科学技術振興事業団
科学技術情報流通促進事業評価報告書


平成12年5月9日
総合評価委員会
第1部 事業団の機関評価にあたって
はじめに
科学技術振興事業団(以下「事業団」という)では「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月7日内閣総理大臣  決定)に基づき、事業団が運営する事業の全般にわたって評価を行い、事業団が実施している事業の内容とその科学技術振興上の意義を明らかにするとともに、事業団の運営に当たっての改善事項を抽出することを主眼とする評価(以下「機関評価」という)を行っている。(資料1参照
事業団は機関評価を実施するに当たり事業団の外部から選任される評価者からなる総合評価委員会(以下「委員会」という)に機関評価を依頼するものとされており、 熊谷信昭委員長(大阪大学名誉教授)及び13名の委員から構成される当委員会が設置された。(資料2及び資料3参照
事業団は多岐にわたる事業を実施していることから、機関評価については事業を「科学技術情報流通促進事業」、「技術移転推進事業」、「基礎的研究推進事業」、「研究交流促進・研究支援事業」、「科学技術理解増進事業」の5つに大別し、平成10年度から毎年度個々の事業についての評価を順次行うとともに、平成14年度にそれらの結果を総合した運営全般についての評価を行うとしており、平成11年度は科学技術情報流通促進事業を機関評価の対象と選定した。
委員会では当該事業を評価するため科学技術情報流通促進事業評価部会(以下「部会」という)を設けることとし、委員会委員である 神沼二真 国立医薬品食品衛生研究所 化学物質情報部長を部会長に指名した。部会は神沼部会長及び部会委員13名から構成され本事業の評価活動を行った。(資料4参照
委員会は平成11年5月6日に開催された第3回会合において部会を設置した。部会は先ず事業団の実施する個別事業についての評価を行うこととし平成11年7月16日から平成11年11月19日まで4回の審議を行い、評価の状況を委員会に対して中間的に報告した。(平成12年1月14日)
 委員会での意見等を踏まえ部会は更に2回の審議を行い評価報告書の取りまとめを行った。平成12年5月9日、委員会は部会における取りまとめをふまえ本報告書を作成した。(資料5参照
   
科学技術情報流通促進事業の機関評価を行うに当たっての委員会の基本的考え方
評価の実施に当たっては、事業団から機関評価の対象となる個々の事業及び運営全般に関する評価の視点についての提案があったので、委員会では同提案を審議し所要の修正を行った。これによれば委員会は事業団から評価対象事業についての説明を受けた後、(1)事業による成果は得られているか、(2)国民に十分な説明が出来ているか、(3)効率的・効果的に業務運営がなされているか、(4)業務運営システムに問題はないか、(5)時代(社会・経済)の要請の方向に沿っているか、(6)科学技術の発展の状況と整合しているか、更には、(1)事業の中でも特に重点化すべきものは何か、改善点は何か、(2)我が国が将来に向かって科学技術分野で果たすべきことに関する展望を踏まえた上での評価対象事業の展開を図るための方策如何、という視点から評価を行うこととされた。委員会は審議にあたりこれらの視点を踏まえ評価を行った。(資料6参照)
委員会は、この機会に我が国における科学技術情報流通の現状を踏まえた審議を行い、その中で事業団の事業の評価を行うとともに、それを越えるものについては、事業団から科学技術庁等に対し本委員会での意見等を提言してもらうこととした。
部会では先ず評価対象となる事業を予算の性格と事業の性格を考えて、文献情報関係事業、一般会計事業(公募型事業を除く)、一般会計事業(公募型事業)の3つのグループに分け、それぞれについて、異なる尺度によって評価しようと試みた。事業別の評価を行った後、このような分割によって、それぞれの事業が相互に関連することで生ずる問題や、全体的な問題を見逃すことがないよう、総合的な観点から評価を行った。評価にあたっては、科学技術会議第25号答申「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進事業のあり方について」(平成11年6月2日)を踏まえ議論を行った。部会では、京都大学、(株)国際電気通信基礎技術研究所、(財)地球環境産業技術研究機構、松下電器産業(株)を訪れ、事業団の文献情報提供事業などに関する意見を交換した。
部会における具体的な評価に当たっては、「「科学技術情報流通促進事業評価部会」の進め方について」における『基本的な考え方』に基づき評価を行った。また、同資料で『事業団への部会からの質問の例』を提示し、事業団から質問事項に対する回答を受けた。(資料7参照)
こうした討論や意見交換、調査を踏まえて、委員会では、今回評価の対象とした事業に関わる意見を以下のように取りまとめた。
第2部 評価結果
既存個別事業
(1) 文献情報関係事業
情報基盤整備事業
(ア) 収集事業関係
科学技術はその発展に伴い分野の広域化・細分化に向け常に変化をしている。また、成果の発表媒体も多様化している。この様な中で、限られた原資をもとに、各分野の主要な文献を中心に科学技術情報を網羅的に収集・管理している本事業は、我が国の科学技術の振興にとって重要な、しかもこの様な形としては唯一の事業として大きな役割を担っている。
