GIES Global Innovation Ecosystem

PDFをご覧頂くには、Acrobat Readerが必要です。お持ちでない方はダウンロードをして下さい。

Get Adobe Reader

シンポジウム

サマリー

印刷用(PDF)

パネルディスカッション 「イノベーション推進のためにとるべき行動とは
―次世代の教育、"Openness"、民間の役割を中心に―」

パネリスト:冨山 和彦Ellis Rubinstein中村 道治Shulin Gu, Deepak Bangalore
モデレーター:石倉 洋子

石倉 洋子
 基調講演では、グローバル化の進展、変化のスピードと幅の大きさ、コンセプチュアル経済の出現とイノベーションの重要性が指摘された。イノベーションの要件として、多様性、「出る杭」を伸ばす、社会システムの変革などが強調された。
  Part IIでは日本、米国、中国、インドからのパネリストを迎えて、次世代の教育と開発、オープン化、地球規模の課題を解決する上での民間企業の役割の3点を中心にパネル討論する。

I.次世代の教育と開発

  このシンポジウムを企画設計する中で、「イノベーションは創造的な破壊を伴う変革であり、現在権力を持つ体制側(Establishment)からは生まれてこない」と確信を持つに至った。権力を失う可能性が大きいため変革は避け、現状を維持する傾向が強い「既得権益側」や組織に、イノベーションを期待しても無理。だからこそ、新しい世界を担う次世代に期待し、次世代を育てる環境を作る必要がある。

冨山 和彦
 ―政府からの予算10兆円で41社の企業再生を終え、予定より1年前に解散した産業再生機構での経験から、日本の人材の状況について述べる。
  ―再生機構のリストに上がった問題企業は、いずれも経営上層部の力が弱体。日本企業の経営トップの力は衰退し、現在は第2次大戦後、最低水準だと思われる。
  ―その理由は、20年あまり日本が平和で経済的にもよい状況が続き、社会システムが安定して、革新の動きや必要性がなかったため。経済社会が安定していると、エリートは東大に行き、成績の良いBest & Brightestは官僚になる。こうした安定社会においては、終身雇用、年功序列がルールとなり、縦割り社会が生まれる。人間は既存のシステムからインセンティブを受け、行動も影響されるため、イノベーションは生まれない。
  ―問題企業でも現場や第一線の人材は、平均してよく働き、各種のイノベーションも生み出している。一方、トップ層にはイノベーションは見られない。現場の人材もトップの能力のなさにひきずられ、長期的には力を落とす傾向が見られる。
  ―この問題の解決案は、縦割り社会を壊す、それも中枢から変革すること。中枢である政府と、大学でいえば東大を壊すことが一番。私自身も東大卒で東大自身には愛着もあるが、日本では富士山、中央を見て手本にする傾向が強いため、一番手本になる中心・中枢を変えないとだめ。問題は、中枢にいる人たちが既得権を持っていること。
  ―今の日本では、イノベーションを起こすと期待される人材をどう選択するか、イノベーションの担い手となる次世代の教育には何が必要か、全くわかっていない。

Ellis Rubinstein
 ―イノベーションを奨励する社会システムとは違った視点、いかにイノベーションができる個人をつくるかという点からコメントする。
  ―イノベーションには、洞察力があり、新しい見方をして実際新製品などに転換できる個人が必要。その資質を、脳科学とビジネスの接点から考える。(参考文献はPalm PilotをつくったJeff HawkinsのOn Intelligence
  ―脳には高度な機能部分と標準機能部分があり、通常の処理をするのは後者、複雑な課題を考えるのは前者。イノベーションを奨励するためには、自ら複雑な課題を数多く体験させることが一番。そうすると、標準機能部分で複雑な課題が処理されるようになるので、脳の処理速度がはやくなる。
  ―今まで指摘されてきた現在の日本の教育やシステムの問題点、すなわち、体験より情報によって知識を獲得する傾向や社会的経験の不足は、こうした視点から考えるとイノベーティブな脳の開発には逆行するもの。
  ―特にこの日本の動きは、中国が今大規模に実施している取り組みと比較すると全く違う。中国では、若い科学者を世界最高の研究所に送り、中国に帰国したら、大きな責任、報酬を準備し、イノベーションを奨励しようとしている。
  ―日本も以前は、30-40代の若手科学者を多数海外へ送っていたが、最近は日本にとどまることが多い。これはかなり問題。
  ―米国の若者は、90年代までは米国中心、世界には無関心という傾向だったが、最近は、世界それも開発途上国への関心が高く、また人のために貢献する、一年大学を休んで海外に行くといった傾向が著しい。こうした変化には希望が持てる。

