科学技術振興事業団報 第278号
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自然免疫を制御するToll様受容体を介した
細胞内シグナル伝達経路の解明

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「自然免疫システムの分子機構の解明」(研究代表:審良静男 大阪大学微生物病研究所・教授)で進めている研究により、自然免疫系における細胞内シグナル伝達経路で、TIRAPと呼ばれる分子が、Toll様受容体(TLR)ファミリーのなかでTLR2とTLR4による自然免疫系の活性化を制御することが明らかにされた。本成果は、大阪大学微生物病研究所教授、審良静男らの研究グループによって得られたもので、平成14年11月21日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 免疫系は、病原体(細菌やウィルスなど)の侵入を察知し排除する生体防御システムで、ヒトでは基本的に生物が持つ異物や病原体に対する防御システムである非特異的な「自然免疫系」と後天的に外界との関係で獲得していく特異的、多様的な「獲得免疫系」から成り立っている。Tリンパ球が主役を務める獲得免疫系が抗原を自己ではないものとして認識する機構は、詳細に解析されてきた。しかし、近年、自然免疫系も、10種をこえるメンバーが存在するToll様受容体(TLR)ファミリーが病原体に特有の構成成分を特異的に認識し、活性化されることが明らかになってきた。Toll様受容体(TLR)ファミリーを介した細胞内シグナル伝達経路では、MyD88と呼ばれるアダプター分子が、すべてのTLRを介した炎症性サイトカインの産生に必須であることが明らかになっている。しかし、各TLRは、異なる病原体の構成成分を認識し、それぞれ微妙に異なった免疫応答を誘導する。そのため、MyD88だけではToll様受容体(TLR)ファミリーを介した細胞内シグナル伝達経路を説明できなかった。
 今回、審良グループは、MyD88と似た構造を有する分子TIRAPの生理機能を、ノックアウトマウスを作製することにより明らかにした。TIRAPノックアウトマウスは、TLR4が認識する病原体構成成分(リポ多糖)とTLR2が認識する成分(ペプチドグリカンやリポタンパク質)に対する応答性が欠如しているが、他のTLRファミリーが認識する病原体構成成分に対する応答性は正常であることを見出した。このことは、TLRを介した細胞内シグナル伝達経路では、共通のアダプターMyD88に加えて、各TLRに特異的に働く分子が存在し、それらがTLRごとに特異的な免疫応答を演出することを示唆している。
 自然免疫系の活性化は、獲得免疫系の活性化を誘導することも明らかになってきており、自然免疫系の制御機構の解明は感染症だけでなく癌やアレルギーなど種々の疾患への治療応用にもつながることが大いに期待されている。今回の成果は、自然免疫系の細胞内シグナル伝達経路の解明の大きな糸口となり、自然免疫系の制御機構の解明に役立つことが期待される。
 また、おもにグラム陰性菌やグラム陽性菌による重症感染症に陥った患者で見受けられるエンドトキシンショックは、感染症の治療の中で大きな問題となっている。TLR4はグラム陰性菌の主要構成成分であるリポ多糖、TLR2はグラム陽性菌の主要構成成分であるペプチドグリカンを認識することから、TLR4, TLR2を介したシグナルに必須の役割を果たすTIRAPの活性を制御することにより、エンドトキシンショックに対する有効な対策の考案が期待される。


<語句説明>
TLR(Toll様受容体):Toll(ショウジョウバエで真菌感染に対する生体防御に必須の受容体)の哺乳動物のホモログで、現在TLR1-TLR10までの10種のファミリー分子が報告されている。それぞれのTLRが、病原体の構成成分を特異的に認識することが明らかになってきている。例えばTLR4はグラム陰性菌に特異的に存在するリポ多糖、TLR2はリポタンパク質を認識する。

炎症性サイトカインの産生:免疫系、特に自然免疫系は病原体の生体内への侵入があった際、炎症反応を起こすことにより病原体を排除させるが、その炎症反応の本体が炎症性サイトカインの産生である。病原体の侵入をTLRファミリーが察知し、MyD88を介した細胞内シグナルの活性化の結果、産生された炎症性サイトカインにより、発熱などの炎症反応が惹起される。

病原体の構成成分:病原体に特有でヒトには存在しない構造成分で、グラム陰性菌のリポ多糖、微生物DNA (CpG DNA)、リポタンパク質、ウィルス由来の二本鎖RNAなどがその例である。各病原体の構成成分は、TLRにより特異的に認識され、自然免疫系の活性化を誘導する。

MyD88:細胞内に存在する分子で、TLRファミリーの細胞内領域と相同性の高いTIRドメインを有する。MyD88欠損マウスは、TLRが認識する全ての病原体の構成成分に対する炎症性サイトカインの産生が認められない。

エンドトキシンショック:グラム陰性菌やグラム陽性菌による重症感染症で、時にみられる多臓器不全で、致死率が極めて高い。TLRファミリーが認識する病原体の構成成分により引き起こされることが明らかになっている。重症感染症だけでなく、これら感染症に対する、極めて有効な抗生剤投与が、病原体を短時間で殺菌し、病原体の構成成分が一気に血中に放出された結果引き起こされることもあり、感染症治療において臨床的に大きな問題となっている。

[補足説明]



本件に関する問い合わせ先

 審良 静男(あきら しずお)
 大阪大学微生物病研究所・癌抑制遺伝子研究部門
 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-1
 Tel: 06-6879-8303 Fax: 06-6879-8305  

甲田 彰(こうだ あきら)、高木 千尋(たかぎ ちひろ)
 科学技術振興事業団 研究推進部 研究第三課
 〒332-0012 川口市本町4−1−8
 Tel:048‐226‐5636 Fax:048‐226‐1164


This page updated on November 21, 2002

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