科学技術の変化に対応し、内外における新規ジャーナルの発刊等に関する状況を継続的に調査し、有用な文献を情報資源として柔軟に収集・管理するためには、文献を適切に取捨選択することが求められる。取捨選択にあたっては、@投稿数が一定規模以上あり、かつ投稿に対して採択率の厳しいジャーナルを重視すること、A利用率の低いジャーナルの場合であっても利用者や科学技術の動向に造詣の深い有識者の意見を聞き判断すること、等を考慮すべきである。また、科学技術の各分野におけるコアジャーナルが漏れなく収集されているかの評価を定期的に行うことが求められる。
情報提供事業において提供内容の主要な部分となっている医療情報について利用者の観点から見ると、症例や副作用報告等を網羅的に収集し提供する必要がある。不完全に内外の文献を収集するよりは我が国で公表されている文献をさらに網羅して収集することに重点を置くべきである。
情報資源としての文献の収集・管理は、逐次情報の提供という役割だけでなく、将来への継承の役割もある。事業団はデータベースの作成のもととなる文献を管理しているが、その永久的な保存が義務づけられているわけではない。しかし我が国にとっては研究開発を進める上でも、過去のオリジナルな文献の存在は遡及検索を行う上で不可欠であるので、国立国会図書館との間で入手すべき文献の選定についての調整を行うとともに、国立国会図書館の保有しない文献については事業団が責任をもって保存する必要がある。
情報伝達媒体は紙媒体から電子媒体へと移行している。しかも多様化している。特に学会誌ばかりでなく、ウエブサイトのみで提供される報告も存在するようになってきている。このような状況をふまえデータベースの対象としてウエブサイトも考えるべきではないか。その場合には書誌事項として当該URLを記載することとなろう。
(イ) 加工事業関係
内外の主要な科学技術文献を対象に文献情報の提供を目的とする当二次情報の加工事業は、非常に重要な事業である。特に検索ツールとなる索引データの作成、情報内容を紹介する日本語抄録データの作成は、人手と経費を要する大変な事業であるが、情報流通の観点から意義ある事業である。
情報提供の基本的責任として、網羅性とともに迅速性と正確性を保証する必要がある。索引データの作成および抄録データの作成は知的作業であり、基本的には人手で行わざるを得ない。この結果、やむなく情報提供までに相当の時間的な遅れが生じている。ただし、この問題を回避するためには次のような検討課題があると考える。
資料の入手から、情報の加工、提供までの工程管理の改善、革新に対する常なる創意工夫の必要性
情報処理技術の研究開発成果の応用に伴う情報加工方法の改善
 具体的に下記の事項の検討が急がれる。ただし、提供情報の内容とも係わりがあるので、常にマーケット調査を行い利用者の要求を反映する必要がある。
(a) 索引データ付与の自動化の検討
 近年のテキスト処理技術の発展に伴い、インターネット対応の検索ロボットに代表される様に、索引データの自動抽出処理は実現している。ただし、現時点においてその精度には多くの問題があるが、自動抽出処理方式においては検索システムの機能(特に、レレバンス・フィードバック機能)と組み合わせ、Pre-indexing(事前索引法)を回避する方式で情報提供がなされていることから、フルテキスト検索システムの動向を視野に入れ、新たな技術を利用して情報の加工工程の短縮化、経費の削減を図る必要があると考える。
(b) 抄録データ作成の自動化
 抄録データの作成に関しては、既に要約の自動作成が実現している。索引語の自動抽出に比べその精度は現時点では落ちるが、採用の検討の価値はあると考える。
 ただし、上記2件の自動化には、正確さを保証するため、処理結果を人手によりチェックし直す機能が当面の間必要と考える。
著者抄録利用の検討の必要性
 著者抄録は内容が偏向する危険があるが、時間的な遅れを回避するために利用する価値はある。このことは経費削減にも大きく寄与する。
抄録データそのものの価値の検討の必要性
 抄録データの意義は文献内容の紹介にある。しかし、現時点の抄録データは、いわば指示的抄録であり、この程度の抄録であれば当該分野の専門家にとっては著者名・標題から想定される原文献の価値判断に対して付加的な意味があるとは言えず、抄録データ作成の費用対効果から考え、有効価値を見い出せない。抄録データを作成するのであれば、著作権の保護との整合性を確保した上で、例えばケミカル・アブストラクツにおける構造式のようなものを付加するなどの工夫をして内容に意味のあるものとすべきである。また、MEDLINE(米国国立医学図書館の運営する医学文献情報システム)の索引法のように、索引データ自体に意味を持たせる工夫も必要であろう。このことは、英語記述の文献の抄録に対してもいえるが、特に日本語記述の文献の抄録データに対してこの感は強い。一方、抄録データは科学技術振興の一翼を担う情報資源として、科学技術に関する基本的な知識を得られるという観点から、社会人教育を含む教育資源としての役割もある。これらの視点をふまえ、現在の形の抄録データの価値については、費用対効果の観点から根本的な検討を行う必要がある。
情報提供事業