石倉=>多様な経験の重要性、複雑な課題に直面することの重要性などが二人のコメントの共通点だろう。

II.オープン化という課題にも関連

中村 道治
 ―若い時にCaltech、最近ではSan Joseにいったことが、自分自身のキャリア上では大きなインパクトを持った。
  ―企業がイノベーションに果たす役割は大きい。研究開発投資の75%は民間企業によるものだし、この状況は世界でも同様。 
  ―スライド1(スライド1)は、企業のオープン・イノベーションをエコシステムという観点から示すもの。民間企業は、最近、大学その他研究機関と各種の連携・協働作業をしており、20年前とは様変わりした。日立をはじめとする日本の大企業はベンチャーキャピタル(VC)部門を持ち、ベンチャー企業に投資している。大学との連携、ベンチャーとの連携いずれも、日本企業は日本でも海外でも同じようにやっている。
  日立のような大企業では子会社が多いことから、技術・人材を会社間で共有することも多く、独自のエコシステムを創出し、これを活用して、イノベーションのスピード化を推進している。
  (スライド2)1950年代からの日立の中央研究所を例にして、歴史的にどんなパラダイムシフトが起こってきたかを示す。
  (スライド3-5)事業環境の変化のスピードが増す中、50年代は外国からの技術導入・キャッチアップが中心。60年代から70年代にかけては貿易収支が大幅黒字となり、自前の技術開発が中心で、エレクトロニクスの黄金時代。その後リストラで、一時は、中央研究所は必要かという、信じられないような議論もあった。最近企業はまた基礎研究に戻りつつあり、技術の黄金時代が復活しつつある。
  (スライド6)今後の課題は、議論ではなくどう実行するか、そして、高い目標を掲げた挑戦と若い世代の奨励も重要。
基調講演でもあったように、雇用の創出は中小企業が中心であるため、いかにベンチャーを推進するかも日本にとっては大きな鍵だろう。

石倉=>技術の黄金時代がリバイバルしているという指摘は興味深い。実際起こっているのか、もしそうでなければ、何が障害か、考える価値は大きいだろう。

Shulin Gu
中国での状況
 ―中国も日本と同様、イノベーションを基盤とした経済成長を目指している。先ほど紹介されたイノベーション能力のランキングでは、中国の地位は低いが、中国も技術導入や模倣、天然資源や低コスト依存の経済開発から内生的イノベーション指向の経済成長に移行しつつある。その政策は、物流の革命、競争環境の整備、規制改革、教育など広範にわたる。これが本当に成功するかはわからないが、総合的、体系的であることは明らか。
  ―経済開発の段階は中国と日本でかなり違うが、協力できる分野は多い。たとえば大学。中国の大学はオープン化されてきたが、日本の大学とは距離の近さの割にあまり協力関係はない。もうひとつの協力できる分野はエネルギー、環境分野の研究。中国もこの方向を目指しているので、ポテンシャルは大きい。
  ―意識改革、制度改革をどう実行するかは、両国共通の課題だろう。意識改革や制度改革は、特に教育の分野において必要。中国ではエリート教育の時代が長く、グローバルにオープンな教育制度に改革しようとするとかなりの痛みを伴う。こうした試みと同質と思われる日本の「イノベーション25」の成功を祈りたい。

