(
タイトルスライド)
「日本のイノベーション政策の動向―社会的価値から経済活動への翻訳―」
北澤 宏一
日本学術会議イノベーション推進検討委員会副委員長
科学技術振興機構理事
(スライド1)
海外のイノベーション政策は各国の競争力を強化し、国際競争に遅れないように、国内体制を整備するもの。政策の基本は、インフラ、人材、投資。
これに対し、日本のイノベーション政策はイノベーション25で大きく変化したと認識。それは、以下の3つの点
―制度間の共生協調・競合関係をエコシステムとして捉える
―必要人材を特定:「出る杭」人材
―市民の視点が導くイノベーション
いずれも今までのイノベーション政策になかったイノベーション25での新しい視点。技術開発の基本は技術の現状の延長を予測するものだが、日本にはそれと違ったアプローチが必要。イノベーション25は「技術者科学者に何をしてもらいたいか」という生活者の視点を起点。
多様な文化の尊重、人類共通の課題の解決が出発点。イノベーションを競争力と考えると、限界があるが、日本の政策では人類共通の課題解決を明示した点が新しい。
(スライド2)
今までのイノベーションの指標は便利さ。今はこころや生きがい。未来と子孫をイノベーションのベースに置こうという姿勢。社会変革を目指すという強い決意を示す。日本では従来こういう姿勢を打ち出していなかった。
日本は子供たちに見放された国。子供の65%が未来に希望を持つ欧米や他のアジア諸国と比べ、日本は35%のみ。「その日その日を楽しく暮らす」のが日本の子供のモットー。
両親は生きがいをもっていると答える子供は30%台、「明日への夢をもっていないいじけた子供」、「肩をがっくりと落とした大人」という姿が現状。
(スライド3)
それを背景として考え、「こころ、生きがい」を視点として、イノベーションを考える。これは未来の子供の財産・環境を奪わないこと。それは具体的には、人類共通の課題を解決すること。これには環境、文化、相互理解(同時通訳、アーカイブなど)、いかに元気な人生を送るかという意味での健康。
(スライド4)
どうやって子供たちに挑戦すべき課題を提示するか。具体的には、このような課題。
(スライド5)
こう考えると、自分個人の立場がどうであれ、組織が何をやるべきかとの間に葛藤が生じやすい。
イノベーションを進めていく上で一番重要なのは、社会的に価値あるものをいかに経済的なインセンティブに変換するか。そうしないと、企業が参加できない。一方、高い理想目標を掲げないと、若者がついてこない、子供がいじけてしまう。日本の遺産として何を残すかをはっきり提示すべき。
そこで具体的な事例として、Maglevリニアモーターカーの事例を紹介。
(スライド6)
リニアモーターカーは、理想的な特質を持ち、日本だけで独自に開発されていてユニークな技術。しかし問題は8.5兆円かかる(一人当たり8万円。)そんな無駄な金をつかうことはできないという議論になること多い。
(スライド7)
個々ではなく、全体から見て考えることを提唱したい。製造業の付加価値がGDPに占める比率は先進国で20%以下、製造業が日本の国際競争力を議論する上で注目されるが、日本の景気はそれ以外で80%が決まっている、今後この傾向はさらに拡大と予想する。
(スライド8)
日本のユニークな現状データ、GDPがすでに15年も飽和しているというデータがS8。飽和は「飽食の時代」、「ものあまりの時代」、「サービス過多の時代」と関連、国民が満足してしまった時代に入っているという状況。GDPが飽和しても良いと考える人が多いが、社会の合理化が年2%程度進行するため、GDPがそれに見合って伸びないと人が要らなくなる。この結果失業が生じ、現在のように「大人は肩を落とし、子供はいじける」社会になる。
GDPの飽和は、失業増加につながるところが問題。
(スライド9)
海外から見ると、日本は貿易黒字が毎年10兆円出て、20年続いている。海外純資産が200兆円、英国を抜き、今ダントツの第1位。
今後の日本は貿易黒字をこれ以上増やすことは世界の秩序を乱すので難しい、内需を作り出す必要があり、子供が喜ぶような消費形態でないとだめ。GDP飽和の時代の中で、内需を作り出す、「今までにない需要」を作らないとだめ。
(スライド10)
GDPの雇用に占めるNPO寄与度比較を見ると、オランダは20%近い。製造業が20%を切っている中、NPOが20%近くなっていることに注目。
(スライド11)
NPOへの寄付金額は日本人一人当たり300円(赤い羽根を3本寄付)、アメリカは10万円。企業は日本もがんばっているが欧米には負けている。個人が鍵。
(スライド12)
日本のお金の動きを詳細に見たデータがスライド12.国内総生産500兆円。国民一人平均で500万円。製造業の付加価値は100兆円。娯楽費が100兆円。そのうちパチンコが35兆円。医療費が34兆円。電力費が18兆円。科学技術関連予算は公費で4兆円。東京大阪間のリニアは8.5兆円。国民ひとりあたりにすると8万円。それだけを見るとそんな巨額と思うが、日本では娯楽費に一人当たり100万円。リニアを娯楽と考えると簡単に使えるお金だが、役に立つ交通手段として考えるととてもということになっている。これが現在の日本。
(スライド13)
社会的価値を経済的インセンティブに変換することが世界の課題を解決する上で必要。国や行政は民間企業が活動できるようなしかけを作る必要。
たとえば、NPOがGDPの20%になりうることを考えると、NPOへの寄付の税金。米では、サラリーの5%を寄付できる市民になれるように子供を親が育てる。教育は致命的に重要。
1970年にマスキー法がカリフォルニアで制定。数年以内に排気ガスのNOxやSOxをあるレベルまで下げることを要求。自動車関連企業は反対したが、努力した結果、ホンダが最初にクリアした。これが現在の自動車の基本的な方向となり、その延長上にトヨタのハイブリッドなどがある。
こうした規制は、簡単に抜ける伝家の宝刀ではないが、経済価値への変換手段のひとつ。
(スライド14)
現在のドイツの制度を紹介。国民が太陽光発電を採用すると、20年後にその投資額が回収できる値段で電力を電力会社が固定価格で買い上げることのできる国の支援制度。国は現時点ではお金を出す必要がなく、個人が自発的に投資できる
2004年までは太陽電池の設置トップは日本だったが、この制度の元、2005年ドイツが抜いた。ドイツの国民がこぞって太陽光発電に投資するようになった。これは大きなかけで、将来効果があるかわからない面もある。太陽光発電自体がエネルギーを得る方法として、もしかすると、失敗という可能性もまったくないわけではないが、ひとつのやり方。
ドイツのように太陽光発電に国民が3000億円を10年間投資してかけてみる国と、パチンコで毎年30兆円をすることのできる国とをどう比較すべきなのか。
(スライド15)
イノベーション政策が、「若者に夢をあたえられるか」が課題。国がどのような政策を実行しようと、「若者の夢」が育たないような国は落第。未来への価値ある挑戦を若者と共有できるか、世代間の共感が得られるか。
「社会的価値を経済的価値へ変換する」。産官学が協力してその場を作っていく。これがGIESの描く「場」ではないか。
プログラムへ戻る