情報提供事業の効率化に当たっては販売システムとマーケティング活動を有効に機能させるべきである。そのためには、販売システムを適切に構築するとともに、需要サイドの要求・要望を早く、的確に掴む必要がある。前者については JOIS(JICST Online Information System)のSTN(Scientific and Technical Information Network)への移行が予定されている。移行自体は利用者に対するサービスの向上が伴うものであれば肯定的にとらえるべきものであるが、その際には、@コマンドの変更等に対応できるようユーザーに対して十分な支援を行うこと、A今後STNのバージョンアップが行われる場合はJST系ファイル(JICSTファイル、JMEDICINEファイル等の日本語データベース)についても他のファイルと同等に行うことを契約上確保しておくこと、B利用者の情報の保護に関し契約だけでなく、運用上の対処の検討を行うこと、の3点を措置しておく必要がある。後者については事業団のマーケッティング活動を見ると潜在的需要者の把握なども十分にできているとはいいにくい状態にある。このことは事業団組織の本質的問題とも考えられ、場合によっては提供事業を民間企業に行わせることも検討すべきではないか。その際に当該企業から事業団に支払うべき金額の算定方法は、別途政策的に決定すべき課題である。
網羅的な情報提供は重要なことであるが、価格設定は例えば情報分野別に行い価格が費用を反映する形とし、利用者と事業団の間で文献情報に関する適切なマーケットを形成していく必要もある。この際、例えば科学技術文献速報の各編を学問分野別に分けるなどデータベースの細分化も検討すべきではないか。
価格やサービス形態の決定に当たっては、利用者の使用形態を踏まえた上で柔軟な料金体系やシステムとすべきである。適切な対応がなされないと、例えば、現在よく利用されている医療関係情報についても、これまでの保険制度に支えられた医療経済事情が厳しさを増していき、医師個人がインターネット接続によって自ら検索するようになると、現在のJOISシステムでは価格、検索システムからみて、他の情報提供システムなどに取って代わられることになろう。
サービス形態については、例えばインターネット経由で検索した文献情報について、クレジットカードによる決済を可能にすることが考えられる。
教育利用の促進を一層進めるべきである。全国の大学で情報リテラシー教育の必要性が高まりデータベース検索演習などの試みも増えているが、良質な教育資源がない。JOIS等の資源は良い教材となるので、教材用に無料IDを配布してJOISを知ってもらう必要性がある。また、研究利用に際しても、非営利団体や学術利用での割引を考慮することが望まれる。事業団が現在試行的に進めている大学・国公立試験研究機関等に対する固定料金制は効果があると思われるので推進すべきである。
複写サービスは工学分野での利用が多く、特に外国誌の複写依頼が多い。複写サービスは手に入りづらい情報を素早く入手するためにぜひ必要であり、国内でセンター的な機関が必要である。大学図書館でも分野毎に拠点はあるが(分担収集方式)、必ずしも網羅できないほど学術誌は増加している。関係機関(国立情報学研究所(旧学術情報センター)、国立国会図書館)と調整して、事業団でなければ入手できない学術誌を揃えてほしい。
複写サービスについては、著作権法に新設された公衆送信権を含め著作権処理について、著作権関係団体と検討する必要がある。より簡便な著作権処理を行うためには集中的な権利処理体制を整備することが望まれている。
翻訳サービスは、民間事業との兼ね合いを考慮する必要がある。
英文データベースサービス事業は、近年の機械翻訳システムの精度向上から、検索語を日本語へ翻訳するシステムを検索システムのインターフェース機能として提供し、検索結果を利用者自身が機械翻訳システムを利用し翻訳する方式を周知徹底させることで十分と考える。
総括的事項
事業団は12年ファンド計画に基づき、事業開始以来初めてコスト意識に基づき原価の縮減に努めているとのことであるが、データベースサービスや複写サービスについてはサービス方式の改善に更に努力し、より一層利用しやすい価格とすることが望まれる。
諸外国における同種事業の運営・営業形態を研究し、参考にすべき事項があればいつでも導入するような努力が日頃から求められる。
科学技術の発展に伴う分野の広域化・細分化や発表媒体の多様化により、文献の種類は増加している。これに対して収集原資の増加には限界がある。一方、科学技術の振興および国家の安全保障的な観点からは、科学技術情報の網羅的な収集・管理が要請される。このような相対する矛盾に対応するには、特にインターネットの発展に鑑み、当事業の将来へ向けての根本的な見直しが必要になる。具体的には、電子ジャーナルを主に選択を行い、版元にて標準化二次情報を提供してもらい、それを文献情報として提供し、検索結果を利用者自身が版元から直接得る方式に変換することが考えられる。このためには、出版物の納本制度の様に、二次情報の提供義務の制度化、版元においては電子化、その上での二次情報内へのURLの取り込み等の整備が必要になる。これらのことは事業団の電子情報発信・流通促進事業(電子ジャーナル)で行われることになったので、その普及、拡充が不可欠である。
