159:現場・現物主義

 

この言葉は、製造業では事あるごとにたたきこまれるが、なにも製造業に限ったことではない。

結論を言ってしまえば、すべての問題解決が遅れたり、解決レベルが低かったりする原因は、机上の議論で対策が設計されることが大半で、それはまさに現場・現物主義の徹底が図られていないことからきている。

 

アメリカでは基礎研究は大事であって、我慢が必要であるとの認識がある反面、製造に対しては我慢が足りないという。これに対して日本は反対である。基礎研究は大事であるといいながら、我慢が足りない。しかし製造に対しては、現場で我慢強い改善が繰り返される。

 

すべてとは言わないが、蒸着テープの事業化の経験をした時に、アメリカに生産拠点を構えて巨額の投資をした会社の責任者に、「篠原さんのような博士が現場に入って、細かな指示をしているようでは、当社がたちまちシェアを取ってしまいますよ。テープなどは、マニュアルさえしっかり作っておけば、目をつぶってもできてくるものですから」と言われた。このことを思い起こしても、製造に対する日米の考え方の差は理解できる気がする。

基礎研究に対しては現場の経験がないので、あまり大胆なことは言えないが、想像するに、政策立案や、制度設計する立場の人が、現場感覚が十分とまで言わないまでも、日本よりはだいぶ現場に近いということなのではなかろうか?

 

浜松で産官学連携のシンポジウムがあった時に、国会議員(小泉チルドレンの女性議員)や静岡県知事の挨拶があった後、 浜松ホトニクスの会長兼社長の晝馬氏が、基調講演の冒頭皮肉たっぷりに、「国会議員も、知事ももういなくなって、何が・・・・・・」と伝わらない(?)苦言を呈していた。

 

ああいった場で、議員や知事があいさつすることに何ほどの意味があるのか、正直言ってわからない。超がつくくらい忙しいのだから、一言いって、おつきの人とさっと消え、次々とスケジュールに追われるのであろう。それほどなのにあいさつに来たのだからありがたく思えということかもしれないが、こんなことを繰り返しても現場との距離が縮むとはとても思えない。

 

賢い人が多いから、キーワードを外すことはないが、現場発のメッセージだと感心させられることはあまりないのは寂しい限りである。

 

太平洋を越えて大津波が日本を襲ったような状況である。トヨタに始まり、ここ23か月で大幅な赤字の連鎖は止まらない。トヨタの内定した新社長が「原点に返り、最も現場に近い社長を目指す」との決意に期待がふくらむ。

 


                                   篠原 紘一(2009.2.2

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