レポート

アメリカ国立科学財団(NSF)訪問レポート 2015年2月

 JSTダイバーシティ推進室は2014年、JSTダイバーシティアドバイザリー委員会を設置し、外部の有識者メンバーからの様々な知見を活動に反映しています。今年2015年1月22日にアドバイザリー委員の一人、アン・エミッグ氏(Ms. Anne Emig)をお伺いし、JSTのダイバーシティ推進に対するご意見とNSFの現状について意見交換を行いました。

 アン・エミッグ氏はコロンビア大学日本経済経営研究所で研究と研究行政を学び、政治学で修士を取得。NSF入団後、2010 年 8月にNSF東京事務所所長を務めるなど日米の科学技術政策に精通しておられる方です。(※英語で行われた会談を意訳しています。)

■JSTのダイバーシティ推進について

 ダイバーシティ推進をまず自らの組織より始める考え方はとても良いと思います。NSFも同じように取り組んでいます。
 日本の女性研究者が多い分野は生命・生活科学、化学系分野、そして少ないのは工学技術系とのことですが、米国も情報科学系、生命科学系の女性研究者は多く、工学系は少ない状況にあり、この点は共通しています。
 ただ、女性を増やすために女性だけを対象としたファンディングを行うのは、多様性の観点から考えるとあまり良くないのではないかと思います。女性研究者が増えるということは、新しい科学技術分野の発展にも繋がります。これは日本の科学産業界の発展に大きく貢献することでしょう。

■NSFのファンディングについて

 NSFでは毎年多くの研究者から研究提案を受け入れ、審査し、ファンディング(研究費の支援)を行っています。2011-16年の5年間の戦略プランの一つとして、多様な研究者に支援を行う事を目指しマイノリティ公募枠を設けました。これは人種や性別、障碍の有無に関わらず公平に研究費が行き渡る事を目的としており、こうしたマイノリティが多く研究に参画する事でダイバーシティを促進し、高い成果を得ることを目的としています。

■NSFのファンディング審査について

 NSFではファンディングの審査にあたり、主に以下2点の基準を設けています。
1)研究成果(Intellectual Merit)
先端分野であるか、実現可能か、革新的な成果が期待できるか。物理的に研究の実施が可能か。
2)社会的影響はあるか(Broader Impact)
 普及が見込めるか、持続可能性はあるか女性研究者など少数派からの参画があるか、社会的にインパクトがあるか、インフラ強化につながるか、等の社会的影響力の大きさがあるかどうか。
 そして、年に2回トップダウン型、ボトムアップ型の募集を行って研究提案のチャンスを広げています。
 また、プログラムについても応募を女性限定とするプログラムを設定し、通常プログラムと併行して応募することもできるようにしています。これらの事実からわかるとおり、大学の女性研究者への取り組みが必要な状態にあるのは米国も同様です。Old Boys Networkという言葉が示すように、研究室の門戸は男性に対してのみ開かれている、ということが多いのです。

■NSF ファンディング審査員のダイバーシティ

 審査基準のみならず、審査委員会でもメンバーにマイノリティを含めることで、多様なアイディアや観点による審査が可能になるとNSFは考えます。例えば 審査メンバーの年代・肌の色・ルーツ(国)・ジェンダーが違えば提案に対する意見も各視点からとなり、多様なものになるでしょう。また、年配の男性は若い女性の考えが理解しにくいものですし、若い審査員は革新的な考え方を理解できるので、多様な視点での審査が可能になるのです。こうした経験は若い研究者にとっても良い経験となるでしょう。

■NSF自身のダイバーシティ体制

 ダイバーシティはまず“Home”(NSF)から実施しなければなりません。従って私たちNSFはファンディングや審査体制・プログラムの設定だけではなく、NSF内の各組織長の男女比を同率にするなど、具体的な取り組みに着手しています。

 以上、JSTへのコメントのほか、NSFでの取り組みについて具体的なお話を伺い、実りある意見交換を行う事ができました。私たちJSTと共通する点・異なる点、それぞれたくさんありますが、今後のJSTダイバーシティ推進に役立てて行きたいと思います。

JST大竹暁理事 NSF Ms. Anne Emig、JST渡辺ダイバーシティ推進室長の写真
写真右よりJST大竹暁理事 NSF Ms. Anne Emig、JST渡辺ダイバーシティ推進室長