国の重要施策である科学技術の振興を図る上で科学技術に関する情報はまさに基盤資源であり、その流通事業(情報の収集・管理・提供)は基盤的な事業として位置付けられる。科学技術の研究開発成果の記録物である文献は、人類の共通知的資源として将来に継承すべき資産である。また我が国の教育資産としても重要な資源である。国はこのような事業が我が国において全体として確実に遂行されることを確保する責務を有している。このような観点から、関係機関の連携、協力の強化が必要であり、例えば国立国会図書館との間では、先に述べたように収集に当たっての調整を図るとともに、国立国会図書館が保有していないものは事業団が責任を持って保存すべきである。また文献情報関係事業の実施にあたっての国の資金はすべて産業投資特別会計で賄われているが、これは必ずしも適当とは思われない。産業投資特別会計は、将来的には自ら採算の取れるような事業へ出資することを目的としているが、科学技術情報の中には利用者が負担するという考え方では維持できないような知的資源としての価値を有するものがある。このような情報を対象とする事業は、出版物の納本制度に伴う書誌サ ービス事業(国立国会図書館所管)、気象観測に伴う気象情報提供事業(気象庁所管)や学術情報サービス事業(文部省国立情報学研究所所管)等から明らかなように一般会計、あるいは一般会計資金の繰り入れの行われている国立学校特別会計で運用されている。科学技術文献情報の場合もこのような範疇に属するものは、国際的な責任も考えあわせると、一般会計での運用を検討すべきである。
(2) 一般会計事業(公募型事業を除く)
高機能基盤データベース開発事業
(ア) 高機能基盤物質データベース
金属、合金、無機物質、高分子について、測定データとスーパーコンピュータによるシミュレーションデータを編集、整理したものであり、他にあまり類を見ない有用なデータベースである。まだ試験段階であるが、スペクトルデータ等さらに高度なデータを含むことにより一層の発展が期待できる。
内外の機関との協力によりデータを充実させることが重要と思われるが、協力に当たってはイニシアティブをとれる程度にまで本データベースの内容を高めておくべきである。なお過去のデータの蓄積と新しい技術に対応するためにはスタッフの充実も必要になる。
(イ) 高機能生体データベース
事業団が中心となって進めてきたヒトゲノムに関する解析結果のデータベースであり、世界の公開データの約5%を占め、ヒトゲノムプロジェクトのわが国における重要な役割を担っている。
本事業を価値あるものとするためには、ヒトゲノムプロジェクトに参加している内外の研究機関と協力し、研究にとって有用なデータベースとする必要がある。また今後は、遺伝子の個体差と健康状態の関係(多型情報)についてのデータベース作りなどに関しての高度な活動が期待されている。
(ウ) スーパーコンピュータシステムの運用
既に非常に混雑しており平均稼働率は80%にも及んでいるため、現有設備の有効利用をはかるとともに、早急なシステムの増強が必要である。
研究情報流通促進システム開発事業(分散型デジタル・コンテンツ統合システム)
インターネット上に分散しているデジタル・コンテンツを集約する技術はいわゆる検索ロボットとして民間で広く開発が進められている。そのような中で事業団が新たなシステムを開発するという以上は民間検索エンジンに対して十分差別化できなければならず、そのためには、辞書を高度化するとともに、このシステムが研究情報の内容を認識し、知的な処理を行ってその結果を発信する必要がある。電子ジャーナル、文献データベース、化合物データベースなどとのリンクも欠かすことができない。
この事業は公的機関の活動の納税者に対する情報開示という側面があり、無料で提供すべきものと考える。
各研究機関のホームページを充実させるための支援も必要である。そのような支援が情報公開の効率的な実施を促進するとともに、本事業の有用性をより高めることになる。
電子情報発信・流通促進事業(電子ジャーナル)
経済的にも技術的にも基盤の弱い学協会が利用しやすい形で我が国が遅れをとっていた学術雑誌の編集の電子化及び電子ジャーナル化を促進する事業であり、電子ジャーナル化で先んじている外国の支配に我が国の学術出版活動が屈することのないよう先手を打ったことは高く評価される。今後、様々な分野の学会誌に広げるとともに、広く学協会への技術的支援を進めることが重要である。
論文提出から出版にわたる電子ジャーナル化について、国立情報学研究所の方式はソフトを提供し運営は学協会に任す方式であり、事業団の方式は24時間サービスの全天候型である。両者の分担および相互協力については常に調整を図る必要がある。事業団の方式については多くの学協会が利用できるシステムとすることが重要である。我が国の学協会の財政基盤が貧弱であることを考慮すると、このような形での支援は日本的解決方法として有効である。
電子ジャーナルが広く利用されるか否かは、海外の有力ネットワークとのリンクの如何にかかっている。世界的な基準となりつつあるPDF(Portable Document Format )方式を採用したことにより、海外に向けての情報発信メディアとして可能性を秘めている。また、本事業により電子ジャーナル相互および文献データベースとのリンクを張ることが可能になるが、遡及分の電子化が問題となろう。電子ジャーナルデータの永久保存を保証するシステムも必要である。
我が国の学会誌を国際的に競争力のあるものとしていくためには、投稿から出版までの期間を短縮していかなければならないが、そのためにも本事業は大きな意味がある。そうしないと良い論文が集まらない。
