福井県の地域産業では、新合繊等の高機能性付与染色加工技術、チタン・超弾性合金等の難加工性材料加工技術・機能性表面加工技術、超高速・高精度の工作機械製造技術等に代表される素材・材料を高機能化する技術が基盤技術となっている。そして、機能性加工に関する技術のイノベーションが本県産業の優位性と独自性を保持する原動力であり、かつまた、他の地域に対して比較優位を保ちながら我が国の科学技術の発展に貢献していくことのできる分野である。
そこで、地域内の福井大学、福井工業高等専門学校をはじめ、地域外の大学・国設研究機関、研究開発型企業等の研究ポテンシャルを結集して、地域産業への技術移転、とりわけ材料の超微細加工への展開を視野に入れ、産業面で利用、小型化が非常に期待されているYb:YAG超短パルスレーザの開発に取り組むとともに、これを用いたレーザ加工・材料創成システム技術、超微細加工技術、原子レベルでの新表面・薄膜形成技術の開発研究を行うこととし、研究課題「光ビームによる機能性材料創成技術開発」を設定した。
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1)地域COEの構築
本事業の実施を契機として、福井県の産学官において、ネットワーク型地域COEの必要性、有効性についての認識が深まり、その早い形成を図るべきであるという意見が形成された。すなわち、本事業終了後にCOE機能の形成を目指すのではなく、本事業によって創出される研究成果を活用して、これを産業界が次々と製品化にまで繋げることの出来る実用化研究を中心としたCOE機能の形成を、本事業の実施と並行して図るべきであるというものである。
そのため、県としてはいち早いネットワーク型地域COEの形成を目指して、平成14年度より準備、検討を開始した。具体的には、
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福井県科学技術振興会議のワーキング部会として、どのような研究分野でどのような機能を有するCOEを形成すべきかを検討するネットワーク型地域COE研究会の設置し、さらに外部調査機関に調査を委託したこと |
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今年度内には、その調査検討結果を明らかにし、それを踏まえた具体的なCOE機能形成をめざす計画であること |
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地域結集型共同研究などの高度な研究から創出される優れた研究シーズを活用し、実用化につながる技術開発を産学官で行う場合の強力な支援機能を、ネットワーク型地域COE構築の場となる福井県工業技術センター実証化センター内に整備すること |
などである。
また、ネットワーク型地域COEを維持・発展させるためには、人材育成が重要である。そのために、超短パルスレーザ関連講座を大学、公設試や産業支援センター等が共同して実施することとし、平成15年度より試行実施する。
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2)新技術・新産業の創出
(1) 高輝度Yb:YAG固体レーザ技術に関する研究
従来の代表的な固体レーザであるNd:YAGレーザに対して高効率、高出力で広い波長可変スペクトル幅を有し、フェムト秒超短パルス発生の可能なYb:YAGレーザの小型で高密度励起による超短パルス発振器及び増幅器の設計法を確立し、高出力、高速繰り返しの超短パルス発振システムを実現する。
Yb:YAGレーザは、LDによる直接励起が可能なため、高効率なレーザ動作が実現でき、さらに小型で全固体のシステムであるため、安定度も高く、取り扱いも容易で長寿命なシステムが実現できる。ここでの成果を(2) および(3) の研究へ展開する。
(2) 高輝度光ビーム加工技術に関する研究
短パルス固体レーザを搭載した多機能フォトンマシニングセンタを開発する。本研究では、まず既存のナノ秒パルスレーザによる多機能加工を可能とするフォトンマシニングセンタを試作する。次に、ナノ秒パルスYb:YAGレーザさらには超短パルスYb:YAGレーザを搭載した多機能フォトンマシニングセンタを開発して、基本波と紫外域の波長でビーム径10μm、加工精度1μm以下の超微細加工特性を実現する。
また、レーザアブレーション機構と最適加工条件を解明する。現状のナノ秒以上のパルスレーザによる加工法に比べ、フェムト秒域の超短パルスレーザによるアブレーション加工では加工精度の向上が可能であるが、アブレーション現象の詳細な解明と最適な加工条件が十分には解明されていない。本研究ではレーザアブレーション現象のその場観察システムを開発し、高感度・超高速特性を実現する。さらに、レーザアブレーション加工現象の可視化によるシミュレータを開発して、各種材料の最適な加工条件を実現する。
(3) 高輝度光ビームによる薄膜形成技術に関する研究
高出力パルスレーザを用いた超鏡面精密洗浄技術の開発と機能性薄膜の創成を行う。レーザ光洗浄装置を試作して、単結晶シリコン表面の異方面の表面配向性向上と高密度薄膜磁性媒体製膜法の探索を行い、その成果に基づいてシリコン超鏡面基板を作製し、さらに、超高密度記録媒体を作製する条件を確立する。また、この装置を利用してレーザ光による各種の硬質薄膜の剥離と装飾のための表面加工技術を確立する。
高出力パルスレーザを用いて長寿命HIDランプを創成する。本研究では、無電極HIDランプの放電管寿命を極度に短くしているエッチングやハロゲン化金属との反応機構を詳細に解明するとともに、レーザ光照射法と放電スパッタ法を併用した円筒状・球状等の石英容器壁への表面改質・薄膜付与装置を開発し、40,000時間を越す長寿命の放電管を実現する技術を確立する。
レーザ誘起光化学反応を用いて選択薄膜成長技術を開発する。本研究は、レーザ誘起光化学反応を用いた選択薄膜成長技術を確立し、これと光描画技術とを融合することによって、任意の場所に任意の構造のデバイスを選択的に形成しようとするものである。
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