石倉=>中国では、どうやって大学を開放したのか。意識改革・制度改革は難しいとのことだが、大学のオープン化がそのきっかけとなるのだろうか。

Deepak Bangalore
 ―アジアではイノベーションというと、技術イノベーションが中心だが、米国企業が大成功しているビジネスモデルの分野では、アジアはシリコンバレーをはじめ、米国に後れている。
  ―ビジネスモデルのイノベーションの事例としては、 1)日本企業に対抗するため、設計はシリコンバレー、製造は台湾でと活動を広げ、業界リーダーの地位を奪還した半導体分野での米国ファブレス企業。。2)Hotmailなどのように、インターネットを用いたのViral マーケティング 3)ビジネス・エコシステムを確立したマイクロソフトなどがある。マイクロソフトは、WindowsOS基盤の共通プラットフォームを用いて、世界中にある多数のニッチ企業を活用し、エコシステムとして、生産性をあげ、イノベーションを続ける体制を作っている。
  ―規模の小さな企業こそが非連続なイノベーションの源泉となる。
たとえばF1レース。トヨタ、ホンダなど膨大な研究開発投資をしている企業ではなく、投資規模が少ない小さな企業が中心的な役割を果たしている。
  大企業にとってもスピンオフはイノベーションの源泉として重要。シスコは周囲の小企業を買収するというスピンインで成長。
シリコンバレーのVC投資パターンは、資金だけを提供するという日本式ではなく、経営への各種ハンズオンなアドバイスをすること。したがって、投資先から移動時間20分以内程度の近くにいなくてはだめ。ネットワークこそがシリコンバレーの命。日本はこの認識が不足している。

  ―日本の問題点は何か。

 (スライド1):中国・インドという圧倒的数への危機感が全くない。今の日本の優位性である豊かさは、すぐに追いつかれる。たとえばインドなど海外の優秀な学生は日本へは来ないという現状も認識していない。
  (スライド2):成功モデルを参考にしない。ベンチャーキャピタルなどは米国に成功モデルがある。
  日本に今必要なのは科学教育の改革ではなく、ビジネスに必要な社会的なネットワークとリスクテークなどの教育である。
社会全体でも、極端なリスク回避の傾向があり、リスクをとることは全く奨励されない。日本では一度失敗すると復活できない。これではイノベーションは無理。
  日本の大企業は日本のベンチャーを相手にしない。日本のベンチャーはインドの規模は小さくても最初から世界を目指すマイクロMNCと同じ様に、最初から世界を目指したほうが効果的。米国は高いスキルを持つ人材を世界から無料で受け入れる移民政策をとっており、これが、イノベーションの源泉となっている。
  (スライド3):急速に成長する中国に対しては、日米インドの連携が効果的。インドは米国とも日本とも良い関係を持っているので。

石倉=>基調講演・パネルを通して、米国・アジアにはイノベーションによる経済成長という共通点があるが、ダイナミズムという点で日本は異質であることがわかった。なぜ日本以外の国では、実行への拍車がかかったのか、たとえば大学のオープン化、世界への関心など、きっかけは何か。日本では議論ばかりで実行が伴わないのはなぜか。危機感のなさか?

E. Rubinstein 
 ―数年前からボランティア活動への関心が米国で高まったのには、以下のような背景がある。

・それまでの金もうけ至上主義が飽きられたから。米国ではある風潮が定着して一定期間たつと、新しいことをしようという動きが出る。
・マスコミの力。Angelina Jolieなど若者に人気のあるアーティストやタレントがジェフリー・サックスとアフリカにいって支援活動などをする様子を報道
・両親が奨励する(少なくとも邪魔はしない)。たとえばファイザーのトップは19歳の娘に開発途上国の学校でバレーボールを子供に教えるというプロジェクトに参加することを奨励したという話がある。その波及効果が大きい(自分ができるかは疑問)。

冨山 
 ―日本では5-10年前の景気の底時点のほうが危機感があり、ダイナミックだった。大企業からのスピンオフもベンチャーも多かったが、最近は少ない。M&Aにもアレルギーがある。大学生の就職人気ランキングの上位企業も20年前と同様の顔ぶれ。国家公務員試験の合格者は東大の比率が高い。両親の世代も保守的で、官庁、大企業、大銀行などを重視する。これは問題。
  ―日本の社会システムの革新は、外と中からのプレッシャーで起こる。オープン化が進めば、外からのプレッシャーのきっかけになる。
  政府に対しても、外からのプレッシャーと選挙民からのプレッシャーが力となり、変革が生まれる。日本の大学などの組織は、外部からのガバナンスを嫌うが、外的プレッシャーと中からのプレッシャーの両方が必要。

