資料4

開発課題名「ナノプローブ形成用電界電離型ガスイオン源の開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  畑 浩一【三重大学 大学院工学研究科 教授】
中核機関 :  三重大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 Ga液体金属イオン源(Ga-LMIS)を搭載した現行の集束イオンビーム装置では、試料観察・加工時に照射Gaイオンによる試料汚染が深刻な問題となっている。またGaイオンのエネルギー拡がりに起因する色収差が、集束特性悪化の原因になっている。本課題では、Ga-LMISに替わる高輝度イオン源として電界電離型ガスイオン源を開発し、不活性な重希ガスイオン(Ne,Ar)の高輝度ビーム形成を実証すると共に、実用化に向けたビーム電流の安定度の向上およびエミッターの長寿命化を目指す。
U.開発項目
(1)TOF(飛行時間法)によるイオン種・価数の評価およびエネルギー分布測定
 リフレクトロンによりTOF測定を行った結果、最大電流量が得られる印加電圧条件下では、Ne、Arイオンビームともに1価イオンのみの放出であることを明らかにした。よって、ガス集束イオンビーム装置への搭載時にはイオンビームの価数分離は不要であり集束特性に影響を及ぼさない。高分解能測定を目的に加速電圧を1.9 kV以下に低減させたが、十分なイオン電流を検出できず測定分解能は設計分解能には達していない。本課題で開発したNeイオンエミッターからのイオンビームのエネルギー幅は,既存のGaイオンビーム(>5 eV)よりも狭いと考えられる。
(2)希ガスイオンビームの安定度・エミッター寿命評価
 約8時間のNeイオン電流の平均値と変動率を測定した結果、時間の経過とともに電流値は減少し、変動率は上昇した。この電流値の減少は,先端のトライマー以外に吸着した原料Neガスの吸着によって生成されたエミッションサイトが原因である事をFIM(電界イオン顕微鏡)により確認している。開発したエミッターの電流変動率は、約8時間の動作後においても14%/30 min以下に抑えられた。
(3)希ガスイオンビームの輝度・集束特性・加工特性の評価
 電界電離Neビームの輝度を測定した結果、8×10-3 Pa,38 Kの条件下で1.9×106 A/cm2srであった。この値は、現時点でGaイオンビーム(〜106 A/cm2sr)と同等以上である。希ガス集束イオンビーム装置で微細加工性能を評価した結果、Neイオンビームでの最小スポット加工径70 nmを達成した。
V.評 価
 本開発は、イオン種としてNeやArなどの不活性な重希ガスを用い、イオンビームを長時間安定に放出可能な電界電離型ガスイオン源を開発することを目標としている。電界誘起酸素エッチング法により目標とするエミッターの作製には成功したが、これを用いたイオン源の性能は、Ne+イオンビームのエネルギー幅:5.17 eV(目標値:1 eV以下)、電流安定度:14%(目標値:5%以下)、輝度:1.9x106 A/cm2sr(目標値:1x108 A/cm2sr以上)、そしてビーム径:70 nm(目標値:5 nm)であり、目標値を達成したとは言えない。今後、すでに取り組んでいるイオン輸送光学系の改良など、開発を継続し、当初の目標が達成されることを期待したい。本開発は、本事業の趣旨に相応しい成果が得られなかったと評価する[B]。


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