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地域結集型共同研究事業

平成12年度事業開始地域中間評価報告書



平成15年3月
科学技術振興事業団地域振興事業評価委員会

4. 地域別評価
4−1 秋田県
課題名 次世代磁気記録技術と脳医療応用技術開発
事業総括: 中西 大和 (TDK(株)取締役常務執行役)
研究統括 大内 一弘 (秋田県高度技術研究所 所長)
新技術エージェント 板持 幹男 ((財)あきた産業振興機構)
中核機関 (財)あきた産業振興機構
1*事業進捗状況及び今後の見通し
 地域COEの構築状況については、高度技術研究所と脳血管研究センターという日本でも有数の公設試験研究機関を軸に、県内外の研究機関のポテンシャルも活用しながら事業を推進しており、核となる研究機関の育成とネットワークの構築が図られつつあるものと評価できる。
 また、秋田県としては、本プロジェクトによる支援期間終了後に向け、産学官連携を推進する中核的機能を担う機関として「産業技術振興センター(仮称)」の組織化を目指しており、研究ポテンシャルの向上はもちろんのこと、産学官連携、技術移転などの仕組みづくりについても取組を進めているところである。
 今後は、要素研究の実用化、製品化に向けた応用研究、実用化研究を推進するための体制づくりに注力するとともに、これまでの成果を踏まえて、今一度、秋田県として、次世代磁気記録技術と脳医療応用技術の開発を行うことによって、どのような社会を目指そうとしているかのビジョンを具体化することにより、一層、目的意識のはっきりした事業の推進がなされることを期待したい。

2*研究開発進捗状況及び今後の見通し
(総論)
 次世代磁気記録技術と脳医療応用技術という異なる分野の研究開発をテーマとすることから、研究統括のより強力なリーダーシップが要求されるプロジェクトであるが、要素研究の推進という観点からは68人の研究スタッフを良くマネジメントしているものと評価できる。
 研究の進捗状況についても次世代磁気記録技術についてはほぼ計画どおり、脳医療応用技術については動物用MRI実験施設の整備が遅れたにもかかわらず、相当の進捗状況にあり、総じてほぼ順調な進み具合にあるものと評価できる。
 しかし、大テーマ2の大容量映像情報記録システムの開発については、研究の具体的な目標が曖昧なまま進められており、研究の意義に乏しいものと判断せざるを得ない。
 フェーズ2に向けた研究開発の方針としては、次世代磁気記録技術の開発については、垂直磁気記録方式による超高密度ハードディスクの製品化に向けて必要な研究にテーマを絞り込む必要がある。また、脳医療応用技術については、脳血管研究センターの臨床面でのポテンシャルをフルに活用し、脳機能情報についての真のニーズを十分に把握した上で、今、必要とされている多機能MRIの具体的な仕様、目標値を明確にし、これに必要な研究テーマへの絞り込みを期待したい。
 また、要素研究の成果を地場産業へ技術移転し、新技術、新産業の創出を図る観点からは、早急に企業の具体的なニーズを把握し、これを応用研究としてフィードバックしていく取組を加速させる必要がある。