今後はPDFの内容まで含めた全文を任意のキーワードあるいはJICSTシソーラスで検索するような付加機能をもたせたり、逆にJICSTファイルに自動的に抄録情報を吸い上げるシステムなどを開発し、事業団独自の情報資源と有効にリンクさせることが望ましい。
論文提出から出版まで、また出版後の引用検索など、学協会により様々なスタイル、習慣、作法があり、これらに統一的に対応することは困難であるので、できるだけ柔軟なシステムにするとともに、学協会にメリットを与えつつ論文のフォーマットの標準化を事業団が中心となって進めてほしい。また、各学協会ごとにロイヤルティ、複写料を決められるシステムとすることが望まれる。
事業団の事業の評価としては前述の点を指摘した。ただし、我が国の学協会発行の論文誌が有する課題は電子ジャーナルや事業団のセンター機能の提供だけでは解決しえない問題点を含んでおり、それぞれの学会が学会誌のあり方を含めて真摯に自己点検を行うとともに、国としては、刊行物助成のための科学研究費補助金の充実などを図る必要があると思われる。
現在のところ、民間が発行する科学技術関係の雑誌は対象に入っていないが学術的なものについては事業団が対応する可能性も考えられる。
学会誌の電子化の離陸を図ることを目的とする本事業はそもそも民間ベースでできるのではないかとの意見もあるので、ある程度軌道に乗ったら民間に委譲するなり、適当な料金を設定するなりして、民業とのバランスを考慮すべきである。この事業は、国際会議などの開催にあたってのプロシーディングス(予稿集・報告集)の発行と重なる面があるが、コンベンション事業についてはすでに民業が立ち上がっており、民間に任すのが適当であろう。
新産業創出総合データベース構築事業(ReaD等)
かなり多くのアクセスがあり、広く利用されていることは評価できる。
 この種の情報公開は、国の機関の公開性を高める意味で必要なことであるが、研究者の個人情報の開示と裏腹の関係にあり、企業の営業活動に利用されるなど不適切な使用により被害を受けることもあり得る。網羅的で有効なデータベースとするためにできるだけ多くの研究者からデータを集めるためには、当該研究者の承諾を得た上で公開するだけではなく、個人データの不適切な利用を防ぐ工夫が望まれる。
公的な研究機関の研究者や研究活動のデータベースは種々あり、研究者は毎年数種のデータの提出や入力を求められうんざりしている。他省庁や大学関係も含めて、どれか一つ、例えばこのReaDに統合すべきである。
研究情報流通高度化事業(省際ネットワーク)
省際研究情報ネットワーク(IMnet:Inter-Ministry Research Information Network)を、省庁の壁を越えた情報インフラとして構築し、運営していることは高く評価される。今後とも、日進月歩のネットワーク技術を採り入れ、より高度なネットワークにすべきである。
現在のサービスを今後とも継続し、増加するニーズに応えるよう一層の強化を望む。アジア太平洋高度研究情報ネットワーク(APAN:Asia-Pacific Advanced Network)や TransPACプロジェクトなどの国際的な共同プロジェクトを積極的に進めるべきである。
学術情報ネットワーク(SINET:Science Information Network) やギガビットネットワーク (JGN:Japan Gigabit Network)、商用ネットワークなどとの緊密な相互運用を進めるとともに、全国にアクセスポイントを増設し、地方自治体の公的試験研究機関等との接続も推進すべきである。
研究情報国際流通促進事業
この事業は、本来国がイニシアチブをもって情報発信すべき内容であり、これまで採算性を必要とする予算で行なわれてきたことは不適切である。現在は一般会計事業として継承され、これまでのデータも統合されるとのことで、今後の発展が期待される。
APEC諸国のニーズについて充分把握することが必要である。また、一部では既に利用されているが、機械翻訳システムの活用が有効であろう。
共通事項
一般会計事業(公募型事業を除く)は、データベース、ウェブ、計算サーバ、ネットワーク、電子出版支援など多くの異なる事業を含んでいる。それぞれ、さまざまな経緯を経て事業団の事業に取り入れられたものであり、個別的には積極的な意義が認められる。しかし、あまりにも多様であるために、全体としては事業団がこの分野で何を目標に活動しているかが不明確になっている。
委員会としては、事業団が多様な事業を整理し直して、より明確な形で再構成することを提案する。もちろん、各事業毎の予算の執行目的との整合性を考えると、実際には難しい面もあるが、外部に対して活動を情報提供する時は、予算の論理ではなく、利用者の視点に立った展開をすべきであろう。
データベース、学会誌の電子化、検索エンジンすべてを含めると新しいビジョンが見えてくるはずである。そのような新しいビジョンを描き事業を進めていけば、ある時点で質的な変化を起こすことができよう。
(3) 一般会計事業(公募型事業)
計算科学技術活用型特定研究開発推進事業
この事業の目的は、特定分野の研究開発の推進とされている。事業団の指定する物質・材料、生命・生体、環境・安全、地球・宇宙観測の4分野が重要なコアとなる分野であることは認めるとしても、事業団が従来から進めてきた文献情報関係事業の最重要分野である医薬関係の専門家が課題選考委員に存在しないことは従来事業との関係が希薄であることを物語っている。
