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地域結集型共同研究事業

平成12年度事業開始地域中間評価報告書



平成15年3月
科学技術振興事業団地域振興事業評価委員会

4. 地域別評価
4−5 神戸市
課題名 再生医療にかかる総合的技術基盤開発
事業総括: 村上 雅義((財)先端医療振興財団臨床研究支援部長)
研究統括 西川 伸一(京都大学大学院医学研究科教授)
新技術エージェント 松居 祥二((社)日本国際工業所有権保護協会 顧問)
千葉 敏行(先端医療開発協議会 代表)
中核機関 (財)先端医療振興財団
1*事業進捗状況及び今後の見通し
 コア研究室を擁する先端医療センターの整備が平成14年度に終了し、基礎から臨床研究、臨床応用まで一貫して研究開発が実施される環境を有することは、国内他自治体の(大学を除く)民間研究機関では見られない優れた基盤を有するものと判断される。
 隣接する理化学研究所発生・再生科学総合研究センターとの連携や、今後の更なる集積効果も期待されるとともに、全体の目標として神戸に根を下ろしたベンチャー企業の育成を掲げていることも適切である。
 今後はコア研究室を中心とした研究実施体制および中核機関の事業運営能力の強化に努めるとともに、神戸市のポートアイランドII期地区に再生医療に関する地域COEを形成するという確固たる信念を崩すことなく、事業を推進することが必要である。その際には、多くの事業が参画する神戸医療産業都市構想の中で本事業が担う部分をクリアにしていくことが必要である。また、神戸大学をはじめとする地元アカデミアや地元産業との連携・活用、さらには地域を越えた全国レベルのアカデミアとの連携についても考慮されるよう期待する。

2*研究開発進捗状況及び今後の見通し
(総論)
 研究統括のリーダーシップが確立しており、細胞再生医療についての一つの取り組みモデルを提示した点は大きな成果であり、個別目標の達成度とは別に評価できる。
 再生医療が注目されており、基礎研究から臨床へのトランスレーションが期待されている中で、造血幹細胞の増幅や血管の再建は最も臨床応用に近い領域であることから、これを突破口にして再生医療分野でのトランスレーションを他に先駆けて実行することが日本の再生医療の進歩にとっても、神戸が再生医療の地域COEになるためにも重要である。
 フェーズIの期間中に研究テーマのスクラップ&ビルドを独自に行ったことについては、本研究開発分野が競争の激しい分野であることや研究費の有効活用に対する柔軟な対応と認められ、研究の進め方へ緊張感を与えるという点からも評価できるが、中断および終了したテーマについての総括を十分に行い、今後の研究開発活動に反映していくことが重要である。また、4つの研究グループ間の交流・連携を今後どのように充実させていくか、コア研究室での研究活動の進展にあわせて検討を期待する。
 研究テーマの中には極めて基礎的レベルにとどまっているものがあり、これらについては、実用化に向けて更なる研究強化が必要と思われる。また、細胞生物学一般のテーマであって、再生医療特有のものではないテーマについては、その研究遂行を大学研究室や他の研究所の役割と位置づけ、本事業ではこのような知識を集約して、実用化に向けて必要な技術基盤を整備することに注力することが必要であろう。

