研究総括からのご挨拶

小長井 誠 研究総括
文部科学省
革新的エネルギー研究開発拠点形成事業
研究総括
小長井 誠
(東京都市大学総合研究所 教授)

 2014年における世界の太陽光発電市場は40GW(4,000万kW)を超えたと推定されています。その一方で、かつては世界の太陽電池生産量の50%を占めていたわが国のシェアは、15%程度まで低下してしまいました。これは、おもに海外企業による安価な太陽電池による攻勢のためです。これらの海外勢力と戦っていくには、ターンキー装置では、すぐには真似できない高効率で信頼性の高い革新的太陽電池を開発するしかありません。現在、太陽電池材料としては、SiをはじめとしてCu(InGa)Se2系、CdTe系、III-V族化合物半導体系、有機系太陽電池、ペロブスカイト系太陽電池が開発されていますが、2030年以降、年間1,000GW レベルの太陽電池の製造が必要であることを考えると、将来的にも、資源的に全く問題のないシリコンが太陽電池材料の主流であることに間違いありません。

 一方、Siは禁制帯幅が1.1eV の半導体であり、太陽エネルギー変換という観点で理論的に最も優れている禁制帯幅1.5eVとはかけ離れています。現在、Si太陽電池のエネルギー変換効率は25%程度で、理論限界と言われている28~29%に近付いています。本研究構想では、禁制帯幅という物性的制限を打破し、飛躍的にシリコン太陽電池の変換効率を向上させるため、"ナノワイヤーを用いたシリコンの禁制帯幅制御"という独創技術に挑むとともに、"ナノワイヤーシリコン太陽電池とヘテロ接合シリコン太陽電池のタンデム化による超高効率化"という、極めて挑戦的な課題に取り組みます。これにより、これまでの常識を打ち破る、エネルギー変換効率30%のシリコン太陽電池の実現を目指します。

 本事業は、「福島復興再生基本方針」に基づき、再生可能エネルギーに関わる開かれた世界最先端の研究開発拠点を福島県に整備することを目的に実施されるものであります。本事業は、チームメンバーが所属する各研究機関において2012年から開始されましたが、2014年4月からは福島県郡山市に建設された産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)に国の内外から多くの優秀な研究者が集結し、チームが一丸となってナノワイヤー太陽電池の実現を目指した独創的、挑戦的研究が実施されています。これまでに、すでにSiO2/Si超格子構造による禁制帯幅制御や、厚さ1.5nmのSiナノウォールの形成に成功するなど、初期的データではありますが世界的な成果が生まれつつあります。ここから生まれる研究成果は、福島から広く世界に情報発信し、福島が超高効率を目指すシリコン太陽電池研究ネットワークのハブになるとともに、名実ともに本拠点がシリコン太陽電池研究の世界トップ拠点となるよう、拠点形成事業関係者が一丸となって最大限の努力をして参ります。