本事業の狙いは必ずしも明確ではないが、一例を挙げれば、3年間という限られた期間の中で特定の研究開発を行うにあたってモデルを組立てシミュレーションの手法を用いて結果を予測するとともに実験で検証し、その結果をシミュレーションモデルの高度化にフィードバックすることを狙いとしているものと考えられる。しかしながら計算科学技術の活用という名称から、得られたソフトウエアを直ちに一般的活用につなげることや、全く新しいOSの開発等をこの事業に期待する考えも強くある。そういう意味で本事業を実施するに当たっては、シミュレーション機能の高度化を初めとする新しいソフトウエアの開発を目指すのか、あるいはネットワーク利用の高度化に重点があるのか、それとも特定分野の研究開発のレベルを上げるのか、そのいずれを本質的な目的とするのか課題応募者に対し明らかにする必要がある。
もし、この事業がシミュレーション機能の高度化を一義的な狙いとするものであれば、成果が現実の社会に役立てられるという側面をより重視すべきであり(例えば長大橋等の大型構造物の設計に当たってのシミュレーションに役立てられることなど)、ユーザーニーズにマッチした課題選定を行う必要があろう。そのようなニーズを踏まえた上で得られた成果をライブラリー化し流通させることにより事業として成り立たせることをも条件とすべきではないか。
我が国における計算科学技術の水準が米国等と比べて劣ることは広く認識されているところであり、事業団としては折角の機会であるので、既存分野で地位の確立した研究者が若干ネットワークの利用やソフトウエアの作成に関与しているからというような観点から課題を採択するということではなく、計算科学技術の発展をもたらすというこの事業の新規性を深く認識した上で事業の運営に当たってほしい。当然のことながら、そのためには年間4課題という現在の採択数ではあまりにも貧弱である。
研究情報データベース化支援事業
民間に情報を提供できる観点からテーマを選択すべきではないか。
データベースはメンテナンスしないと無意味であり、貴重ではあるが活用されるような状態になっていないデータベースを国としてどう位置付けるのかという視点からの政策を持つことが必要である。現実にはメンテナンスに対する支援への期待は高い。そのためにも民間に役立つようなデータベースとなる課題を選定すること及びそのようなデータベースの存在を広く認識してもらうことが必要である。その際、少なくとも事業団のデジタルコンテンツ統合システムなどを用いて積極的に公表していくことを考えるべきではないか。
データベース化支援は3000万円/年で3年間という短期ではなく、メンテナンスも含めより長期にわたる継続的な支援をして、その分野では世界に通用するものにする必要がある。
共通事項
本事業分野においても、事業団の強みを活かすことを前提とした事業の方向性の明確化をすべきである。
そのような観点から他の事業との関係、重点分野の設定、課題採択方針(選定委員の選考)について工夫すべきである。
総括的事項と科学技術情報流通政策関連事項
 20世紀における科学技術の進歩は物理学、化学、生物学などのサイエンスにおけるパラダイムの転換や輝かしい技術革新などに色どられてきたが、その一方で、環境面、倫理面などでの大きな課題も顕在化している。21世紀のスタートを前にして科学技術の発展は転換期にさしかかっているが、このような中で情報科学技術は21世紀の社会をこれまでとは質的に異なったものとするかのような勢いで発展している。
(1) 科学技術会議 第25号答申と事業団の事業について
今回の機関評価の対象となった科学技術情報の流通について、科学技術会議の策定した「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」に関する第25号答申(平成11年6月2日)は、科学技術情報が人類全体の重要な資源であるという観点からネットワーク時代の科学技術情報の形態及びその流通の在り方を分析するとともに、摘出された課題に対応しネットワーク時代に対応した科学技術情報の円滑な流通を実現するために戦略的にとるべき課題を明らかにしている。
この答申は、インターネットとワールド・ワイド・ウエブに象徴される情報技術の急激な進歩が、科学技術の情報流通に革命的な影響を与えるであろうという認識を前提として、国の採るべき方策を論じたものである。当然、事業団に関係する課題も多いが、全体としては、はるかに大きな規模の問題が論じられている。今回の評価を行うに当たり、委員会では常に第25号答申を念頭に置いて、討議を進めてきた。このことは、時に当面の機関評価の枠を食み出すものであった。こうした場合は、事業団の評価というよりは、この答申の精神を踏まえた参考意見という形で、委員会が討議したことを残すよう努力した。
(2) 新しい情報科学技術のインパクト