(サブテーマごとの留意事項)
サブテーマ名 留 意 事 項
1 テラバイト級大容量情報磁気記録技術の開発
  • ほぼ100%に近い進捗状況であり、高度技術研究所は基礎研究のポテンシャルとして非常に高いものがあると評価できる。
  • メディア開発は、200Gbit/inch2の垂直記録を実現する媒体をほぼ実証しており、専門度も高く内容の新規性も優位性もあり、手法的に適正であると判断される。
  • 媒体ノイズの低減については材料、作製プロセス、ノイズ評価法まで含めて、更に力を入れていくことが望まれる。
  • 今後、実用化、製品化に向けて、HDD装置化の検討、垂直HDDPrototype化の研究を進めるため、さらに企業の開発能力を活用していく必要がある。
  • また、製品化を図る企業との役割分担を明確にし、地域の学・官が担うに相応しい研究テーマに絞り込むことが必要である。
2 大容量映像情報記録システムの開発
  • 多機能MRIにより得られる情報の質、量の目標値が明確でないため、本研究テーマにおいて具体的な研究対象が明らかになっていないように思われる。
  • DICOM形式である医療画像の転送実験を行うのであればまだしも、動画情報であるNTSやJPEG形式の情報転送実験を行うことに、積極的な研究の意義を見いだすことは困難である。
  • 本テーマの研究グループは、大容量情報記録技術の研究分野において、高度技術研究所とともに世界的な業績を挙げているので、次世代磁気記録技術にテーマを絞って、テーマ1のグループと緊密な研究協力体制を敷くべきである。
  • よって、本テーマはテーマ1,3がある程度達成されるまでの間、中断すべきである。
3 多重脳機能情報の検出と画像解析技術の研究
  • 実験用MRI装置やキセノン高偏極装置がない時点から,多くを独自に開発して2年間で現状まで到達したことは充分な進展状況にあるものと評価できる。
  • 特に、偏極システムを完成し高偏極率を達成するとともに、すでにその成果を発表している点は、まだ論文化されていないものの、国際レベルの業績であると評価できる。
  • しかし、そもそも、脳医療情報としてどのような機能、あるいはどれだけ高精細な画像が必要とされているのかという、研究の目標値が明確でないため、各研究テーマの目標(値)に具体的な説得力がない。
  • したがって、脳血管研究センターの臨床部門による一層の組織的バックアップにより、臨床サイドからのニーズの把握やアドバイス、解析システムの評価に対する協力体制が必要である。
  • 現在の医療状況(医療法)ではすべての画像を蓄えておく必要はない。そういった観点からも,臨床サイドから十分情報を聴取し,ニーズに合った画像情報の処理,保存の手法を検討する必要がある。
  • また、共同研究の実績を再検討し、必要な部分以外は脳血管研究センターに研究資源を集中化した方が今後の成果につながるものと思われる。

3*成果移転に向けた活動状況及び今後の見通し
 次世代磁気記録技術については、超高密度垂直磁気記録HDDの事業化、製品化に向けたグランドデザインが描けていない。今後は、特許戦略も含めた具体的なビジネスモデルの構築を図るとともに、新技術エージェント及び事業化を担う企業のイニシアティブにより、各研究機関、企業の役割分担を明確にした上で、事業化に必要な生産技術も含めた開発研究、マーケティング等に尽力されることを期待する。
 脳医療情報技術については、いまだ基礎研究の段階である。また、医療現場のニーズ把握が最初の段階で十分とは言い難かったと思われ、成果の移転についても、移転価値のある現実的な成果の獲得にはかなりの努力が必要と思われる。
 地場産業への技術移転については、研究会を組織していることは評価できるが、研究サイドから出てきた成果を企業に提案する取組に終始しているように思われる。今後は、新技術エージェントの強力なイニシアティブの下、企業の真のニーズを把握し、そのニーズの実現のために必要な応用研究を研究者に提案(指示)していく取組が期待される。
 ある程度の特許出願がなされていることは評価できるが、事業化の観点からすると、国際特許出願がないことは問題である。早急な検討が必要である。

4*都道府県等の支援状況及び今後の見通し
 高度技術研究所、脳血管研究センターは、いずれも県立の試験研究機関としては日本でも有数の技術ポテンシャルを有しており、これらの機関を長年にわたり育ててきた県の実績は優れて評価できるものである。
 しかし、本事業に関する限り、県がいかなるシナリオで研究成果を地域の振興につなげようとしているかといったビジョン・意欲が感じられない。
 今後は、県の強力な指導の下に今一度、本事業の目的、研究手法、技術移転方策などについて議論し、地域としてのプロジェクトを再構築されるよう期待したい。

◆(参考1)事業の目標・概要

◆(参考2)フェーズI における学術的、技術的、対外的活動実績

◆(参考3)フェーズI における研究項目と実施体制

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