広島県立西条農業高等学校

  

 

  探究活動の深化とグリット向上につながる特徴的な学校設定科目「アグリサイエンス」 


        紹介者名:広島県立西条農業高等学校 SSH研究開発主任 堀内敬士

 

 

   1.学校の概要 

 

 広島県立西条農業高等学校は、創立111年の農業高校であり、7つの専門学科に分かれています。「創造・実践・育命」の校訓のもと、生命尊厳の学びを基盤とした伝統ある本校の強みを生かし、農業高校の新たな教育モデル開発に向け、平成24年度から「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業」に取り組んでおり、平成29年度から第Ⅱ期の指定を受け、本年度は第Ⅱ期5年次にあたります。第Ⅱ期の研究開発課題を「農業・食料問題を科学技術の力で解決するグローバル人材育成プログラムの開発」とし、農業と理科等の融合による探究活動の深化と発信力の強化に取り組んでいます。 

 

   2.取組の概要・ポイント

        

 学校設定科目「アグリサイエンス」(1年次・2単位)は、「SS課題研究Ⅰ」(2年次・2単位)、「SS課題研究Ⅱ」(3年次・4単位)を行う上で必要な科学研究の視点や手法を段階的に身に付けさせ、科学技術リテラシーの基礎を育成する科目です。 第Ⅰ期では、知識習得、観察・実験、「モデル研究」で構成された、「アグリサイエンスⅠ」(1年次・1単位)、「アグリサイエンスⅡ」(2年次・1単位)を設定するとともに、農業分野、理科分野のエッセンスを詰め込んだオリジナルテキストを作成して取り組みました。ただ、これらは、追われるように内容をこなすという科目の実態を生んでしまいました。また、2・3年次における課題研究において、研究レベルが高度化した一方、継続研究が増え、生徒が主体的に課題設定を行う必要性をより強く感じるようになりました。 これらのことから、第Ⅱ期における「アグリサイエンス」では、内容を精選し、十分な時間をかけて生徒に探究の過程をじっくりと経験させること、主体的に課題を設定する能力の育成に重点を置くことをポイントに見直しを図りました。また、第Ⅰ期の構成の中から、授業担当教員が最も手応えを感じた「モデル研究」のみを残し、それを発展させた内容で実施することにしました。 そうした結果、生徒が授業の中で活発に話し合いながら取り組む姿や主体的に課題設定を行っている姿が多く見られるようになっています。第Ⅱ期では、第Ⅰ期に作成したテキストの内容の大部分をカットして、新たな内容や手法を再構築することになりましたが、当時の決断が現在の成果につながったことから、スクラップ&ビルドの重要性にも気付かされました。  

 

 

   3.工夫のポイント

 

「アグリサイエンス」では、生徒の主体性を高め、内容を深化させながら1題材につき探究の過程を2周させる方法(SAINOメソッド)を用いて、農業分野と理科分野の計6題材に取り組ませています。1周目は教員が提示した課題について、生徒が自ら仮説を設定、計画を立案し、検証実験を行うことで探究します。2周目は、1周目の探究の過程で生徒自身が見つけた疑問等から課題を設定し、探究します。 このように探究の過程を2周させることには、課題に親しみ、意欲が高まり、チャレンジ精神が生まれること、自分ごととして捉え、課題に対する責任感が高まることなど、マインドにおいてのメリットがあります。また、検証可能な課題を発見する、具体的場面を想定して研究計画を立案するなど、課題発見や課題解決におけるスキルにおいてのメリットもあります。 農業・理科の教員が担当する少人数2展開の2時間連続授業の授業形態で、「主体的・対話的で深い学び」を積極的に意識して指導しており、生徒たちは、写真のように仲間と話し合い、探究し、まとめを発表します。


 

 生徒が話し合っている様子

 

 生徒が実験している様子

 

 生徒がまとめている様子 

 生徒が発表している様子 

 

 4.取組を通じた生徒の姿など取組の成果

 

 第Ⅰ期に比べ、第Ⅱ期の「アグリサイエンス」では、まとまった時間の確保や内容の精選、「主体的・対話的で深い学び」を積極的に意識した指導により、生徒が互いにコミュニケーションを取りながら自分ごととして探究していく姿が多く見られるようになりました。また、探究の過程を重ねるにつれて、課題設定や計画において、より多様なアイデアで研究を進めることができるようになるなど、生徒の探究活動の質が高まってきたことを実感しています。2年次の「SS課題研究Ⅰ」での課題設定においても生徒が興味・関心に応じて新たな研究テーマを考えたりすることが多くなったように思います。 また、3年次の生徒が、アンケートの自由記述において、「課題研究では、研究テーマが学科の専門の内容になり、慣れるまでに時間がかかったが、『アグリサイエンス』での研究の進め方等を思い出しながら取り組むと、上手く研究を進めることができた。」と回答しています。専門学科の特性が強くなる2・3年次の課題研究においては、応用的な内容や主体性が求められ、生徒は難しさを感じますが、課題の発見からまとめ・発表までの過程において「アグリサイエンス」で身に付けた科学技術リテラシーが研究を進めるための推進力として効果的に作用し、課題研究に粘り強く取り組む中でグリット(目的を達成するために、情熱をもって継続的に粘り強く努力し、物事を最後までやり遂げる力)が向上することが分かりました。