ヒトゲノム解析などめざましい医療関連技術の展開にあたり、再生医療・細胞治療等の先端医療に対する関心・期待や、その実現による患者のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上という社会的ニーズが非常に高まっている。この最先端分野における研究開発において、関西圏では既に再生医療に関わる知識の集積があり、さらに、臓器再生など医学的応用に結びつくテーマの基礎的・モデル的研究が行われる「発生・再生科学総合研究センター」の神戸への立地によって、より充実した研究基盤が整うことになった。
神戸市では、「再生医療にかかる総合的技術基盤開発」をテーマとする本事業への取り組みによって開発される新技術により、先端医療センターに隣接して整備される「発生・再生科学総合研究センター」での基礎医学研究の成果を実際の医療の現場へと移行させるトランスレーショナルリサーチのモデルとなる基盤を構築し、さらにこれを求心力として医療関連産業を誘致することによって「再生医療支援ビジネスコンプレックス」の形成を目指す。
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1)地域COEの構築
トランスレーショナルリサーチを実現するために、以下の要素が全て必要とされる。
- 医療技術の研究ができる臨床研究実施施設
- 臨床研究の結果を科学的に検証する組織
- 基礎的研究成果を生み出す質の高い研究施設・研究支援のための商業的インフラストラクチャー
事業の中核施設となる先端医療センターは、世界最高レベルの画像診断が可能な映像医学センター、最初から臨床研究の実施を意図した臨床施設である臨床研究支援センターを併設した産学官の協力により設立される施設である。また、センターを側面からサポートする地域中核病院(神戸市立中央市民病院)、発生学・再生基礎研究の世界のメッカたらんとする理化学研究所の発生・再生科学総合研究センターが隣接し、センターを核として、大学以外の場所でのトランスレーショナルリサーチが可能な総合医学施設複合体を形成しており、上記の条件を全て満たす日本でも有数の拠点である。
施設基盤の整備に加えて、その機能を有効活用し、あらたな可能性を生み出すためには、他分野からの優秀な人的資材の結集が必要である。神戸は、京都大学、大阪大学、神戸大学、さらには国立循環器病センターなどの有力研究機関からのアクセスが便利であるという地域性を積極的に生かしつつ、これまでの大学・研究機関・企業内の各々で行われてきた研究とは異なる、様々な産業界と積極的に交流が必要な産学共同研究テーマを設定することで、優秀な人的資材を確保する。
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2)新技術・新産業の創出
研究テーマについては、基礎医学を実際の医療の現場へと展開させるトランスレーショナルリサーチを、ベッドサイド(臨床)へのトランスレーションと、産業化・実用化へのトランスレーションの2方向から捉え、以下の4つの項目に取り組む。
(1) 実践的治療法に向けたシステム構築
京都大学の中畑教授らによる一連の研究成果により、世界に先駆けて造血幹細胞移植法の有用性が確立しているが、今後はより実践的な医療とするため造血幹細胞の体外増幅法の開発が要求され、更に先端医療センター内の医療施設と神戸市立中央市民病院との連携で将来的な造血器腫瘍への臨床実施を目指した基盤技術の開発を行う。
(2) 治療効果検証方法の開発
近い将来、上記の研究項目の成果に基づいて、細胞移植療法が開始されるが、移植された細胞を可視化することにより、細胞の生着率、機能化の確認を可能とする実践医療としての評価法の確立に取り組む。
(3) トランスレーショナルモデルの確立
現段階では細胞移植療法としての材料細胞が確立していない分野、特に糖尿病において基礎研究における成果を基にES細胞より移植材料としての膵ベーター細胞の分化誘導方法を確立するものである。完成後は上記研究項目と連携する。
(4) 産業化を目的とした基盤技術の開発
本研究は、移植材料細胞への分化誘導に必須の遺伝子群を探索するもので、次世代再生医療として期待される血管再生医療を目指して、ES細胞から分化誘導された血管前駆細胞、あるいは血管の豊富な脂肪組織から上記の遺伝子を網羅的に探索し、他臓器細胞機能の再生に向けた細胞分化の可能性を幅広く検討する材料とし、再生医療のシーズとなす。
なお、これらの研究項目は、それ自体の研究目標より上位に、「神戸に実現する施設基盤を実際に産業界に利用可能な施設として血を通わす」事を目標とする。
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