(リストは最後に記載)
合計 27名(内4名が国連関係者)
内訳:南アフリカ13名、ブラジル2名、米国2名、英国2名、スイス2名
ケニア、ウルグアイ、オランダ、ドイツ、マレーシア、日本(渡辺)から各1名

3.会議(WS)の内容と進行

  • 「ジェンダーとイノベーションがいかに結びついて国連SDGsに貢献できるか」、このテーマについて議論し、次のステップを決めることを目的にして開催された。
  • 3日間会議の内の前半1日強に参加者全員がジェンダーとイノベーションについて発表、その後2日目は3つのグループに分かれてグループ討議とその発表。3日目は全員参加でジェンダーとイノベーション(科学技術)から考えるSDGs達成のシナリオを議論し、報告書の目次と執筆担当を決定した。次回会議までに報告書が出来上がるように今後進める予定である。
  • 2日目のグループ討議テーマは、(1)研究から応用へ、性差を考慮したイノベーション(2)科学研究と教育、(3)SDGs達成のためのジェンダー平等と政策への提言、の3つであった。

4.各発表者による講演の内容

発表の様子
  • 冒頭の講演は米国Stanford 大学のLonda Shiebingerによる性差を考慮した研究によるイノベーションの紹介。米国の研究開発投資効果の説明はいつも明快過ぎるほどわかりやすく、$1投資して$140の納税者還付という説明がいつもなされた。新しい話題としては、米国の裁判で用いられているソフトウェアを検証すると黒人と女性に不利という結果が得られた。また、インドで製造されている生理用ナプキンの開発に女性が参加することで、より低価格で高品質の製品ができた事例が紹介された。
  • 英国のImperial College, LondonでVice-Provost(Education)を務めるShimone Buitendijkからは、ジェンダーバイアスが倫理観、社会的立場、障害の有無、性的指向によって支配されているというデータが示された。
  • ブラジルのAna Maria Almeidaはブラジルにおける女性活躍の状況を紹介し、PhD取得者の女性比率は1996年:44.2%, 2005年:50.8%, 2014年:54.4%と既に男性より女性が多い状況。しかし、女性の多くは人文社会科学系であり、理系では女性の活躍がまだまだ課題だと話していた。
  • World Intellectual Property Organization Geneva 20 (WIPO)のBruno Le Feuvre,は、国 際特許発明者の国別女性比率を調べた結果を発表。世界1位は韓国で46.6%、2位は中国で43.8%、3位がスペインで35.4%、途中米国が32.3%、最下位がオーストリアで15.1%、日本は下から2番目の18.8%という結果だった。日本が低いのは予想通りであったが、韓国と中国の特許発明者に女性が多いというのは意外な結果であった。
  • 現在南アフリカでコンサル経営をしているNeville CominsはInnovationとInventionの違いを認識することの必要性を強調し、Innovationは知識を投資して資金を得ること、Inventionは資金を投じて知識を得ることという定義をしていた。
  • 渡辺からは”Gender and Innovation – An Asian Perspective-“というタイトルで、GS10の議論を中心に紹介した。

5.議論の内容

パネル討論の様子 グループ討議の様子
  • Genderと科学技術がSDGsにどう貢献するかという議論では、世界にある事例研究を集め、わかりやすく多くの立場の人々に示すことが重要、そのためにはビデオ作成が効果的との議論になった。参考までにStanford大学で作成したGendered Innovationsのビデオ作成には$500程度の費用がかかったとのこと。
  • 事例研究を進めることが必要という議論になったが、その基準としては以下が共通であげられた。
    (1)少なくともSDGsの1つに貢献すること
    (2)個人の貢献ではなくチームの貢献であり、そこにはリーダーシップが見えること
    (3)ジェンダーの要素が強くあること
    (4)社会にインパクトや利益をもたらすこと
    (5)地域の特徴があること
    (6)地域の相互作用があること
  • SDGs達成のために産業界がCSR(企業の社会的責任)を手段としている場合が多いが、これはまだ本気でない証拠というのが世界共通の認識であった。企業がCSRでなく事業にSDGsが埋め込まれないと、企業は本気ではないと見てよいとの見解があった。

6.本WSのまとめ
WSのまとめとして次回までに次の提言を作成することとした。その内容は以下の通り。
タイトル:Gender and Innovation: Implications for the Implementation of the SDGs (ジェンダーとイノベーション:SDGs達成のための強い関与)
全体メッセージ: SDGs will not succeed without gender-inclusive action Overall tone: hope and optimism; ingredients are there

目次:
Ch. 1: Framework of SDGs and interconnectivity of gender with other SDGs.
 Why is this relevant to the SDGs and why are programmatic interventions needed? Gender as a cross-cutting issue in SDGs.  (Miyoko)
Ch. 2: What is innovation and why is it important? Why a gender lens?
 Landscape assessment (regional) – contextualizing concept of gendered innovation.  (Neville, Jennifer, Anitha, Anne G.)
Ch.3: Research and knowledge (S&T) needed to get the right innovation, including grassroots knowledge (contribution from Group 2). Lessons on supporting innovation in the grassroots sector. Shirley,  (Dong)
Ch. 4: Policy & advocacy issues – highlight instances where gender has not been considered and the implications (economic, but also for happiness and well-being).  (Alice, Roseanne)
Ch. 5: Findings, recommendations & actions. Alice, Roseanne – further research needed
担当:まとめ役(Uber-editor) Nick Perkins

7.まとめと参加の意義
ジェンダーは社会的課題を解決するための重要課題の1つとなりつつあり、従来は女性だけで取り組んで来たジェンダーの問題を男女含めて議論するようになってきた。今回のWSでは男性の参加が8名(30%)であり、議論も双方からの発言がうまく連動して深められていた。
特に30名弱の少人数ですべての人が責任ある発言をし(「持ち帰って相談する」という発言は一切なし)、議論の中から次の課題が見えてくる。決して賛同ばかりの議論ではなく、むしろ対立する議論の中から参加者全員が知恵を出し合って合意策を見いだす状況であった。1つの争点は、社会における成果が「経済的価値」に絞られるべきかどうかであり、合意点は「幸福や人間として豊かに生きること(Happiness & Well-being)」を含むこととなった。また、具体的な行動としては研究費配分機関(FA)の関与がどれだけとれるかどうかが1つのポイントになるとの意見が多く、今後は学術界よりFAの動向と関与が注目される。
GenderInSITEは世界学術会議(ICUS)とも連携し、このネットワークが世界の主要な機関につながっている。このような場において、世界の主要なキーパーソンとつながり、日本がアジアの代表として役割を果たしていくことも科学技術外交上重要であると考えられる。

参考 参加者リスト