機関評価を行うに当たっては、短期的な視点で考えるよりも少なくとも10年程度は先を見た上で判断していくべきであるが、今日のWWWの重要性を10年前に理解していた専門家がほとんどいないことからわかるように、このようなタイムスパンで考えることは容易ではない。しかしながら、インターネットとWWWに関連する新しい情報科学技術の急速な発達は、今回評価の対象とした全ての事業の将来に大きなインパクトを与えることは確実である。特に科学技術文献に関しては、学会誌を嚆矢として電子ジャーナルへの移行が進み、自由に、あるいは限定的にではあってもインターネットでの閲覧が可能となりつつある。検索エンジンの進歩を併せて考えると、データベースを介さないでも自由な検索が可能になる。このようなシステムは、事業団が一般会計で進めている電子ジャーナルや分散型デジタル・コンテンツ統合システムの発展と深い関係にある。文献の抄録作成についても科学技術庁科学技術政策研究所が1997年に明らかにした技術予測によれば、「図書、資料の要約・抄録を自動的に行う装置(要求により任意の圧縮比で出力ができる)が開発される。」という 設問に対し実現予測時期は2009年とされている。この質問項目は1992年に実施した同様な調査の結果によれば2010年に実現するものと予測されており、5年を経過した後の調査において実現予測時期が1年繰り上がったことからわかるように、その実現性は大きい。もし、これが可能になればフルテキストからの自動抄録作成もかなり現実的なものとなってくるし、これを更に機械翻訳による英文化と組み合わせれば、若干正確性は劣るが海外に向けての情報発信も格段に容易になる。
このような状況を踏まえると、インターネット上に存在する、@統合的に検索できるデータベース群とA検索エンジンによって検索可能なテキスト情報の両者をどう連動させるかが大きな課題となる。また、これまでは独立に扱われてきた、フルテキスト、その抄録及びデータベースの三者をどう連動させるかが新しい課題として浮上してくる。その際、著作権制度との連携も大きな課題である。科学研究の中では爆発的にデータが増大している生命科学や環境科学の分野では、データや知識をどのように蓄積し、どのような方式で検索するかが、研究を展開する上で極めて重要になってきている。このことは、大規模なデータや知識ベースを解析することによって新しい知識を生み出す方法論の重要性を意味している。こうした方法論は、データマイニングや知識マイニングと呼ばれる。計算科学技術活用型特定研究開発推進事業においては、当然こうした方法論の研究が提案されるだろう。
こうした流れは当然データベース開発支援事業の見直しをも迫るものでもある。これまでのように申請者の求めに応じて従来型のデータベースの開発を支援することばかりでなく、新しいデータベースの開発を支援しなければならない。また、情報媒体のウエブサイトへの急速な移行に伴い、情報資源の維持、管理に関しての新たな問題が発生してくる。即ち、版元における情報資源の維持、管理が商行為で行われる以上、将来にわたる継続性が保証されるわけではないことから、情報提供の継続が出来なくなった場合は情報源としてのウエブサイトの継続性を国として確保すべきではないかと考えられる。特に、科学技術分野では既に重要なウエブサイトがあるにもかかわらず、国としてこのような観点からの動きもないので早急にその対策を講じる必要があり、その実施主体として事業団を視野に入れるべきである。
これらはいくつかの例に過ぎない。現在の情報科学技術の発展方向を勘案するなら、今回、評価対象とした事業の内容はこれから5年ないし10年の間に劇的に変化する。このような事態に対処するため、事業団は今回評価の対象としたほとんどすべての事業を、統一的な理念の下に有機的に連携して進める必要がある。当然のことながら、供給すべき商品については現在の形態の是非を含めて冷静に判断し、先手を打つくらいのアプローチをすべきである。委員会としては、事業団が変化に受け身で対処するのではなく、むしろ積極的に対処することを望みたい。事業団がこうした積極性と進取の精神を示すことは、第25号答申の理想を実現する大きな力になるであろう。いうまでもなく、このような指摘は事業団の事業の範囲を無制限に拡大することを勧めるものではなく、民間ベースでできるものについては、これをできるかぎり民間に任せ、事業団の事業の範囲がいたずらに膨張することのないようにしなくてはならない。
(3) 21世紀の事業団の事業の進め方
21世紀の我が国にとっては、科学技術を継続的に発展させていくための基盤、環境の整備、充実が必要である。国の骨格をなす基盤的なインフラストラクチャーとしては、国防から始まって安全、エネルギー、交通、教育、福祉など多様なものがあり、国家の関与する度合いもそれぞれ異なっている。科学技術情報の作成や流通に関することも我が国の安全保障や文化の維持の観点から欠かすべからざる側面を有しており、国の果たすべき役割も大きい。我が国においては科学技術情報の流通に関しては、事業団の他にも国立国会図書館、国立情報学研究所などがそれぞれの観点から携わっており、その協力、連携が不可欠であるが、特に事業団については国公立及び民間の双方を含めた研究開発関係者に対する全般的な科学技術情報の中枢的な提供機関としての存在意義は大きい。文献情報の作成に当たっては今後如何なる事業が事業団の存在価値を高めることになるのかを明らかにし、その中でどこを国が負担し、どこを利用者が負担すべきかを客観的に考えていかねばならない。国家的視点ばかりでなく、利用者のニーズ、類似データベースの有無などの観点を踏まえて考えると、我が国にしかない 情報を確実にデータベース化していく意義は大きい。利用者側から見ても検索対象となる情報のうち我が国で発生したものはこのデータベースさえ見れば安心できるという状況を作り出しておけば、事業団の文献情報データベースに対する信頼感は高まる。即ち、日本国内で発生した文献に関する情報はすべて網羅することを事業の存在意義、価値と考えることもできる。そのためには国も積極的に負担することとし、特に、利用率は低いが網羅性の観点から不可欠なものに対しては一般会計で賄うことも必要である。これに対し外国文献については、外国のデータベースの存在、21世紀に入れば英語がより広汎に利用されることから英語による抄録を提供すれば済むことも多くなろう。それでも外国文献の日本語抄録を必要とする場合には、要した費用に対応する負担を求める必要がある。
