科学技術振興事業団報 第183号

平成13年10月15日
埼玉県川口市本町4−1−8
科 学 技 術 振 興 事 業 団
電話(048)-226-5606(総務部広報室)

有機と無機との融合:
ナノ領域における有機/無機複合体の創製と新規特性の確認」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「有機ナノ結晶の作製・物性評価と多元ナノ構造への展開」(研究代表者:中西八郎、東北大学多元物質科学研究所教授)で進めている研究において、有機化合物と金属をナノサイズ同士で接触させた場合、元の物質いずれとも異なる電子状態が発現する、すなわち有機化合物とも金属とも言えない新しい物質・材料系が誕生することを発見した。この研究成果は、東北大学多元物質科学研究所の中西教授らの研究グループによって得られたもので、平成13年10月15日付けの応用物理学会欧文誌 「Japanese Journal of Applied Physics」 に発表される。
 プラスチックスやゴムのような有機物質とガラスや金属のような無機物質を大きなサイズ(マイクロメータ以上)同士で混ぜ合わせた複合材料は、互いの特徴をそのまま生かした高強度材料や電子材料として活用されている。今回、中西教授らは、有機化合物及び金属が、いずれも、大きなサイズの場合とは異なる電子状態を示し始めるようなサイズ、すなわち数十ナノメータ以下で、直接接触した複合ナノ結晶を作製し、光吸収スペクトルを測定した結果、上記のような互いの特徴の足し算とは異なり、金属と有機化合物の電子が混成(ハイブリッド化)して新しい電子状態が発現すると言うユニークな現象が起こることをはじめて見出した。今話題のナノテクが、軽薄短小を極めることに加えて、新現象をもたらすことを示す一例と言える。様々な光材料の研究開発のみならず、光・電子、電子、磁気材料やそれらを用いるナノデバイスの研究開発にも影響が大きいと想定される。
 複合ナノ結晶の作製は、金属ナノ結晶の水分散液に、親水性有機溶媒に溶かした有機分子(ジアセチレン化合物)の希薄溶液を注入し、金属ナノ結晶を被覆する形で有機分子を析出させることにより行われた。この段階では、両者の電子状態のエネルギー差が大きいため、光吸収スペクトルは互いのそれらの足し算に過ぎなかったが、有機分子を重合させて共役高分子(ポリジアセチレン)に変え、両者のエネルギーを近づけた結果、吸収スペクトルは全く新しい形になり、両者の電子状態が混成した(ハイブリッド)ナノ結晶となることがはじめて明らかにされた。 
 中西教授らは、再沈法と呼ばれる簡便な有機ナノ結晶の作成法を創出(平成4年8月応用物理学会欧文誌に掲載)し、これまでに、実用の色素など様々な有機分子のナノ結晶を作製して、金属や半導体のそれらとは異なる、有機ナノ結晶に特有のサイズに依存した特性を明らかにしてきた。

補足説明

本件問い合わせ先:
(研究内容について)
    中西 八郎(なかにし はちろう)
    東北大学多元物質科学研究所 教授
    〒980-8577 仙台市青葉区片平2?1?1
    TEL: 022-217-5585 or 5643
    FAX: 022-217-5645 or 5596
(事業について)
    小原 英雄(おはら ひでお) 
    科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
          研究推進部 戦略研究課 課長
    〒332-0012 埼玉県川口市本町4?1?8
    TEL: 048-226-5635
    FAX: 048-226-1164

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