富山県立富山中部高等学校

  

 

  『探究モジュール』による効果的な探究力の育成について 

  ~探究科学科から普通科への波及を目指して~

        紹介者名:富山県立富山中部高等学校 理数科学科主任 岩崎 剛大

 

 

   1.学校の概要 

 

 本校は令和2年度に創立100周年を迎え、「学力の充実 品性の陶冶 心身の鍛錬」を学校目標とし、民主的で、自主性・創造性に満ちた人間の育成に努めています。平成23年度には「探究科学科」(理数科学科と人文社会科学科の総称、定員80名)が新設され、平成26年度に初めてSSHの指定を受けました。探究科学科を中心に課題研究や高大連携などを推進し、探究活動に必要な基礎的能力を段階的に養うための学習プログラム『探究モジュール』を開発しました。
 SSHⅡ期目では、『探究モジュール』を発展させ、普通科にも導入することで、学校全体で生徒の「探究力」向上を目指しています。


 

   2.取組の概要

        

 探究科学科では1年次に教科横断型科目「SS基幹探究」(2単位)において、『探究モジュール』を実施しています。探究活動に必要な「探究力」の基礎となる資質・能力を、上記の7つの力に整理し、段階的に習得することにより2年次に行う課題研究の基礎を身につけさせています。80名を5つのグループに分け、それぞれを5教科担当教員各2名が教科の特性を生かしたプログラムをローテーションで実施しています。2年次には、「SS発展探究」で数学、理科(物理、化学、生物)、国語、地歴・公民、英語に関する課題研究にグループごとに取り組んでおり、12月末に県内の探究科学科三校と合同での発表会において、また、1月末に本校で実施する課題研究発表会において、ポスター発表を行っています。3年次には、英語でのポスター発表を実施しています。
 普通科では、探究科学科と同様に1年次に「SS探究Ⅰ」(1単位)で、様々なデータ、グラフ、表などの資料を活用し「読み解く力」の育成に重点を置いたプログラムを実施し、2年次には「SS探究Ⅱ」において課題研究を実施しています。社会課題などを多面的にとらえ、科学的手法で解決を目指します。学年テーマに沿ったクラステーマを設定し、5名程度のグループで研究を行い、1学期末に仮説設定報告会をクラス代表による口頭発表で行い、10月に中間報告会、2月の課題研究発表会においてポスター発表を行っています。


   3.工夫のポイント

        

 令和2年度から実施している普通科2年次での課題研究においては、プロジェクトチーム(4名)をつくり、研究の進め方の提示、年間計画作成、各班の進捗状況確認・指導、評価などを行うことで、授業の担当教員(各クラス2名)をサポートする体制をとっています。担当教員の役割は、各班の活動状況(場所)の把握を主として、研究が調べ学習になってないか、検証が困難でないかなどを必要に応じて助言するというものでした。探究科学科で行われている課題研究は各教科の教員の専門を活かせるのですが、普通科課題研究は担当教員の専門性を活かすことが難しく、指導助言をすることができるのか不安を感じる教員がいる状況でした。
 2年目の令和3年度からは学年主任を中心に学年主導で、課題研究を行っています。実施にあたり、生徒のモチベーションをいかに高めるか、調べ学習にさせないためにはどうするか、生徒へのサポート体制をどうするか、などの問題がありました。それらへの対応として令和5年度の取組を紹介します。
令和5年度の学年テーマは「ウェルビーイングの向上を目指して」であり、「仕事」「子育て」「健康」「食」「地域交通」について課題研究に取り組んでいます。テーマごとに企業や県庁、大学、各種団体などと連携する体制を強化しました。また、令和4年度に神戸大学附属中等教育学校の林兵馬先生に課題研究について講演していただいた内容を参考に、課題研究の担当教員の業務内容を変更し、明確化しました。「生徒達が自分のテーマに関して教員を含めて一番詳しくなる」「教員は共同研究者」というスタンスで、お医者さんが患者の問診を行うイメージで各班の生徒と毎時間ヒアリングを行い、進捗状況の確認と問題点などの相談を受けてもらい、その内容を記録しています。相談への回答は、その場で行わず、学年の先生方で対応を検討し、次回のヒアリングで回答することにして、担当教員の負担を軽減します。各班からは毎回別の生徒がヒアリングを受けに来る体制をとることで、生徒達の活動評価の参考にしています。
  令和4年度SSH情報交換会における全体発表③の林慶一教授による課題研究の流れに関する研究報告も大変参考になったことから、令和5年度の探究活動のオリエンテーションの際にその内容を生徒に説明させてもらいました。いわゆる探究活動の流れ(課題設定→仮説→検証→考察→結論→発表)は、研究の内容を論文作成や発表会のためにまとめる際の形式であり、実際の研究の過程ではないということでした。生徒達には、特に仮説→検証→考察から仮説に戻るサイクルを回し続けるように伝えました。
令和5年度の新しい取組としては、ロゲイニング(チームごとに作戦を立て、地図をもとに、時間内にチェックポイントを巡り、得点を集め、合計点で競うスポーツ。)に課題研究の成果を盛り込むことで、研究の成果をロゲイニングの形で発表するというものがあります。競技性をもたせることで、生徒達のモチベーションが上がることを期待しています。
また、福島県立安積高等学校の2年次と課題研究についての交流を予定しています。


   4.取組を通じた生徒の姿など取組の成果

        

 2年次の令和3年度のアンケート結果によると、探究活動に必要な7つの力を身につけることができたと回答した割合が、普通科は探究科学科に比べて20~30%低いという結果でした。探究科学科に比べ、普通科は課題研究の時間数や担当教員数が少なかったことが原因の一つと考えられたことから、令和4年度から企業や県庁など外部との連携を始めました。令和4年度のアンケート結果では7つの力すべてで身に付けることができたと回答した割合が80%を超え、探究科学科との差も大きく縮まりました。外部人材からの協力を得たことで課題研究を進めるための活動の方向性が明確化され、研究を進めることの意義ややりがいにつながり、意欲的に情報収集、考察、議論などの活動を行えたことが、「探究力」の向上を促したと考えられます。令和5年度は外部との連携を一層強化しているので、さらに成果が上がることが期待できます。
 生徒達の新しい動きとしては、普通科課題研究を行っている生徒達が校内での発表だけでなく、他県で開催されているコンテストや、外部団体主催の事業などに参加するなど外部で研究成果を発信するようになりました。また、過去に探究科学科で行われた研究の成果を普通科での研究テーマとして引き継いだグループが現れたことも、探究科学科の課題研究と普通科の課題研究の融合という点で、これからも発展を期待したい動きと考えています。

 




「SS探究Ⅱ」仮説設定報告会