資料4

開発課題名「半導体検出器を用いた環境測定用ガンマカメラの実用化開発」

放射線計測領域 実用化タイプ(短期開発型)

開発実施期間 平成24年4月〜平成25年3月

チームリーダー :  茂呂 栄治【日立コンシューマーエレクトロニクス(株) 生活インフラ事業推進本部 放射線検知応用システム部 部長】
中核機関 :  日立コンシューマエレクトロニクス(株)
参画機関 :  名古屋大学、東京大学、(株)日立製作所
T.開発の概要
 放射性元素による表面汚染密度をモニタリングする既開発のガンマ線カメラを多くの用途に使用できるようにするため、ガンマ線検出器となるCdTe検出器を2段化し、ピンホールコリメータを改良することで、カメラの高感度化を図るとともに、可搬性を考慮して開発する。本成果の実用化により、例えば1μSv/hの環境下で5μSv/hの表面線量をもたらすホットスポットを5mの距離から約5分で検出可能となり、家屋などにおける除染効果の迅速な確認・把握に用いることができる。
U.開発項目
(1)フェーズ1製品開発
 平成24年5〜6月に、既開発のガンマカメラを使って福島県の各自治体(除染担当者他)へのデモを実施し、実用性向上のための要望をヒアリングした。この結果、従来のガンマカメラでは、除染対象地域における環境放射線の分布の可視化に時間がかかることや、カメラ本体の大きさ(容積)・重量が現場での取り回しに不便であることなど事前に想定していた内容も含めて実用性を高めるための項目(要望)を明確にし、開発フェーズ1/フェーズ2で開発を実施した。
 製品開発では、平成24年8月末、計画通り完了し、装置小型化の目標仕様を満足した。基板枚数低減(4枚→1枚化)と筐体の再設計を行い、既開発品(容積27.8L)に対して、36%減(容積17.6L)となった。さらにソフトウェアの改良により、測定終了の自動化とGPS情報の取得付加に対応できた。
(2)フェーズ2製品開発
 本開発の実機を用いた平成25年2月〜3月のフィールド検証として、高感度化の目標である空間線量率約1μSv/hにおいて、汚染土壌を袋詰めして作製したホットスポット(線量率約5μSv/h)を測定対象物として実測検証を行った。
 検出素子を複層化した放射線検知モジュールを開発し、前記フェーズ1の筐体に収まるようなコンパクトサイズで設計した。放射線検知モジュールの構成要素となるキーデバイス(信号処理ASIC、信号処理FPGA回路)の高感度化に対応した改良版を新規開発した。
(3)ピンホールコリメータの構造の最適化とアクティブコリメータの検討
 ピンホールコリメータの構造の最適化検証を実施し、製品採用中のコリメータ径(6mm)が適切な範囲内にあることを確認した。検出感度を高めることを狙いとして、ピンホール型のコリメータに対して、検出器に入射する有効なガンマ線を増大させるような形状と機能を求めるために、電子・光子モンテカルロ計算コードEGS5を用いて種々の条件において計算を行った。画像のぼけに関しては、コリメータ径6mm以上から劣化が大きくなることが分かったが、逆に検出効率については、コリメータ径を10mm程度まで増加させることで、大きく向上する結果を得た。コリメータでの散乱については、コリメータ部をシンチレータとすることで、逆同時計数により、散乱を抑制することが考えられる。コリメータ径を小さくした場合の影響について評価を行い、散乱成分を除去することで画質の改善が可能であるが、コリメータ径を大きくとった場合には散乱成分の影響は小さく問題にならないことが示された。
(4)装置の持つ定量特性の明確化
 ピンホールガンマカメラ実機の簡略化モデルと、撮影対象線源の形状及び配置を検討し、模擬モデルを構築し、シミュレーション計算に、電子ガンマシャワー計算コード(EGS5)を用い、一層&二層方式の検出器CdTeアレイのモデル化およびピンホールコリメータのモデル化を実施した。前記シミュレーション計算結果について、標準γ線源を用いた基礎実験との比較を行い、各ピクセルに対する相対検出感度の良好な一致を確認した。
 種々の外部線源の配置パターンに対し、検出器相対感度のばらつきは最大〜10%程度 ディスク状線源と検出器面のなす角に起因する強度評価における不確かさは〜3%以内、線源後方の散乱体により+35%計数が増加することなどの有益な知見が得られた。1μSv/hの環境下で、10m先の5μSv/hrホットスポットを見出す時間を見積りし、実機でのフィールド試験結果と概ね整合性あることを確認した。
(5)現地での検証
 中核機関が提携している(株)菊池製作所(本社:八王子市、工場:福島県飯館村他)が環境省福島環境再生事務所から『平成24年度ガンマカメラを活用した除染事業実施効果検証等事業』(平成24年11月〜平成25年3月)を受託しており、この中で、開発機を用い、多数の自治体での実測と住民へのリスクコミュニケーションに活用した。
V.評 価
 広範囲な環境放射線の分布を短時間に可視化してモニタリングでき、かつ可搬型のガンマカメラを試作・製品化することができた。短期間で現地に持ち込んで有用性を実証するという要請に対応し、期間内に実証機を現地で活用した点は高く評価できる。ただし、製品化を考えた場合、現状の半導体検出器については十分な検討が必要である。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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