石倉=>大学も政府もオープン化すべきというのはもっともだが、既得権益を持つ人にはオープン化のインセンティブはない。その中で、どうやって中国は大学のオープン化ができたのか。

S. Gu 
 ―中国の大学のオープン化もまだ道半ばにある。
  資金や教授陣は外部にオープン化されてきたが、さらに深く、行動パターンを見ると、本当の意味での知識や行動の共有・共感のためには、意識改革がまだ不足している。中国の大学は欧米に比べると年功序列意識が強く、若い学者は、教授や年齢の上の人に遠慮し、自由にものが言えない。知識を創造し、共有する学術組織ではこうした行動面にももっとオープン化が必要だろう。

中村
 ―最近、日本の若い世代の視野がせまいという理由のひとつに、社員を海外に研究のために派遣する場合の企業の財務的負担がある。以前はほとんど費用がかからなかったが、80年代から海外の大学も妥当ではあるが、経費を請求するようになった。日本企業にはこの費用が負担となり、多数の若い世代を送ることができなくなった。
  ―外国の大学がオープンな理由は、大学が変革しようとしており、そのために外部の血をいれようとしているから。中国の清華大学と日立は組織間連携をしているが、いずれも変革への意欲が高い。イギリスの大学もこうした意欲が高く、1990年代に積極的に日本企業を訪問し、提携の働きかけなどをした。

石倉=>日本では変化のスピードが遅いということだが、世の中の変化のスピードがずっと早いとすれば、どんどん遅れるばかりではないか。

D. Bangalore 
 ―イスラエルは、世界でもっともイノベーティブな国の一つだろう。一人当たりの特許数で見るとイスラエルの技術イノベーションは桁違いにすごい。イスラエルは技術だけでなく、人材面でもすぐれている。たとえば、年功ではなく、業績で決まるイスラエルの空軍は実力・実績が世界最高。業績を基準にした制度でなくては生き残れない。
  ―日本ではそうした危機感がない。明治維新や第2次大戦直後は、日本にとって「非連続な時代」だった。当時は、革新的な人が出ている。

石倉=>ほかの国を見ても何らかの危機がきっかけになって、イノベーションが進んでいる。日本でも危機があったが、最近は保守主義にもどりつつあると聞くが。

中村 
―現在日本は、「失われた10年」からリカバーした所だが、年代を超えて、社員と危機感を共有できるか、維持できるかが鍵。

E. Runbinstein 
 ―米国人は常に新しいことを求め、仕事を変える。韓国人も、5-10年同じ仕事は続けたくないと聞くが、日本のキャリアモデルはまだ長期的。企業も一時危うくなった終身雇用制度をまた復活させよう、そして維持しようとしているように見える。
  ―Newsweekで働いた経験があるが、同社を変革しようとした時に、大学新卒で入ってずっといるグループと、他所ですばらしい業績をあげて中途採用で入社し、改革の先導を期待されたグループの2つがあった。前者は優秀ではあったが、ほかで働いた経験がなく、変化を恐れていた。中途採用組は全くそれを気にせず、変革しようとしたが、結局、会社サイドに変わる気がないとわかった時点でほとんどやめた。

冨山 
 ―日本の今の均衡状態は非常に微妙。一人当たりGDPの国際ランキングがかつては一、二を争っていたのが、今やはるか二桁ランクに転落してしまった、円安も進む傾向にある。為替は国の力を反映するものなので、国際社会は日本の成長力を期待していないということ。金融は、血液のようなものであり、日本の状況は病気にたとえると、どんどん血が流出しているという急病からは金融改革によって回復してきたという状態。長期的な生活習慣病はまだ残っている。これからの10年が鍵だろう。
  ―古いシステムの担い手であった団塊世代がここ数年で退職し、このシステムから自由になる。社会の中核となる20代30代は社会に出た時の状況が悪く、既存のシステムに対して疑問を持つ。しかし、この年代は団塊世代の両親に経済的にもサポートされてきたため、本当の意味で危機に直面していない。
  ―団塊世代が退職し、社会保障に頼るようになるが、社会保障は十分に機能していない。そうなると金融資産に頼るようになるが、1%以下のリターンでは生活水準が維持できず、低金利が自分の問題となる。金融資産からのリターンをあげよというプレャーが高くなり、政府に対しての内部からの圧力になる。生産性の点では、最低なサービス・セクターである政府に対するプレッシャーが高まる。次の10年が正念場。

