福井県立若狭高等学校

  

 

  地域資源活用型探究学習で地域と世界を結ぶ科学技術人材を育てる! 


        紹介者名:福井県立若狭高等学校 SSH研究部長 兼松かおり

 

 

   1.学校の概要 

 

 福井県立若狭高校は創立125年目(令和4年4月現在)、福井県西部の小浜市に位置し、理数探究科、国際探究科、普通科、海洋科学科の4学科を持ち、若狭地域の3分の2が入学する、地域の総合高校です。医師を目指す生徒や漁師を目指す生徒など、多様な生徒が学んでおり、多様性あふれる環境で互いに認め合い学び合うことを通して、学校教育目標である「『異質のものに対する理解と寛容の精神』を養い、教養豊かな社会人の育成」に取り組んでいます。「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業」には、平成23年度より取り組んでいます。 

 

   2.取組の概要・ポイント

        

 若狭高校の学校設定教科「探究」の主な目標の一つとして、課題設定能力の育成が挙げられます。その目標に向けて重要視しているのは生徒が主体的に研究課題を設定することです。そのために、身の回りの事象や身近で豊かな地域資源についての課題を踏まえた研究課題を設定することを奨励しています。加えて、普通科と海洋科学科の1年次の学校設定科目「基礎科学」において、若狭の地域資源を題材とした単元を科学的に学習させることで地域資源に目を向けさせ、さらにそれらを科学的な対象として扱う方法やその面白さを経験させることで、探究観を養えるカリキュラムを開発し連携させてきました。当初は、教員間にはあまりにも身近な事象は科学的な研究に発展させづらいのではないかという不安がありました。しかし、運営指導委員の先生方に「身近な自然環境や地域資源を活かしたテーマこそが、生徒の科学的な興味や関心を引き立てるのであり、それこそが地方公立高校の強み」であることを指摘いただき、そのことを受けて、担当の教員間で議論を重ねて今に至ります。そのため、生徒達は「かかしの鳥獣被害を防ぐ効果」や「越前ウニの高血圧軽減効果」など、身近な地域資源や事象への興味から研究を進めています。また、全学科とも年に2回~4回の探究協働会議を設け、大学教員や地域行政の方々から助言をいただくことで探究内容を深化させ、さらに「人」や「地域」とつなげることによって、生徒のモチベーションを維持、向上するようにしています。  

 

   3.工夫のポイント

 

身の回りの事象や地域資源に対する関心を高めるために、課題研究の初期段階の1年次に地域の課題について行政の方にお話しいただく「地域の方から学ぼう」を複数回実施します。また、夏季休業中の課題として、地域でのフィールドワークを必須とする「プチ探究」を行います。その後活動をすすめ、生徒同士が学んだことを交流し、また、行政の方に指導・助言をいただくことで、それぞれの生徒が「わがごと」として研究課題についての研究を深めていくようにしています。その後、2年次では理系・文系に分かれテーマに合った研究機関の方に指導・助言を頂き、探究を進めて行きます。最初は漠然とした大きな課題でも、これらの取組により現状分析→仮説の設定→検証→振り返り→新たな課題を生み出す…という「課題を生み出すサイクル」を繰り返すことで、課題が洗練されていきます。若狭高校では、課題設定能力の育成という目標を実現するために、この「課題を生み出すサイクル」の重要性を生徒・教員で共有しつつ、海外連携校も含めその時々に適した人材とつなぐことで、3年間の学校設定教科「探究」の学習活動を組織しています。

 

   4. 取組を通じた生徒の姿など取組の成果

 

これらの取組の結果、海洋科学科では、令和元年に地元食材であるサバを使って開発した「サバ缶」が「宇宙食」として認定されました。これは、科学的な視点でサバ缶の調味液の粘性や衛生的な取扱いなどの課題を設定し、問題解決してきたことにより達成できたことです。理数探究科では、地元の三方五湖の湖底に縞模様に堆積した「年縞」の調査から「鳥浜における縄文人の出現」を明らかにした研究が、平成30年日本地球惑星科学連合高校生セッションで優秀賞(全国2位)を獲得する等、大きな成果をあげることができました。これらの課題研究の共通点は、地域資源を活用し、地域に貢献しようとした点であり、地方拠点校の豊かな物的・人的地域資源を活用できたからこそ深い探究へと発展し、それが結果として認められたと言えます。このように、身近な地域資源についての「わがごと」の課題は、生徒の科学的な興味や関心を高め、主体性や粘り強く取り組む態度を成長させます。また、地元の研究機関の支援を受け、解決に必要な科学的視点や科学的研究手法も併せて身に着けています。さらに、探究協働会議・成果発表会を校内外で行うことで、生徒は地域社会からの期待を直接感じ、Agency(社会貢献意識)も獲得しています。






探究協働会議で研究者の方に助言を頂く様子



福井県年縞博物館に協力いただき堆積物のサンプルを採取する様子



「地域の方から学ぼう」において助言を頂く様子