31. ナノ、コラボ・・・・

 小売店で、「ナノ」がセールストークに使われているのは、気がつく範囲では化粧品売り場が上げられる。
材質と、サイズの組み合わせで、ナノマテリアルの実用化の先兵として、化粧品業界にとっては付加価値向上の武器になりそうである。
効能は紫外線のカット能力を高めたり、持続性を向上させる。ドラッグデリバリーシステムと類似の効果で、肌のみずみずしさを保ったり、栄養をじっくりいきわたらせるなど、女性が価値を認めてくれるナノテクノロジーの応用である。そこでは「ナノテクが生んだ化粧品」なるキャッチコピーが見られるが、おそらく、ナノテクノロジーなんてどうでもよくて許容範囲の価格できれいになれることに値打ちがあるのであろう。


そうは言え、ナノテクノロジーの関係者としては、宣伝に使われだした「ナノテク」といった言葉はどの程度こなれているのだろうかは、やはり気になることである。店頭のマヌカンに確かめる変なおじさんになれないでいるので間違ったことを言うことになるかもしれないが、経験から言うと、しっかり大衆の理解が得られるレベルには無いと推察する。
それは、エレクトロニクスショーにしても、モーターショーにしても、現場でのプレゼンテーションに使われる原稿の基礎は技術系から発信されていることに起因しているからである。

技術者は「嘘でなければ、誇張してわかりやすいアナロジーを使う」といったことに抵抗感を持つ人が多いからである。したがって、ショーなどでは、プレゼンテーターの人をひきつけるコスチュームやスタイル、話術の割には、硬い説明に対して、なんとなくわかったような気がするだけで、引き下がってしまっているのが実態かもしれない。

工業新聞では、ほとんど毎日のようにナノテクの記事が目に留まるものの、一般紙ではまだまだ「ナノテクノロジー」の関連記事の露出度は高くなっていない。残念ながら「ナノテク」の浸透度アップはこれからである。
「ナノテクノロジー」の関係者はせめて、自分のかかわってることについての説明では「文系にわかるナノテクノロジー」を工夫していきたいものである。

話は飛ぶが、それに比べると、若者たちを含めてかなり浸透していると思われる用語に「コラボ」がある。
「コラボレーション」はナノテクノロジーが、異分野の融合に期待が強いことから、ナノテクノロジーの現場でもよく聞くキーワードになっている。
最近では、理系に進む若者もファッションに関心を持つ割合が増えている気がする。若者に限ったことでは無いが、ファッションの世界での「コラボ」はテレビによると、どうも「なんでもあり」のようなのである。
いわく、「今の気分の中に19世紀の貴族の雰囲気を少しばかり出して」、「おばあちゃんが着ていたっていうのをベースにして」といった具合であるから、組み合わせは無限である。
正統派的な言葉で言えば、ファッションの世界で「コラボ」に近い用語は「コーディネート」なのだろうが、それを包含してしまっているのが「コラボ」のようである。


「コラボ」は自前主義との決別であり、日本の製造業にとって「ナノテクノロジー」と同様に、極めて重要なキーワードなのである。

ニュアンスをつかんで柔軟に、自らを表現するファッションで鍛えた若者たちが研究現場に入ってくるまでには、マネージメント側も頭を切り替えていたいものである。
異分野の融合の本質も若者の自由なファッションを、肯定的に受け止められるようになって更に幅広く捉えられるかもしれないのだから。

                                               篠原 紘一(2003.6.23)
                                                   
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