科学技術基本法に基づき政府が科学技術創造立国を目指して努力をしていることにより科学技術情報流通の分野においても従来の文献情報事業ばかりでなく、一般会計からの財源も投入されるようになり、電子ジャーナル、省際ネットワーク、デジタルコンテンツ統合システム、ReaDや公募型事業が行われるようになった。今、事業団に求められることは、多様になってきた手段を活用し、事業団が全体として何を実現しようとしているかの理念を明瞭に示し、その理念の実現に向けこれらの手段を統合的に活用していくことである。
我が国における科学技術情報の流通に関し、事業団は様々な強みをもっている。しかし、事業団自身も科学技術庁もこうした強みにあまり気がついていないか、あるいはそれを意識していない。さらに言えば、現状では仮に気がついていても、事業団がその強みを生かせるような環境条件が整っていない。委員会としては、事業団が今後この壁を積極的に破っていくことを期待したい。また、科学技術庁もそれを支援すべきであると考える。
そうした方向への具体的な努力目標として、事業団の運営に関して3つの提言をしたい。第1は、企業の外部取締役に当たるような外部の人間が事業団の経営幹部に実質的な助言をする仕組みを作ることである。第2は、サービス事業か公募型の研究支援事業かを問わず、情報科学技術の劇的な進歩に効果的に追随できるように、外部のコンサルタントあるいはそれに相当する人間の助言を得る仕組みを作ることである。最後は、変化のスピードを考慮して、大がかりな評価作業を何年かに1回行うのではなく、より短い期間に、素早い見直しを行うことである。さらに監督官庁である科学技術庁に対しては、事業団の自主性を尊重すること、事業団が個別事業を全体として有機的かつ効果的に進めていけるような自由度を認めるとともに、創造性が発揮できるように十分配慮することを求めたい。
おわりに
委員会は、評価対象となる事業をその性格ごとに個別に分析、評価した。その結果、それぞれの事業ごとに改善点や検討すべき課題を指摘したが、全体としていうならば、事業団は様々な制約の下で、これらの事業に誠実かつ上手く取り組んでいると評価できる。昭和33年以来提供してきた文献情報は、販売額からみても我が国唯一の網羅的な科学技術文献情報の提供事業としての役割を確立してきたといえるし、省際ネットワークや電子ジャーナル等の新規事業も社会のニーズと事業目的が合致しており、評価する声がきこえる。
今回の評価は先ずこれまでの事業に対して行ったが、評価の過程で委員会としては、事業団の過去の実績を評価するよりも、明日の姿を考えることが重要ではないかという認識を次第に深めるようになった。
その第1の理由は、我が国の科学技術情報流通政策が先進諸国に比べるとまだ見劣りする段階にあることである。このことは科学技術立国の大きな障害になっており、具体的には第25号答申などで指摘されている。事業団は我が国の直面する課題の解決に寄与できる数少ない国の機関であり、大きな可能性を秘めている。しかし、現在のところその強みは十分認識されていないし、その強みを発揮しようという主体的な動きも鈍い。
第2の理由は、インターネットに象徴される情報科学技術の急激な発展により科学技術情報流通のあり方が急激に変化していることである。こうした変化は、今回評価の対象としたほとんどの事業に大きな影響を及ぼすようになってきている。ここにおいて、過去を評価するより、明日にどう備えるかが重要かつ緊急の課題となってきている。
第3の理由は、2001年に予定されている省庁再編等の行政改革の影響である。それは、国立情報学研究所との関係や、独立行政法人となることが予想される国の試験研究機関や大学の図書館や情報部門との新しい関係である。改革の実現後は、省庁間の人的、機能的協力関係を深めるとともに、ワンストップショッピング的な機能の実現をはじめとして、真に省庁横断的な情報流通施策がとられなければならない。
こうした現在起きつつある情報科学技術の大変革と国家レベルの仕組みの大きな変化を考えると、事業団の使命とその仕事に大きな変化が早晩起きることは明らかである。今回の評価作業に当たっても委員会としてはこのことを考慮しつつ評価を行ったので、委員会の明日への提言がどれだけ事業団に受け入れられ、今後実行に移されるかに関心がある。
 とはいえ、科学技術情報の流通をめぐる事情は、これからも劇的に変化し続けることが予想される。今回明らかにした問題意識は暫くは古くならないかもしれないが、今回の提言の多くは、直ぐ古くなり、見直しが必要になるだろう。さらに、現在保有している人材、施設、予算によって全く新しく事業を考えるなら、今とは異なる目標の設定や進め方がありうるであろう。それ故に、事業団は事業運営と技術面で、外部の識者による事業の見直しを継続的に続ける体制を考えるべきであろう。この報告書が、そうした継続的なレビューに参照されることになれば幸いである。

This page updated on June 15, 2000

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