III.世界的課題に対する民間企業の役割

石倉=>ここで世界的課題に対する民間企業の役割について、議論したい。たとえばウィンス・スミス氏によれば、米国では、雇用の創出は中小企業が中心になっている。このあたりの問題も含めてコメントしてほしい。

中村 
 ―日立でVCを担当していた当時、日米のベンチャーに投資していたが、日本のベンチャーは活動レベルが低かった。日本では、政府が起業を奨励し、ベンチャー活動を後押しし、幾分よくなったが、ベンチャーへの投資は日本が米国に比べまだ10分の1の水準。政府・民間企業いずれでももっとベンチャー資金を増やすべき。
  ―個々のベンチャーへの投資額も非常に少なく、数千万円レベルで、米国に比べると10分の1。ベンチャー奨励のためのシステムを整備すべき。

D. Bangalore  
 ―日米のVCの最大の違いは、ネットワークを駆使して、経営全般にアドバイスする米国VCに比べ、日本の一般的なVCが金融だけに限られている点だろう。
  ―米国では、VCから20分以上離れた所にあるベンチャーは、資金を投資してもらえないというほど、頻繁に接触がある。単にお金を投げても、成果は小さい。
  ―インドに多いマイクロMNC(規模は小さいが、世界で事業を展開する多国籍)IT企業は、インドに国内市場がほとんどないこともあって、最初から世界を目指す。米国企業のマネジメントから下請けの仕事がもらえるなどのコネがない場合は、世界を目指さなくてはならない。

石倉=>基調講演でも指摘されたが、国境を超えた活動を可能にする手段としてのICTの進展は著しいので、その気になれば何でもできる?

E. Rubinstein
 ―ダボス会議に6年連続して参加したがその間に企業には大きな変化があった。自社の利益中心から、社会的な問題、周囲の広い範囲の問題に関心を持たねばと意識する若い世代の経営者が増えた。米国には寄付や社会貢献の長い歴史があるが、それは地域中心だった。最近は、地域を越えて、国の教育、世界の問題解決へと、今までにないスピードで企業が世界の課題解決へと行動している。
  事例をあげよう。GSK(グラクソ・スミスクライン)は本社がフィラデルフィアにあるが、そこでの活動より、世界レベルでのヘルスケア関連などの活動にシフトしていると聞いている。私の知る限り、住友化学のアフリカでの活動などはあるが、こうした活動をする日本企業はあまりない。自動車メーカーはその先例となる可能性があるが、もっと社会的活動、国内でも国外でも従来の事業活動を超えた広い範囲での、一般社会を対象としたパブリックな課題への活動が考えられる。一般を対象に、スポークスマンとして活動する企業はほとんどない。欧米の企業に比べると、日本企業は世界レベルでパブリックな活動に参加するという意識が不足しているようだ。

石倉=>残念なのは、世界レベルの課題解決に貢献できる技術を日本企業が持ち、国際貢献ができるにもかかわらず、それを世界に知らせていないということ。

会場からの質問

質問1
政府・企業・大学などを考えると、一番イノベーションが必要なのは、大学と思われるが。パネリストの中で、海外の大学での経験者に。

冨山
―大学にガバナンスがない点がイノベーション欠如の原因だろう。教授会は意見一致が必要なため、そこで内戦をしてエネルギーを使い果たし、外の相手と戦うまでいかず、競争力をなくしている。
  ―大学の顧客は社会。ある大学の卒業生を採用して、企業は成長するはずだが、経営層に東大出身者の比率の多い企業は成長率が低いとすると、東大は不良品を出していることになる。

