科学技術振興事業団報 第247号
平成14年8月22日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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薄片状酸化チタン(化粧品等の紫外線遮蔽材)の開発に成功

(科学技術振興事業団 委託開発事業)

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)は、独立行政法人 物質・材料研究機構 物質研究所長 渡辺 遵氏、主席研究員 佐々木 高義氏らの研究成果である「微細薄片状酸化チタンの製造技術」を当事業団の委託開発事業の課題として、平成11年3月から平成14年3月にかけて石原産業株式会社(代表取締役社長 溝井 正彦、本社 大阪市西区江戸堀1丁目3番15号、資本金420億円、電話:06-6444-1451)に委託して開発を進めていた(開発費約2億円)が、このほど本開発を成功と認定した。

(開発の背景)
 酸化チタン(TiO2)は、各種の塗料用の顔料や化粧品用紫外線遮蔽材、電子部品用誘電体原材料などに幅広く使用されている。現在実用化されている酸化チタンの形状はほとんどが粒子状のものであるが、薄片状の酸化チタンの製造が可能になれば少量の酸化チタンで物質表面を被覆し、紫外線を効果的に遮蔽することが期待できるため、より薄く、使用するときに良く延び広がる薄片状酸化チタンが求められている。
(開発の内容)
 本新技術は、シート状のチタン酸が幾重にも積層した状態の層状チタン酸結晶を合成し、これをアミン系化合物水溶液中で攪拌して各層を剥離・分散させ、噴霧乾燥・焼成することにより中空状の酸化チタンとし、これを粉砕することにより微細な薄片状酸化チタンを製造するものである。
(開発の効果)
 本新技術による薄片状酸化チタンは、表面を薄くカバーする展延性や密着性が良いため、化粧品、塗料などへの利用が期待される。また、薄片状に粉砕する前の中空状酸化チタン微粒子も、肌に対する展延性に優れるなどの特徴を持つため、化粧品などへの利用が期待される。
 本新技術の背景、内容、効果はつぎの通りである。

(開発の背景)
紫外線を効果的に遮蔽する薄片状の酸化チタンが望まれている

 酸化チタン(TiO2)は、物理的、化学的に安定で、下地の色を隠す隠蔽力や着色性が良く、紫外線遮蔽効果があるなどの特性をもつため、塗料、プラスチック用など各種の顔料や化粧品用紫外線遮蔽材、電子部品用誘電体原材料などとして幅広く使用されている。また、最近では、酸化チタンの光触媒作用を利用して、脱臭材料、抗菌材料、防汚材料などへの展開も進んでいる。
 酸化チタンの製造法としては、硫酸チタンを加水分解して焼成する硫酸法や四塩化チタンを高温で酸化する塩素法などがある。これらの製造法により工業生産されている酸化チタンの形状はほとんどが粒子状のものである。
 化粧品分野などでは、従来の粒子状の酸化チタンは凝集性が高いため薄くむらのない塗布が難しいという問題があった。このため、展延性に優れた薄片状の酸化チタンが注目され、すでに実用化がなされている。しかし、この薄片状酸化チタンは、チタンアルコキシドを平滑面に塗布、乾燥後、機械的に剥がすというプロセスで製造されているため、薄片を薄くすることに限界があるなどの問題があった。薄片状の酸化チタンの厚みを薄くできれば少量の酸化チタンで物質表面を被覆でき、紫外線を効果的に遮蔽することが期待できるため、より薄く、展延性に優れた薄片状の酸化チタンの製品化が求められている。

(開発の内容)
チタン酸の層状結晶から中空状の酸化チタンや薄片状の酸化チタンを製造

 本新技術は、酸化チタンとアルカリ金属塩を混合して焼成、酸処理することにより、シート状のチタン酸が積層した層状結晶を合成し、これをアミン系化合物水溶液中で攪拌して各層を剥離・分散させ、噴霧乾燥・焼成することにより中空状の酸化チタンを作成し、これを粉砕することにより微細な薄片状酸化チタンを製造するものである。
 本新技術による薄片状酸化チタンの製造方法は以下の通りである。

(1) 層状チタン酸合成工程
 原料の酸化チタンとアルカリ金属塩を混合粉砕し、焼成する。これにより、層状のチタン酸アルカリ金属塩を得る。次に、チタン酸アルカリ金属塩を硫酸などの酸の中で攪拌処理し、アルカリ金属を水素と置換して除去する。
 これにより、縦横が1×1μm程度、厚さ0.75nmのシート状のチタン酸が500~1000枚積層した層状チタン酸の微結晶を得る。なお、この微結晶の縦横幅、厚さについては、焼成条件を制御することにより、所望の大きさのものが得られる。
(2) 剥離反応工程
 得られた層状チタン酸を、アミン系化合物の水溶液に加えて攪拌する。これにより、層状チタン酸の各層は一層ずつ剥離して、溶液中に分散し、ゾル溶液を形成する。(図1
(3) 噴霧乾燥工程
 チタン酸ゾル溶液を乾燥チャンバー内に噴霧し、熱風により乾燥する。これにより中空状のチタン酸微粒子が形成される。なお、この中空状のチタン酸微粒子の粒径、殻の厚さについては、噴霧乾燥条件を制御することにより、所望の大きさのものが得られる。(図2
(4) 焼成工程
 乾燥した嵩高い中空状チタン酸微粒子をその形状を保ったまま高温で焼成し、中空状酸化チタン微粒子を得る。(写真1
(5) 粉砕工程
 焼成工程を経て製造された酸化チタン中空状微粒子を粉砕し、薄片状の酸化チタンを得る。(写真2)


(開発の効果)
薄片状酸化チタンは、化粧品や塗料分野での利用などが期待

 本新技術には、次のような特徴がある。
(1) これまでにないナノメーターレベルの微細薄片状酸化チタンを製造できる。
(2) 薄片状酸化チタンは、展延性、密着性などに優れる。
(3) 殻が薄く、嵩比重が小さい中空状酸化チタン微粒子を製造できる。
(4) 中空状酸化チタン微粒子の粒径や殻の厚さを制御できる。

 そのため、薄片状酸化チタンは、化粧品や、塗料分野での利用が期待される。また、薄片状に粉砕する前の中空状酸化チタン微粒子についても、肌に対する展延性に優れるなどの特徴を持つため、化粧品などへの利用が期待され、更に、視認性、耐熱性に優れるなどの酸化チタン本来の特徴に加え、嵩比重が低く、流体追随性に優れるという特徴も持つため、流体計測システム用のトレーサーとしての利用も期待される。


・開発を終了した課題の評価
・図1層状チタン酸結晶剥離のイメージ図
・図2噴霧乾燥工程における中空形状形成のイメージ図
・写真1中空状酸化チタン微粒子の走査型電子顕微鏡写真
・写真2薄片状酸化チタン微粒子の走査型電子顕微鏡写真

(注)この発表についての問い合わせは以下の通りである。
科学技術振興事業団開発部 第二課 日江井純一郎、熊川二位
[電話03-5214-8995]
石原産業株式会社機能材料営業企画本部 営業統轄部付部長  奥田晴夫
[電話06-6444-5816,03-3230-8702]
 技術研究所 機能材料開発グループ グループリーダー  二又秀雄
[電話0593-45-6116]


This page updated on August 22, 2002

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