(サブテーマごとの留意事項)
サブテーマ名 留 意 事 項
実践的治療法に向けたシステム開発−CPCを利用した血液・血管の再生研究
  • 世界的に見ても技術レベルが高く、進捗も速い。今後セルプロセッシングセンターの完成によって臨床に向け順調な研究の進捗が期待できる。
  • 大量細胞培養は再生医療の大きな要素技術であること、臨床応用に近いテーマであることから、目標の達成をもっと急ぐべきである。
  • 実用面で(1) 臨床応用前に確保すべき安全性上の諸問題のクリア(2) GMPのグローバルレベルでのハードルクリア、がネックになる可能性が大きい。
  • 造血幹細胞の数の増加と造血活性が逆相関の関係にあるとの報告が世界中でされており、in vitroで増殖させることは極めて難しいとされている。造血幹細胞としての質を失わずに数を増やすにあたっては具体的な目標(10倍、100倍、あるいはそれ以上)を設定したほうが良い。
治療効果検証方法の開発
  • 技術の優位性が高く、細胞再生医療の基盤構築につながる臨床的意義がある。実用化すれば評価系として広く利用されることが期待される。
  • 小テーマを2〜3個に整理して集中的に成果を上げるべきである。
  • ヒトへの応用も近いと考えられることからサルを用いた系などで実用性を確認してほしい。既に行われている細胞療法などへの応用も考慮すべきと思われる。
  • 再生医療における治療効果検証には移植細胞のトレースのみでなく、再生組織の強度や機能などの多面的な評価が必要である。本内容は優れており、有用性も期待できるが、これのみで検証できるかどうかの検討も必要と考えられる。
トランスレーショナルモデルの開発−ES細胞から内胚葉系細胞の分化誘導技術の開発
  • 基礎研究成果を実用化にもっていくためのトランスレーショナルモデルとしてES細胞を用いたインスリン産生細胞への分化が適切かどうかに疑問がある。
  • 本テーマの一部に進捗の遅れがみられる。本テーマの進捗とあわせて、血管系でのトランスレーショナルモデルを確立するというテーマの検討が望まれる。
  • 細胞に遺伝子導入することによって分泌効果を高めることがたとえ出来ても、その臨床応用には問題があろう。臨床応用が安全と確認されている方法をもっと利用すべきである。
  • 本研究リーダーは小テーマごとの成果ならびに研究進捗状況について再検討する必要性があるように思われる。
  • ES細胞から誘導されたβ細胞による治療効果ならびに安全性の評価系を動物モデルで確立することが必要ではないか。
産業化を目的とした技術基盤の開発−新規血管構成細胞分化誘導因子を用いた血管再生療法の開発
  • 血管関連の基礎的な研究と臨床各科でのより臨床的な研究の両方がブレンドされていて、しかも十分な成果が上がっている。
  • ES細胞を分化させて様々な組織細胞になる際に発現する分化遺伝子群を網羅的に探索し、これをデータベース化して産業化するテーマは大変期待が大きい。
  • データベース構築の設計そのものは本事業の目的から期待できるがデータ自身は広く大学や研究所をネットワーク化して集積することを進める必要がある。

3*成果移転に向けた活動状況及び今後の見通し
 世界最先端の研究にアクセスいているにもかかわらず、フェーズ・の段階で特許出願予定件数はあるものの、実際に出願実績が無いという事態は大きな問題である。成果の権利化と臨床応用に向けた緻密な計画と準備・調整等に対する意識が希薄であるといわざるを得ない。
 各種の企業との連携や周辺への企業集積が始まっていることから、新技術エージェントを中心に成果の権利化を積極的に進める体制強化が急務である。また、医療技術に関する特許などについては、その特性を考慮した出願体制が必要である。
 各種企業との連携については、その選択方法、活用方法、活動手法において、成果移転に向け、大局的な観点からの企業活用を期待する。

4*都道府県等の支援状況及び今後の見通し
 震災後の神戸復興のリズムに合わせた神戸医療産業都市構想により、恵まれた研究開発拠点が構築され、市の熱意あふれる支援体制がとられていること、また将来展望も明確であることは評価できる。
 本事業は神戸市のみならず、全国への波及あるいは世界レベルへの挑戦とのなりうるので、市としてもその意義を十分に自覚し、研究内容や成果全体への目配りと調整が期待されるとともに、他の事業との役割分担等の調整について市が指導力を発揮していくことを期待する。

◆(参考1)事業の目標・概要

◆(参考2)フェーズI における学術的、技術的、対外的活動実績

◆(参考3)フェーズI における研究項目と実施体制

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This page updated on March 18, 2003

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