石倉
―2000年から始まった一橋国際企業戦略研究科(ICS)のビジョンは、アジアの留学生の多くが日本を通り越して欧米に行く中、日本からもビジネス・スクールでグローバル競争に参加すること。そこで英語で10月入学のコースにし、西洋と東洋に橋をかけるというコンセプトではじめた。もうひとつの目的は、世界的に見てひどい状況の日本の高等教育に一石を投じるということ。

 ―しかし6年たってみると高等教育へのインパクトはほとんどない。そこで、大学や教育制度を改革するという方向とは全く別に、大学を離れて、教育の元の目的にもどり、最新の技術手段を用いて、知識・情報はオープンにし、問題解決が常にできるようなプラットフォームを作ったほうが良いのではないか、と個人的にはここの所考えている。

中村
 ―90年代に海外の大学の学長が日本企業を盛んに訪問するようになったといったが、最近は、日本の大学もかなり企業を訪問するようになった。たとえば日立では東大や北大などとの総合的連携が始まっている。企業ももっと大学の中に入り込まないと。

質問2 
 ―ベンチャーもそうだが、特に社会起業家のベンチャーには日本で参考にできるようなモデルがない。日本でいかに社会起業家を推進奨励できるか。

E. Rubinstein
 ―中国のやり方と同様に、学生を成功している地域に送り、その人が帰ってきたときに変化を起こすというアプローチもある。 ―Science誌にいた時に、博士課程を追えた人などを対象にキャリア・アドバイスのウェブサイトを始めた。当初は米国だけと思っていたが、世界から接触があり、世界各国と共同作業をした。しかし、日本だけとは協力体制ができなかった。
  ―日本には、若い世代にそうした意欲があっても、実際のロールモデルがないし、どんな意識でやっているのか、どんなやりがいがあるのかがわからない。それを知ること、知らせることがまず必要。

冨山 
 ―産業再生機構もある意味では社会起業家的だった。日本の官の組織は年功序列で、それが非効率の源泉。しかし、再生機構はそうでなかったし、今の私の組織にもやりがいを求める若い世代がたくさんいる。

質問3
 教育では何を教えるべきか、各国での経験を。今までは知識中心だったが、感度、好奇心、イマジネーション、創造力などが今後は必要だと思うが。

D. Bangalore
 ―情報はネットで誰にでも得られる。その情報を使って何をするかというノウハウがなければ、役に立たない。同じ情報を得ても、経験がある人とそうでない人は全く違う。シリコンバレーなどの地域にはノウハウが豊富。新しい特許、製品を誰かが発表するとその意味がすぐわかる。これはその場にいないと教えられない。

E. Rubinstein 
 ―米国の初等中等教育の状況はひどいので何ともいえないが。経験をベースにした教育が必要。学ぶ側が自ら参画する教育が良いといわれている。実際にやっている所ではうまくいっているが、局所的なものにとどめずにそれをどうやってシステムとしてやるかが課題。
 ―学校教育という正式な教育だけでなく、放課後などに美術館など各種の場所や手段を駆使してやる広い意味での教育も重要。
 ―米国でも視野がせまく、世界観のない地域がある。こうした地域では新しい情報技術手段を受け入れず、活用できない。いかに活用していくかは日本と同様に課題。

S. Gu 
 ―中国国民の60%は地方に居住している。中国の教育は科学技術に強いが、地方には全く浸透していない。何を、どうやって教えるかについて、理論中心、経験中心いずれも片方だけではよくないので、どう両者を組み合わせるかについて、今研究や議論が行われている。今まではエリート中心、理論中心だが、私の大学でも経験主義を取り入れようとしている。重要なのは組み合わせだろう。

まとめ

石倉
 イノベーションを推進する社会を作る一歩は、まずオープン化。どこにいようと、グローバルな視点を持てば、新しい情報通信技術を駆使できるポテンシャルは大きい。それをいかに使っていくかはわれわれ次第。これこそがイノベーションだろう。イノベーションにはいつもリスクが伴う。リスクを避けていては何も始まらない。まず実行あるのみ。

プログラムへ戻る

Top of Page