ジェンダーをめぐる動向

性別をめぐる社会の変化と表現

 性別を表す言葉として、「ジェンダー」という言葉が近年ではよく使われるようになりましたが、ジェンダー(Gender)は社会的、文化的な性を表します。一方、生物学的な性を英語ではSexと言いますが、日本語では単に「性別」という言葉がこのSexを表す言葉と理解する見方が一般的でした。従来は生物学的性別を「男性」と「女性」だけに分けてきましたが、近年はそのどちらにも属さない性(LGBT注1)やSOGI注2))があることも明確になり、社会的にも認知されるようになりました。そして、これらについての配慮がない場合、大きな社会的問題になることが多々あります。例えば、アンケートなどで性別を質問する際、選択肢に「男性」と「女性」しかない場合は問題で、「どちらでもない」と「回答しない」や自由記述を設けるなどが必要となります。性別を回答しないという自由も人権の観点から必要ですので、「回答しない」という選択肢が必要になるのです。
 このように生物学的性と社会学的性が必ずしも明確に分けることができず、相互に影響することへの理解も深まりつつあります。そして、これらの総称として「ジェンダー」という言葉が一般的に使われるようになっています。
 また、ジェンダーを議論する際、「男性らしい(マスキュリン)」や「女性らしい(フェミニン)」という概念がジェンダー平等の弊害となるとも言われています。これらの概念は古くから長い間社会で浸透してきましたが、無意識の偏見あるいは思い込み(アンコンシャスバイアス、英語ではUnconscious Bias)によるものであり、これは男性だけにあるものではなく、すべての人に多少なりともあるものですが、それを意識することが重要です。ただし、この無意識の偏見や思い込みと性差を科学的に理解することは別のことで、思い込みをなくしながら性差を考慮することが必要とされます。

注1)LGBT:Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、身体と心の性が一致しない)、近年ではLGBT以外にQ(クエスチョニング、自分の性別がわからない・意図的に決めていない・決まっていない人)を含めたLGBTQという表現、さらには様々な身体、精神の状態を表すなど表現も多様化
注2)SOGI:Sexual Orientation and Gender Identity (性指向と性のアイデンティティ)

公的研究費配分機関におけるジェンダー分析に関する国際評価

 2021年、スタンフォード大学 ロンダ・シービンガー(Londa Schiebinger)教授のグループにより、公的研究費配分機関の研究方針におけるセックス・ジェンダー・ダイバーシティ分析(ジェンダー分析)に関する国際評価(Global Review of Sex, Gender & Diversity Analysis in Research Policies of Public Funding Agencies)が行われ、JSTも公的研究費配分機関の一つとして調査に協力しました。
 公表された調査結果についてシービンガー教授に解説いただいた動画を掲載します(日本語字幕付き)。

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関連サイト(それぞれ外部サイトへ移動します)

性差分析事例

1)特許の事例(外部サイトへ移動します)

女性の活躍は企業パフォーマンスを向上させる
-特許からみたダイバーシティの経済価値への貢献度-

男性のみが発明者の特許に比較して、男女の発明者が関わっている特許の経済的価値は54%も高い。

出所:日本政策投資銀行

2)融合領域事例(外部サイトへ移動します)

融合領域研究の世界トップ10%論文は男女共同著者が男性/女性のみ著者より多い

融合領域研究と女性著者比率の関係(ドイツの2010-2013データ)
(○の大きさは論文数を表す)

出所:Mapping gender in the German research arena

3)Londa Schiebinger教授セミナー(レポートへ移動します)

JSTダイバーシティセミナー“Gendered Innovations in Science, Health & Medicine, Engineering, and Environment“(性差に基づく新しいイノベーション論 ~「ジェンダード・イノベーション」について~)では、研究開発になぜジェンダー分析が必要なのか、分析を行わない場合何が問題なのか、また、ジェンダー分析を行うことで広がるイノベーションの可能性について多角的に掘り下げる形で行われました。詳細については、上記の報告をご覧下さい。