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資料4

開発課題名「量子センシング方式を用いたポータブルNMR装置の開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成27年12月〜平成31年3月

チームリーダー :  渡邊 幸志【産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門 主任研究員】
サブリーダー :  櫻井 竜也【昭和オプトロニクス株式会社 第二技術部 エキスパート】
中核機関 :  産業技術総合研究所
参画機関 :  昭和オプトロニクス株式会社、慶應義塾大学
T.開発の概要
 量子センシングという新しい技術であるダイヤモンド量子磁気センサーをコア技術とし、従来技術の延長線上では実現できない感度と分解能を持つ、新原理に基づくポータブルなNMR装置の開発を目指す。これにより、わずかな分子数でも検知可能なNMR装置を実現する。本開発により、将来的には1分子レベルでのNMR計測が見通せるようになり、ライフサイエンスにおける微量試料を対象とした分析装置の開発などに貢献する。また、材料開発など様々な分野にも適用可能であり、超高感度分析装置の突破口となる技術にすることを目的とする。
U.開発項目
(1)ダイヤモンド量子磁気センサーチップ
 窒素-空孔(NV)センターの面密度を105 /cm2レベルに低減させた層厚5 nmの量子磁気センサーチップを作成し、NMR測定に必要なT2緩和時間を有していることを確認した。
(2)光学系:光による電子スピン情報の初期化と読み出し
 20 cm×20 cm×10 cmの本体内に倒立型の共焦点光学系を構築し、NVセンターから光学系の回折限界に対応した光学分解能を有するフォトルミネッセンス発光を確認した。
(3)マイクロ波系:マイクロ波による電子スピンの制御
 0.65 GHz〜20 GHzのマイクロ波源を本体内に組み込み、17 Vpp〜45 Vppのマイクロ波パワーを達成した。
(4)NMR信号検出ソフトウェア
 NMRプロトコルの改良により、T2緩和時間として目標を上回る729 μsが得られた。また超高分解能を実現するプロトコルの検証を光学テーブル上の測定系で行い、高い周波数分解能を確認した。
(5)プロトタイプ装置開発
 企業の製品化ニーズとなる小型化装置のための課題を抽出、検討した。また、装置の性能については、ポータブル型と同等の性能を持つデスクトップ型NMR装置を用いて、プロトンからの信号を確認するに留まった。
V.評 価
 本課題は、今後の研究開発の進展が期待されるダイヤモンド量子センシング方式を用いたポータブルNMR装置の実現を目指すものである。光学系やマイクロ波系の開発を進め、所定サイズの装置で、チームが別途開発しているデスクトップ型と同等の基本性能を確認したことは評価できる。加えて、単なる要素技術開発にとどまらず将来の製品化を強く意識し、「プロトタイプ装置」にした際の小型化の課題まで具体的に検討している。一方で、小型化技術の開発に時間がかかったことから、NMR装置としての性能確認は、デスクトップ型装置からのプロトン信号の検出に留まり、本装置が実用的なNMR装置となるために重要な高分解能化の道筋についても、より詳細な検討が必要である。
 今後は、ポータブルNMR装置での高感度検出や高分解能化などの性能向上を目指すとともに、量子センシング方式の特徴を生かした競争力のある実用的な用途に向けて、引き続き開発を推進することを期待する。[B]