人体組織が本来持っている再生能力(組織再生)を利用した新しい治療法、すなわち再生医療を確立し、新規事業を興すことが本事業の目的である。20世紀の医療は化学療法と免疫療法で驚異的な成果を挙げてきたが、21世紀は遺伝子治療と再生医療が大きな柱になると期待されている。
広島大学理学部では吉里勝利教授が指導する創造科学技術推進事業(ERATO)の吉里再生機構プロジェクトが終了し(平成4年10月〜平成9年9月)、肝臓や毛髪の再生あるいは人工皮膚に関する基礎研究の成果が集積されていた。このことは、世界に先駆けて再生医療への基盤が形成されたことを示すものである。
一方、広島県では次世代産業の創出を目的とした長期総合計画において、バイオテクノロジーの振興を最重点施策の一つとして取り上げ、平成10年4月に「バイオ・健康・ライフ」を重点研究開発分野の一つとする広島県産業科学技術研究所を開設した。この研究所を中核とし、県内に集積されたバイオ・発酵・素材・精密加工・計測技術等を結集してネットワーク型地域COEの形成を強力に推進しているところである。
以上のような背景を踏まえ、広島県と(財)広島県産業技術振興機構が平成9年11月11日に科学技術振興事業団と締結した基本契約書に基づき、広島県地域結集型共同研究事業(課題名:再生能を有する人工組織の開発、通称:広島県組織再生プロジェクト)をスタートさせた。
各研究テーマ及び内容は以下のとおりである。
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1 人工肝臓の開発
ヒト肝臓あるいはヒト肝細胞の入手は非常に困難であり、これが医薬品開発や肝再生医療の分野で大きな障害となっている。この問題を解決して新たな事業を展開することを目的とし、ヒト肝細胞を持つキメラマウスの作製及び機能試験、キメラマウスからのヒト肝細胞の採取法の確立、増殖性肝細胞の実用化研究を行う。
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2 組換えヒトコラーゲン生産系の開発
コラーゲンは医療用品、化粧品、食品の分野で幅広く使用されている蛋白質であり、その多くはウシやブタ由来のものである。しかしながら動物由来のコラーゲンでは抗原性が 問題となる場合があり、さらに近年の狂牛病騒ぎでも見られたように、将来においても安全性に関わる問題は常に起こりうる。そこで、より安全な組換えヒトコラーゲンをカイコに生産させるシステムの開発を行う。
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3 発毛因子の探索
毛包誘導能を維持したままパピラ細胞の長期継代培養法を確立したことをベースとし、培養ヒトパピラ細胞の移植による毛髪再生療法の開発及び発毛因子の探索を行う。
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4 トランスジェニック人工皮膚の開発
これまでに様々な遺伝子治療法が開発されているが、いずれの場合も、一度体内へ治療用遺伝子を投与すると、これを回収することはほぼ不可能である。これに対して治療用遺伝子を導入した人工皮膚の場合、これの移植及び切除は簡単な外科手術で行えるため、より安全な遺伝子治療といえる。また、移植部位を外部から観測できることも優位な点であり、これらの開発を行う。
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5 ヒトへの移植法の研究
「人工肝臓の開発」で得られた研究成果を基に、肝細胞の移植による肝障害の治療法の開発、増殖性肝細胞を用いた遺伝子治療法の開発、体外型人工肝臓の開発等、再生医療の確立を目指した研究を行う。
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6 プロテオーム解析
プロテオーム解析グループでは受託解析の事業化を念頭にいれ、プロテオーム解析技術の改良、プロテオームデータベースの構築を進める。
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7 カエルの利用法の開発
内分泌撹乱化学物質、いわゆる環境ホルモンは新たな環境汚染物質として深刻な社会問題となっている。これまでに多くの環境ホルモン測定法が提案されているが、その中で、生物固体をそのまま用いる環境モニタリング法は、生体への影響を直接解析できることから注目を集めており、トランスジェニックカエルを用いた環境ホルモン測定のための標準化技術を確立する。
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平成11年に行われた中間評価では、以下の指示事項が提示された。
1)基礎研究に終始している帰来がある。
2)研究成果を円滑に医療現場へ移転できるように再計画を図る必要がある。
前者の指示事項に対しては、具体的な事業化目標を立てるとともに、研究体制の一部を手直しした。
- 人工肝臓の開発:キメラマウスを中心とした事業展開
- 発毛因子の探索:パピラ細胞の移植による毛髪再生療法の開発
- 生物情報解析プロジェクト:事業化目標を明確にするために分割
- プロテオーム解析:プロテオームの受託解析事業の立ち上げ
- カエルの利用法の開発:環境汚染モニタリングシステムの構築
後者に対しては、1年の準備期間を経て、平成13年4月に再生医療研究室を設立した。当室は広島大学医学部より派遣された医師で構成されている。
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